お金には換えられません?いえ、あなたの「命の値段」は〇✕円です。

2021年8月2日(月)

 コノミです。

 

 新型コロナウイルス感染症の拡大が止まりません。ついに、新規感染者数が1万人を超えちゃいました。死亡率が低いこと、ワクチン接種が進められていることが私たちの脇を甘くしています。

 私たちは幾度となく、「命か経済か」という命題をつきつけられました。こうした議論にあっても、「命」の値踏みがなされる可能性はあります。昨年支給された特別定額給付金でいうと、当初、困窮者に30万円支給するとしていましたが、最終的に全員に10万円支給となりました。命の「公平」が演出されたのです。分かりやすい反面、効果はすごく低くなります。貯金に回した方も多いことでしょう。 

 

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 ワクチン接種の優先順位をめぐる議論を覚えていますか?日本は、医療従事者に次いで、高齢者や合併症を有する方を優先しました。死亡者数を減らすことを優先したのですね。一方で、感染拡大を防ぐことを優先して活動的な若者から接種すべきだったという声もあります。ワクチンは感染自体は防ぎませんが、体内のウイルス量を少なくすることによって他者への感染リスクを低下させることができれば、高齢者等の死亡を減らすことにつながります。また、若者の命や経済活動を救うほうが、日本の将来を考えるとより好ましいという考え方もあるでしょう。

 

 このように、命の価値が問われる営みは常に起こり得ます。もちろん、「命はお金に換えられない」と声を大にして言いたいです。でも、現実はそうはいきません。倫理や道徳だけでは議論できないのです。 

 2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件は痛ましい出来事でした。事件後、「9・11犠牲者補償基金」がつくられました。問題はその補償額です。平均額は死者1人につき200万ドルで、最低額が25万ドル、最高額が700万ドル超でした。命の値段に30倍もの開きが生じたのです。金額の算定に当たっては、一律25万ドルに加え、「経済的価値」として犠牲者の存命中の収入を基準に計算された金額が上乗せされました。未成年は当然低いほうに設定されました。女性の平均額は男性の63%に留まりました。こうして大きな差がつくこととなったのです。

 話はここで終わりません。9・11テロ犠牲者の家族にだけ支払うのは不公平だという声が挙がったのです。それまで起きた数々のテロでは政府は何ら補償は行いませんでした。事件のインパクトが命の査定に影響したのです。当時の担当者も頭を抱えたことでしょうが、現実社会では真の「公平」はあり得ず、できる限り「公平」を目指すけれども、「不公平だ!」という非難を覚悟しなければならないのです。(ハワード・スティーブン・フリードマン「命に〈価格〉をつけられるのか」慶應義塾大学出版会)

 

 命が直接係わる医療ではこのようなことは日常茶飯事です。医療資源は希少です。予算にも限りがあります。買い手と売り手がいてオープンな競争市場で取引される商品とは訳が違います。常に誰かが「選ばざるを得ない」のです。

 1960年、慢性の腎臓病患者のために、ワシントン州立大学人工透析器が開発されました。それまで亡くなっていた患者が救われることとなったのです。大学附属病院に導入された透析器は3台でした。問題は治療する患者を誰にするかということでした。

 医学的観点から患者が選ばれましたがさらに絞り込む必要がありました。弁護士などから成る市民委員会に委ねられた結果、治療のため病院近くに引っ越すだけの資産があること、治療後に仕事に復帰できること、社会貢献の可能性が高いこと等が基準となりました。こうして「命の値段」が付けられたのです。その後、批判を受けて同委員会は廃止されることとなりました。(香川知晶「命は誰のものか」ディスカヴァー携書)

 かといって「くじ引き」が公平になるでしょうか?イギリスの倫理学者ジョン・ハリスが提示した「臓器くじ」という思考実験は、臓器提供者をくじ引きで決めるという設定です。自分や大切な人が当たるかもと考えると釈然としないでしょう。(北村良子「論理的思考力を鍛える33の思考実験」彩図社) 

 

 こうした問題に正解はありません。状況に応じて、どういう「考え」の下でどの方法を採るかということに尽きます

 ワクチン接種の優先順位もそうです。でも、もっと国民を巻き込んだ形での議論があっても良かったのではないでしょうか。接種が急がれる中、学識経験者から成る審議会で決定されましたが、1日でも国民から意見を募集して検討の俎上に載せるプロセスがあっても良かったのではないでしょうか。最終決定に対する「不公平だ!」という非難に対し、説明の覚悟ができるからです

 命をお金に換算することは考えたくありません。でも、考えなければならない事態が起きた時にどうするか、私たちなりの「考え」を持っておくことが大切なのです。

 

新型コロナが炙り出した「日本ワクチン問題」の本質!

2021年7月26日(月)

 ハルです。

 

 ついに東京オリンピックが始まりました。新型コロナウイルス感染症の影響で、無観客試合をはじめ制約の多い大会となりますが、アスリートたちには頑張って頂きたいです。

 ところで、切り札のはずであったワクチン接種ですが、改めて我が国の問題点を浮き彫りにしました。具体的には、①ワクチンを国内でいかに受け入れてもらえるか、②ワクチン製造をいかに国内で進められるか、③ワクチン接種体制をいかに確保するか、の3点です。

 

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 まず、ワクチンそのものの受け入れです。ワクチンを提供する根拠法は1948年に制定された予防接種法です。どこまで国が介入し、どこまでを個人の判断に任せるのかが示されたのです。

 しかし、1970年代以来、ワクチン被害に対する国家賠償訴訟が提起されました。代表的なのはMMR3種混合ワクチンや風疹ワクチンです。報道も一役買いました。介入する側の国としても慎重にならざるを得ません。近年話題になった子宮頸がんワクチンはその罠に嵌ったと言えるでしょう。8割の接種率を誇るオーストラリアでは2066年に子宮頸がんの撲滅が予想されています。毎年約3500人が死亡している日本として本当にこのままで良いのでしょうか?(谷本哲也ら「ワクチン診療入門」金芳堂

 国はワクチンの有効性をもっとアピールすべきです。世界規模ではワクチン接種により年間200~300万人の死亡が予防されています。有害事象の確率は、不活化インフルエンザウイルスワクチンだと100万接種当たり1~2回程度です。効果を考えれば推奨すべきなのです。 

 そして、今回、興味深い現象が認められました。結核のワクチンであるBCGを国民に広く投与している国は新型コロナウイルスによる死者の割合が数十倍低いという結果が得られたのです。また、BCGに限らず、ワクチンによる「訓練免疫」が期待できます。アメリカでは過去1~5年にワクチン接種を受けた人は新型コロナ感染のリスクが低下したという報告があります。様々なワクチンを接種することによって免疫力をアップできるのです。こうした相乗効果と一緒にワクチンに対する理解を求めてはどうでしょうか。(宮坂昌之「新型コロナ7つの謎」講談社

 

 2点目はワクチンの製造です。ワクチンの開発・製造には500億円を超えるお金が必要です。開発から出荷可能になるまで最低でも数年かかります。コストを考えると企業にとっては割に合わないのです。しかし、ワクチンの年間市場規模は世界で約3兆円、国内だけでも2千数百億円とされています。それ以上に、感染拡大による国内経済への影響を考えると、予防への投資はもっと重視されてもよいでしょう

 2018年、ジョンズホプキンス大学のグループがいずれパンデミックが来ると警鐘を鳴らしていました。そしてその犯人も、感染性が高く、無症状又は軽症が多く致死性が高くないRNAウイルスと予想していました。新型コロナウイルスはまさに予言的中だったのです。ということは次もあり得ると考えるべきです。

 ワクチンの候補は、今回登場したmRNAワクチンが挙げられます。これは短期間で大量生産できます。「人工抗体」も候補です。複数混ぜて使えば変異株も不活化できるというメリットがあります。こうした最新技術を日本は獲得しなくてはなりません。安全保障として、国は企業支援を積極的に行うべきなのです。 (浦島充佳「新型コロナ データで迫るその姿」化学同人

 

 3点目はワクチン接種体制の確保です。開業医の協力を得ることで、かろうじて接種体制を確保できている状況です。そして、開業医の元締めである日本医師会は他業種による接種体制にとても慎重でした。そもそも論として、日本は国家的な緊急事態に一丸となれない弱さがあります。要因として、日本国憲法にいわゆる「緊急事態条項」が存在しないことが挙げられます。憲法の見直しを視野に入れることも必要でしょう(百地章日本国憲法 八つの欠陥」扶桑社新書) 。

 データ環境の整備も重要です。 小児だけでなく成人になってからも予防接種を受けることが必要です。百日咳、日本脳炎帯状疱疹等は加齢とともに免疫力が弱って、かかりやすくなるからです。このため、PHR(Personal Health Record)によって、個人の医療・健康情報を生涯にわたり管理する一環として、ワクチン接種歴についても掲載すべきです。これを使えば予防接種のタイミングを適切に管理することが可能となります。

 

 以上の提案は総合的なものです。単独の組織体で対応できる話ではありません。怖いのは、新型コロナウイルスの感染が収まれば、こうした面倒なことが忘れ去られることです。「ワクチン問題は安全保障問題」という意識でもって、感染の収束後すぐにでも関係者が一丸となってとりかかる必要があります

 

「コロナショック」がやってくる!地域銀行はどこへ行く?

2021年7月19日

 フィナよ~。

 

 新型コロナウイルス感染症の拡大による経済危機、いわゆる「コロナショック」は今のところ最小限に抑えられているわ。過去に例がないくらい倒産が減少しているの。2020年の倒産件数は7809件で、8000件を下回るのは実に20年ぶり。2021年も今のところ低水準よ。

 政府による迅速な支援策に加えて、取引先が事前に取引縮小や前金制にする等の保全策をとっていたおかげね。倒産した企業はもともと厳しい経営環境にあったみたい。(帝国データバンク情報部「コロナ倒産の真相」日経プレミアシリーズ)

 でも、リスクは去ったわけじゃない。むしろ、これから徐々にやってくるわ。鍵を握っているのは地域銀行。これからの地銀の行方に注目よ。

 

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 「コロナショック」とバブル崩壊の違いって分かる?それは、地銀自身がメインバンクとして企業支援を行う必要があるということよ。

 バブルでは、大手銀行が地銀の貸出を肩代わりするなどして負担が集中していたせいで、ショックは大手銀行を直撃したの。その結果、彼らは経営方針を変えることを余儀なくされた。結局、大手23行の名前は全部変わったけれど、地銀は変わることはなかったわね。 

 でも、今回はそうはいかないわ。影響を受けた陸運、小売、宿泊、飲食サービス、生活関連サービス、娯楽、医療福祉のいわゆる「コロナ7業種」について、地銀の融資残高に占める割合は約22%と国内銀行全体の約16%よりも高いの。そして、7業種の特徴は対面を基本とする労働集約型サービス。だから、「人」によるサービス提供に制約が生じたことによって資本が消えてしまったの。加えて、7業種は生産性が低く、返済必要年数が長い。地銀が大きなリスクを抱え込んでしまったの。 

 

 もっとヤバい話があるわ。それは、マイナス金利政策のせいもあって、世の中が資金余剰状態になっていて、預金と貸出に依存する従来の銀行ビジネスモデルが限界にきているってこと。「異次元の緩和」によって日銀が他行に持たせた「元手」である「マネタリーベース」は増えたけれど、実質賃金は増えないまま物価だけ上昇して消費も増えなかったから、いくら低金利といえど企業は使い道が無いのよ。逆に、円安インフレのリスクが増したわ。長い間見て見ぬふりをしていた事象が突然大問題に発展することを「ブラックエレファント」というけど、地銀にとって要注意ね。(明石順平「財政爆発」角川新書)

 

 これから求められることは2つ。一つは、国全体で金融仲介を効率的に行うマッチングシステムを構築すること。大企業の資金調達は大手金融機関が仲介し、中小企業の資金調達はもっぱら地銀からの融資が中心と棲み分けがあるの。今回のコロナショックはリーマンショックとも違っていて、マクロ全体では資本不足になっていないから、関係省庁が音頭をとって、大手銀行や大企業の資本を中小企業に循環させるという金融仲介を地銀が果たすことによって、全体のリスクを下げることができるわ。

 

 もう一つは地銀の業務多様化による経営立て直しと、「地域包括金融システム」の構築よ。現在の銀行の戦略は、従来のビジネスモデルから総合金融サービス業への転換、すなわち「脱銀行」化よ。内容は、投資銀行的機能、商社的機能、信託機能・資産運用機能などね。中でも事業承継にからむM&Aは急増しているから、M&A仲介のサポートを行うのは手かも。 

 銀行自体の再編も問われるわね。企業支援をするにも1社当たりにかける十分な時間とそのための行員の確保が必要になってくるわ。地銀にも分厚い体制が必要よ。2020年に施行された独占禁止法の10年間時限付き特例法によって、地銀同士の合併が行われやすくなるわ。また、システム統合も含め、地域金融機関の再編を促す「資金交付制度」がスタートするわ。インセンティブ付きで地銀がビジネスモデルを変更し得る最大かつ最後のチャンスね。(高田創「地銀 構造不況からの脱出」きんざい) 

 

 最重要課題は地域の再構築よ。具体的には、資金そのものというより生産性を向上させる企業支援を行うこと。金融庁は、金融機関の中で企業支援者を育成するためのシンポジウムを随時開催する予定よ。(橋本卓典「捨てられる銀行4 消えた銀行員」講談社現代新書

 日頃から足で情報を稼いで地域ネットワークを広げつつ、事業を深く理解し、地域内の関係づくりを発掘し、地域経済の循環を図ること、すなわち「地域包括金融システム」を構築することが重要よ

 渋沢栄一1873年に国内最初の銀行を創立すると同時に約500社もの企業を設立したわ。まさに「地域包括金融システム」を自ら作り上げたの。一見、関係なさそうな事業主体が幾重にも関わり合うことで付加価値やイノベーションが生まれる可能性があるわ。地銀はその橋渡し役に徹するの。これからの活躍に期待してるわ。

 

「日本版民主主義」に与えられた試練・・・コロナ✕オリンピック!

2021年7月12日(月)

 ソシエッタです。

 

 東京オリンピックの開催まであと11日となりました。一方、4回目の緊急事態宣言が出されたことに伴い、西村経済再生担当大臣が、酒類の提供を止めない飲食店について、金融機関からの働きかけを示唆したことが大きな波紋を呼んでいます。

 新型コロナウイルス感染症は日本の「民主主義」の弱点を浮き彫りにしました。自粛要請と経済対策の葛藤、ワクチン接種の優先順位をめぐる諍い。何が問題なのか、これからの日本はどうすべきか、考察してみます。

 

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 民主主義(デモクラシー)の語源はギリシャ語の「デモクラティア」=デモス(人民)+クラティア(制度)です。民主主義は全ての人に権利があることを前提とします。でも、その全てがかなえられることはありませんベンサムのいう「最大多数の最大幸福」を目指しつつ、みんなで富や権力を分かち合うシステムなのです。(宇山卓栄「世界史で学べ!間違いだらけの民主主義」かんき出版)

 古くは、古代ギリシャアテネによる直接民主制が有名です。でも、全員参加型の政治スタイルは現実的ではありません。アテネでも政治に関心を持ち、しかも、兵役を担う「市民」が「民会」に参加していました。

 また、いきなり民主制が登場するものでもありません。国家の発展段階においては人が人を支配をしながら国力をつけていく必要があります。統一ドイツの宰相ビスマルクはエリートによる寡頭政治を理想としました。

 そうして、国家が成熟すれば、民主化への道が開けます。マルクスによれば、政治や文化は、社会の深層にある物質的経済要因の上に現れます。フランシス・フクヤマは、年収100万円付近が民主化が可能となる一つの目安としています。

 しかし、民主制は「ポピュリズム」と表裏一体です。いざ普通選挙法が行われると、民衆は「耳障りのよい」ことを言ってくれる政治を好みます。また、富や権力の「分かち合い」が制限されるパラドックスに陥るのです。

 こうしたポピュリズムへの反発からエリート民主主義の待望論も根強いです。民衆の能力には限界があるため政治のコントロールを任せてはいけないとする考え方です。特に新型コロナ禍のような危機に際しては、強いリーダーシップが求められます。エーリッヒ・フロムは、人々は従属や依存を求めて権威に服従するとき、自分自身が権威であるかのような錯覚を抱くとしました。この理論は、ヒトラーが率いるナチスに利用されました。民主主義は独裁制の危険性もはらんでいるのです。(本村凌二「独裁の世界史」NHK出版新書)

 

 以上が民主主義に関する大まかな論点です。そして、日本の弱点は、政治よりも経済が優先され、実際、経済成長が驚異的に進んだため、民主制を国民レベルで丁寧に議論する時間が無かったことです。一方の国民も、1億分の1人でしかないという立ち位置から、政治へのリアリティを持つことはありませんでした。

 そもそも、戦後から続いているアメリカへの強い依存状況の下では、自国を自分たちの手で守り、育てていくという意識が育ちません。すると、自己の利益を最大にすることが互いに容認されることとなります(白井聡「主権者のいない国」講談社)。

 古代ギリシャでは、私利私欲が優先され、善行が馬鹿にされるようになる中、伝染病や敗戦で政体が混乱を極め、最終的にアレキサンダー大王率いるマケドニアに征服されたのです(中村聡一「教養としてのギリシャ・ローマ」東洋経済新報社)。

 

 新型コロナウイルス感染症に対し、イギリスでは外出制限を国民に課す対策を行いました。国民に社会契約論の論理が徹底していて、法を定める自由と法に従う義務が機能したのです。

 日本でこのような手法を採れない理由はもうお分かりでしょう。「民主主義」に対する共通理解が浅い中、「人権」という一言に立ちすくみ、身動きがとれない状況に陥っているのです。危機に際し、国民に説明を尽くし、説得や決断を行うことができないのです。一方の国民は、緊急事態宣言などどこ吹く風と日常生活を楽しんでいます。(西田亮介「コロナ危機の社会学朝日新聞出版)

 

 改めて、日本人一人ひとりに「民主主義」が問われています。必要なのは、社会的な責任を果たそうとする意識です。どんな政治体制であれ、全ての社会は時間が経てば衰退します。でも、民主主義の強みは、誤りを認め、自ら修正できることです。(フランシス・フクヤマ「政治の衰退」講談社

 新型コロナウイルス対策は、極めて内国的な取組と言えます。東京オリンピックパラリンピックという世界的イベントを抱えながらも苦しみを乗り越えることは、日本としての成長につながります。政府はポピュリズムにもエリート民主主義にも陥ることなく、ひたすら「国民を守る」という断固たる姿勢を貫くべきです。

 今、日本の民主主義の真価が問われているのです。

 

コロナだからこそ、「グリーンリカバリー」(緑の復興)!

2021年7月5日

 エンヴィです。

 

 東京オリンピックパラリンピックの開催が近づいてきました。でも、新型コロナウイルス感染症の猛威は止まりそうにありません。国内ではワクチン接種が進んでいます。ワクチンの効果が出てくれば、今の日本全体を覆う雰囲気は変わってくるでしょうか。 

 

 新型コロナウイルス感染症拡大は「環境問題」です。人間の活動によって引き起こされた不都合は全て環境問題と言えるからです。人口が多く密な環境と、人や物が自由かつグローバルに行き来するシステムが感染拡大を引き起こしました。

 人為的に引き起こされたものなら、人の手でコントロールすることが可能と考えてしまいがちです。しかし、公害問題など過去の環境問題を振り返ってみて下さい。いったん「環境問題」にまでなったものをコントロールすることは至難の業です。新型コロナウイルス感染症も人為的にコントロールするのは容易ではありません。かえって新たな問題を生む可能性があります。(池田清彦「環境問題の嘘令和版」MdN新書)

 では、どうしたらいいのでしょうか。「環境問題」と捉え直して、ポストコロナのあり方を考えることです

 

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 答えとなる考え方は「グリーンリカバリー」(緑の復興)です。新型コロナに対応するため、各国で都市のロックダウンなど経済活動や人の移動を制約する措置が導入されました。二酸化炭素排出量などが減少し大気汚染も改善しました。ハワイの海やベネチアの運河も甦りました。「グリーンリカバリー」は、こうした効果を一時的なものとして終わらせず、以前よりも持続可能で健全な経済につくり変えようとする考え方です。 

 各国の反応は早かったですEUは2020年7月、「次世代EU復興基金」の設立に合意しました。7500億ユーロ(約92兆円)を調達し、このうち少なくとも30%は気候変動に充てることとしました。対象は、再生可能エネルギー、省エネ、水素などクリーンエネルギーへの資金提供、電気自動車の販売やインフラへの支援、農業の持続可能性を向上させるための措置といったものです。

 新型コロナの抑え込みに成功しているアジア諸国も自信をつけたのでしょうか。苦しむ日本を尻目に一歩先を行っています。韓国の文在寅大統領は、環境分野での雇用創出を目指した「グリーン・ニューディール」政策に946億ドルを投じると表明しました。中国の習近平国家主席は、2060年までに二酸化炭素排出量と除去量を差し引きゼロにする炭素中立(カーボンニュートラル)を目指すと表明しました。

 環境問題に消極的だったあのアメリカでさえ、政権交代を経て、方針転換しました。2050年までに経済全体で温室効果ガスのネットゼロ排出、持続可能なインフラとクリーンエネルギーに投資、住宅の耐候化への投資で100万人以上の雇用創出といった方針を打ち出しています。(松下和夫「気候危機とコロナ禍」知の新書)

 

 通常であれば、目の前の感染症対策と経済対策が優先され、長期戦が強いられる環境対策は後回しにされがちです。しかし、新型コロナウイルス感染症は現代のシステムの脆弱性を顕わにしました。すなわち、大量のエネルギーを注ぎ込むことで成り立つ都市とモーダリゼーションが感染拡大にとって格好の餌食なのです。この本質を踏まえて、ポストコロナに向かって大きく舵を切ることが求められているのです。

 嵐を突破するヒントは、極端なシチュエーションを想定し、逆算的に考えることです。世界戦争などで大破局が起きた時、生き残った私たちはどうするかと・・・。

 例えば、エネルギーについては化石燃料の利用は制限されます。もはや再生可能エネルギーを使うしか選択肢はありません。太陽光や風力による発電が選択されます。都市交通はガソリンより電力が有利でしょう。かといって、これら再生可能エネルギーを作り出すコストや資源も無視できません。自然と使用目的や量を制限することになるでしょう。

 エネルギーの制約は農業にも影響します。現代農業は、食糧1カロリーのために約10倍の熱量分の化石燃料エネルギーを消費しています。ドイツで制度化されている貸し農園「クラインガルテン」を参考に、それぞれの地域で有機農産物を作ることを推奨してはどうでしょうか。自給の術を覚え、物の輸送を減らせます。(ルイス・ダートネル「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」河出文庫

 

 日本も思い切った方針転換を図るべきです。国民や産業界と危機感を共有し、理解を求め、「グリーンリカバリー」を前提にした復興を推し進めていくのです。それは、人や物の移動をできるだけ域内循環に止め、エネルギー利用の効率化を究めることです。そこから工夫(イノベーション)が生まれることが期待できますパンデミックが起こりにくく、かつ、環境リスクが最小化された、持続可能な社会を構築するのです。

 

「オートファジー」で細胞から身体をきれいにしよう!

2021年6月28日(月)

 フーディンだよ。

 

 みんな、「ファスティング」って聞いたことある?

 「断食」のことなんだけど、働きながらのファスティングに関心が高まってるんだ。新型コロナウイルス感染症のせいで、楽しみと言えば食べることくらいなんだけど、移動の自粛や在宅勤務なんかで活動量が減って、今までどおりに食べてるとあっという間にカロリーオーバーになっちゃうんだな~。

 

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 そこで、おすすめなのが「ファスティング」。間欠的な断食とカロリー制限を行うことによって、体にキレが出てすっきりするだけじゃなく、健康で長生きでいられるんだって

 断食には実に長い歴史があるよ。古代ギリシャの「医学の父」ヒポクラテスは、病気は飲食を止めることによって治せると主張した。中世アラブの医師で当時最高の知識人とされたイブン・スィーナーは、3週間以上の断食をたびたび治療に用いた。そして、アメリカ合衆国建国の父の一人、ベンジャミン・フランクリンは、「休息と断食こそ最高の薬だ」と言った。

 気をつけなくちゃいけないのは、科学的根拠に基づいた方法でやってるかってことなんだな~。糖質の代わりにとプロテインを大量に摂取したり、果汁がたっぷり入った酵素ドリンクを飲んだりしていると、かえって健康に良くないよ。正しく理解するために押さえておいて欲しいキーワードは「オートファジー」。(Asahi Shimbun Weekly AERA 2021.4.26)

 

 「オートファジー」は、細胞内をいつもきれいに保ってくれる機能だよ。大隈良典氏が酵母で発見して2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞したことで知れ渡ったんだ。具体的には、細胞内の老廃物などを回収・分解し、その中の栄養になるものだけリサイクルする仕組みだよ。うまく使うことで、加齢性疾患や老化を防止する可能性が高いとされているんだな~。(吉森保「ライフサイエンス」日経BP

 「オートファジー」を活性化させる方法の一つは、インスリンインスリン様成長因子1(IGF-1)の影響をブロックして、細胞内にある「mTOR」と呼ばれる物質の働きを抑えること。つまり、「成長」にブレーキをかけることなんだな~。(ジェームズ・W・クレメント「SWITCH」日経BP

 

 じゃあ、いよいよ実践編だよ。ポイントは3つ。

 まず、精製した糖質や動物性タンパク質を避けること。直感的にこれらの栄養素は「成長」アクセルをふかせるって分かるよね~。実は、タンパク質も糖質と同じくらいインスリンの分泌を促すんだ。それに、一定時間内に処理できるタンパク質の量には限界がある。炭水化物ダイエットだからといって赤身の肉を食べまくるって話を聞くけどおすすめできないんだな~。また、酵素ドリンクも砂糖漬けにして発酵させた上、甘味料が使われたりしている場合があるから気をつけてね。 

 2点目は良質な脂質を摂ること。これは、糖質やタンパク質を制限する代わりに必要なカロリー摂取を保つのに有効なんだ。

 食事に含まれる脂質には、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸トランス脂肪酸の3つが存在する。このうち、飽和脂肪酸はいわゆる「悪玉コレステロール」を増やすから、摂取はほどほどにしてね。また、トランス脂肪酸はポテトチップスやファストフードの揚げ物に含まれていて有害で健康上のメリットはほとんどないんだな。

 残る不飽和脂肪酸が大事。多くの野菜やナッツ、油に含まれている。とりわけ「オメガ3脂肪酸」が健康に効果があるんだな~。代表的な食べ物で言うと、ブロッコリー、ほうれん草などの濃い緑色野菜、サケ、サバなどの冷水性で脂質の多い天然魚が挙げられるよ。だからといって摂りすぎには注意してね。 

 3点目は断食。成長に「ブレーキ」をかけることだね。具体的には、夜の食事から翌日の食事までの間は水分以外は食事を避けること。週に3日もやればいいよ。夕食を19時までに終えて朝7時まで何も食べなければ12時間断食したことになるね。

 

 ちなみに、遺伝子が人間の寿命に影響する割合は7%で、ほとんどライフスタイルで決まるんだ。努力すれば報われるんだな~。かの徳川家康は73歳まで生きたけど、征夷大将軍になっても麦ごはん、味噌汁、おかずが一品か二品でイワシをよく食べていたんだ(鯛の天ぷらによる食中毒が死因という話もあるけどね)。ブレーンだった天海僧正は、家康に長生きの秘訣として粗食を薦め、自身も107歳まで生きたらしいよ。(奥田昌子「日本人の病気と食の歴史」ベスト新書)

 こうした先人たちの知恵は現代に通ずるね~。違うのは、今の世の中はおいしそうなもの(誘惑)がいっぱいあること、そんでもって飲食がストレス発散の一つになっている点かな~。でも、残念ながら人間の身体は変わっていないんだな~。だから、みんなも「オートファジー」を発動させて、健康に生きまくろうね!

 

「保育園落ちた」から5年・・・日本は死んでいる?

2021年6月21日(月)

 エディカです。

 

 「保育園落ちた、日本死ね」から5年経ったわね。2016年2月、匿名ブログで書かれ、その年の流行語大賞にもなったけど・・・流行語は死語になったかしら。

 

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 みんなは保育園に何を期待しているかしら。今は、新型コロナウイルスへの感染が怖いけど、実は、子どもを保育所等に通わせることには大きなメリットがあるわ

 例えば、子どもの「言語発達」を促すことができる。1歳を過ぎた子どもの言語発達には、家族以外の子どもや大人と関わりを持たせることが重要なの。

 早期教育も行われることになるわね。攻撃性や多動性といった周りの人と軋轢が生じるような問題行動が減少するみたい。そして、母親が高校卒だと・・・その効果がより大きくなるらしいの。次世代の格差縮小につながると期待できるわ。

 

 でも、本当に格差縮小につながるかは微妙よ。ご存知の人も多いでしょうけど、保育所に入るには「調整ルール」があって、ひとり親家庭に次いで、フルタイムの共稼ぎ家庭の子どもが優先されるようになっているの。だから、結婚や出産を機に仕事を辞めた世帯には恩恵が届きにくい・・・セーフティネットの観点からは問題ね。「保育園落ちた」人もきっとこういう家庭だったのでしょう。(酒井正「日本のセーフティネット格差」慶應義塾大学出版会)

 

 でも、当時の政権は「日本死ね」に反応したわ。少子化対策の目玉として、女性就業率80%に対応できるよう、32万人分の保育の受け皿整備を打ち立てたの。「子育てと仕事の両立」を狙ったわけね。 

 その結果、保育所等の数は平成27年に28,783施設だったのが、令和2年には37,652施設と7割以上も増加(もっとも、「認定こども園」が増えたおかげだけれど・・・)、利用児童数は274万人、待機児童数も12,439人と前年から4千人以上も減少したの。こうしてみると、成果は出ていると言っていいわね。(厚生労働省保育所等関連状況取りまとめ(令和2年4月1日)」)   

 

 でも、肝心の「少子化対策」にどれだけ貢献しているのかしら。保育所等を整備すれば出生率の引き上げに貢献するけど、すでに整備されつつある日本では、今以上の出生率の引き上げは限界があるんじゃない。

 また、「児童手当」のような現金給付も出生率を引き上げるようだけれど、効果はそれほどではないみたい。お金があっても親は子どもを増やそうって気にはならないの。「ゲイリー・ベッカーの理論」によると、子どもの「量」と「質」にはトレードオフの関係にあるの。現金給付があれば、その分、親は、私立の中高一貫校に通わせて有名大学に入学させるとか、海外留学させるとかして子どもの学歴を高めようとするんじゃない。

 それから、母親の就業率の向上にも期待が寄せられるけど、過去の分析をみると、保育所を増やせば母親の就業率が上がるっていうものでもないみたい。(山口慎太郎「子育て支援の経済学」日本評論社

 

 こうしてみると、「両立支援策」といっても、受け皿整備だけでは「子育てと仕事」の二兎を追うことは無理ね。少子化対策への効果も薄いし・・・。

 ここは、発想を逆転させるべきよ。少子化対策の目標を「量」から「質」へ変えていくこと、そのためにも母親の就業率を上げることね。

 まず、「子育てを社会全体で担う」体制づくりが大切。手っ取り早いのは義務教育課程における学力の底上げを図ること、投資を惜しまないこと。本年度から小学校の35人学級が開始されているわ。児童一人ひとりのニーズに応える教育がしやすくなるでしょうね。

 また、2019年10月から始まっている幼保無償化については、早期教育の効果を考えて、対象を3~5歳にするのではなく、親にとって一番きつい0~3歳前にシフトすべきね。

 保育の質も大事にしたいわ。そうなると、保育士を確保することが必要ね。でも、資格を持っていても実際に就業している人は3分の1・・・背景には待遇の問題があるわ。保育士の給与月額は約30万円(平均勤続年数約11年)だけど、忙しすぎて見合わないみたい。新型コロナウイルス感染症対策も大変だし。規定人数の見直しが必要かもよ。(前屋毅「疑問だらけの幼保無償化」扶桑社新書

 そして、ジェンダー平等を徹底することも忘れちゃだめね。男性の家事・育児負担割合が高い国ほど出生率も高くなっているわ。育児休暇が取得をしやすくなるよう全員に取得を義務づけること、誰しもが家事・育児が必要になることを学校で教えていくこと、この両面作戦が求められるわ。

 

 今は「量」を追うのではなく、子ども一人ひとりの「質」を追うことよ。そうすれば、仮に人口が減少したとしても、国全体の生産性はキープできる。そうして、人口構造が大きく変わった時に反転するチャンスを伺うの。日本を死なせないための一手先を見据えた戦略が必要よ。