ポスト・コロナ市場は「女性」が支配する!?

2021年12月6日(月)

 コノミです。

 

 国内では新型コロナウイルス感染症は落ち着きを見せつつあります。オミクロン株の陽性者も出ましたが、まだ広がる様子は見られません。これもワクチンの効果でしょうか。

 いずれにしても、「待ってました」とばかり、経済対策の「のろし」が上がっています。「リベンジ消費」が本格化しそうです。内閣府GDP統計では、2020年の貯蓄率は前年の2.3%から大幅に上昇し、11.3%となっています。ここからどれくらいが消費に回るのでしょう?鍵を握るのは「女性」なんです

f:id:KyoMizushima:20211016222735j:plain

 1年半以上に及ぶ新型コロナウイルス感染症の影響は社会の隅々に及びました。遠出や外食をできる限り控え、自宅近辺でエコ消費することに慣れました。供給側も、調理家電やボードゲームなど、「巣ごもり」を支えてくれる商品を市場に提供してくれました。

 2020年4月には就業者が大幅に減り、特に女性が割を食らいました。世界も同様の状況で、「シー(she)セッション・女性不況」と表現されています。一方で、医療や小売など、コロナ禍でもサービス提供を止めるわけにはいかない、いわゆる「エッセンシャルワーカー」には女性が多いです。彼女たちは、新型コロナウイルスへの感染リスクだけでなく、言われのない差別に対する不安やストレスにさらされました。女性の自殺者が増加したことは大変ショックでした。

 女性の復活への道を用意することが大切です。実は、「コロナ対人4業種」と呼ばれる、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業は、政府の資金繰り支援策が続けられました。苦境に陥った企業は多いと言いつつも、倒産は必ずしも多くないのです。雇用吸収力はあるはずです。(梅屋真一郎「コロナ制圧 その先の盛衰」日経プレミアシリーズ)

 これからは、これまで行われていなかった業務が新たに追加されます。例えば、清拭や消毒です。新型コロナもインフルエンザのように、今後、日常的に共存していくウイルスとして残る可能性が高いです。でも、新型コロナによって社会が受けた心理的インパクトは異次元レベルでした。このため、こうした追加業務は必須となります。そうなると、労働生産性は間違いなく下がります。その分、人を雇わなくてはなりません。そして、その大半は女性となるでしょう。彼女たちが稼ぐことができれば、分厚い購買層を構成することができます

 

 迎え撃つ市場にも「女性視点」があると効果的です。そもそも女性消費者は、世帯消費の6~8割を決め、9割に口を出しています。その反面実は超現実主義者なので、買うべき理由が響かなければ、財布の紐が緩くなることはありません。消費において圧倒的存在感を放っているのです。なぜかと言うと、女性は自分のことだけでなく、家族など自分を取り巻く人たちのことも考えるからです

 一般に男性は「モノ」のグレードにこだわります。自分のステータスと関わってくるからです。ところが、女性は「モノ」を使うシーンまでも想像します。だから、最近の「モノ」から「コト」へというトレンドにも、とても簡単に乗っかることができます。こうした脳の働きはきっと、子どもや家族を「守る」という本能からきているものなのでしょう。「女性は10年先を見て生きている」と言われるのも、種を保存し次世代につなごうとしていることの表れなのかもしれません。株式会社ハーストリィによる意識調査によると、女性は「サステナブルな活動をしている企業の商品、サービスを買いたい」という回答が85.4%にも上るそうです。(日野佳恵子「女性たちが見ている10年後の消費社会」同文館出版)

 

 ポスト・コロナの時代は、「女性の視点」を取り入れた消費市場が重要となります。これまでの合理的かつ論理的な視点から、「感性」をより重視し、様々な要素を加味したきめ細やかな視点に移行していくべきなのです。そして、商品開発からマーケティングにいたるあらゆる場面で女性の参加を増やすべきです。

 下着で有名なグンゼでは、肌がストレスを受けやすい女性のために、縫い目なしの下着を女性チームが開発しました。当初は男性バイヤーの理解が得られなかったとのことですが、男性用の無縫製下着も販売されています。最近では「フェムテック」という女性ヘルスケアがもてはやされていますが、対象が女性に限らない点が大事です。

 コロナ禍で電子コミックがシェアを伸ばしている中、韓国発の縦スクロールマンガが女性の支持を得ており、女性編集者が活躍しています。男性にはない発想と思いません?(Bunshun Woman 2021秋号)

 こうして、女性がしっかり関わる一気通貫した循環により、さらに大きな市場が誕生します。新型コロナというかつてないストレスを経ながらも周囲に思いを寄せてきた「女性の視点」に、今、大きな期待が寄せられています。

 

新型コロナ対策を振り返りながら「シン・感染症」に備えよ!

2021年11月29日(土)

 ハルです。

 

 新型コロナウイルス感染症は国内では落ち着いているように見えますが油断はなりません。ドイツや韓国、米国ニューヨーク州などで感染者が急増しているほか、南アフリカの変異株「オミクロン」がこれまでにない驚異的な感染力を見せています。年末年始には今夏のような爆発的感染が起きるかもしれません。

 さらに、今後、もっとインパクトの大きい感染症が発生する可能性もあります。新型インフルエンザ感染症は20年の周期で、未知の感染症である「DiseaseX」は10年前後の周期で発現するとされています。こうした「シン・感染症」に適確に対応できるよう、ここでいったん新型コロナウイルス感染症対策を振り返りたいと思います。(阿部圭史「感染症の国家戦略」東洋経済新報社

 

f:id:KyoMizushima:20211009233056j:plain

 

 未知の病原体については、科学的なエビデンスは無いと考えたほうがいいです。類似する病原体からある程度推測することは可能です。新型コロナウイルスで言えば、SARSやMARSになります。ですが、同じとは限りません。また、感染拡大によって毒性の強い変異株が生まれる確率が高まります。

 結局、対処しながら情報収集していかなくてはならないのです。ここで気を付けるべきポイントは、直ちに対応できる「専門知」が存在するとは限らないことです。専門家会議などでそれなりの見解は出るでしょう。しかし、未知の病原体の性質は予測できません。そこで大事になってくるのがデータです。具体的には、地域や感染経路に関連する感染拡大のトレンドを読むことです。そうすることで、病原体の特徴をつかむことができます。徹底的に検査・分析を行い、リスクを正確に見極めることが重要なのです(金子勝「人を救えない国」朝日新書)。新型コロナウイルス感染症の場合、誰も予想しなかったくらいの強力な感染力で、宴席やカラオケを感染経路にしてしまいました。結果、これらのサービスの提供を縮小することとしたのです。

 また、全容が解明されるまでの間、様々な「専門家」がメディアに登場して、コメントします。でも、彼らは必ずしも現状のデータを持ち合わせているわけではありません。このため、「インフォデミック」が生まれやすくなります。そして、これに対抗する情報発信体制が求められます。ここでも、データが武器になります。あくまでもデータに基づき、メディアや国民とコミュニケーションを図るべきであり、仮にデータが無いなら、「無い」とはっきり言うのです。

 

 最終的には、遺伝子デジタル情報を取得し、いわゆる危機管理医薬品(ワクチン、診断薬、治療薬)を迅速に開発・入手することが決め手となります。ただし、一国だけで対応していても駄目です。グローバル社会では相互の影響を考えなくてはなりません。各国や国際機関との協調が求められます。その一環として、早期警戒システムが必要です。WHO(世界保健機関)がその役割を担ってはいるのですが、新型コロナウイルス感染症については、台湾が、中国の動きを注視することでいち早く対処しました。日本としては、台湾をはじめいくつかの国との連携体制を構築しておくことが重要です。そのためには、日本として、物資やワクチンの供給を積極的に行うことを提案しておかなくてはなりません。

 危機管理医薬品が整うまでの対応は、①医療措置、②公衆衛生措置、③渡航措置が基本となります。ポイントの2つ目は、こうした取組については権限を集中し、全国一斉に同じことを行うことです。法整備が必要です。感染症では、被害者であるはずの患者が加害者のように扱われ、排除されます。これは人と人の分断につながり、自治体間でも分断が生じます。第一次緊急事態宣言は、都道府県が排除合戦を強めたため、結局、全国に拡大することとなりました。全国で一斉に「関所」機能を発揮し、鎮静化のスピードアップを優先することが大事なのです。また、知事などの首長はどうしても「前のめり」の対応としてしまいがちです。それで感染拡大が収まらないと、さらに「前のめり」対応をすることになります。ありがちなのは「経済対策」と称して、公金をどんどんつぎ込むことです。でも、経済を活性化するには至りません(金井利之「コロナ対策禍の国と自治体」ちくま新書)。

 

 もう一点、大事なのは、少しズルいですが、拙速を避け、取組の中進国になることです。日本は戦争を行わないので危機管理の意識がアメリカのように強くない面があります(猫組長(菅原潮)「カルト化するマネーの世界」講談社+α新書)。こうした先行国の取組を見ながら、日本としての最適解を見つけることが効率的です。

 以上の戦略は特効薬ではありません。「シン・感染症」対策は中長期戦になるという前提を皆が理解し、自分たちだけ早く楽になればいいという短絡的な発想に陥ることなく、協力姿勢を貫くべきです。

 

破裂寸前の信用バブル。「ツケ(国の借金)」の限界が来るのはいつ?

2021年11月22日(月)

 フィナよ~。

 

 19日、55兆円を超える経済対策が閣議決定されたわ。高校3年生以下には10万円を給付、年明けには「GoToトラベル」も再開するようね。こういうのって「負のレガシー」にならないかしら?言いたいのは、単に「借金」じゃなく、「ツケ」を回すことに慣れ切った体質のことよ。

 

f:id:KyoMizushima:20211002165034j:plain

 

 収入の半分が借金って聞いたら普通、驚くわよね、って言うかあり得ない。でも、「国の借金」はそうなってるの。2021年度予算歳入総額約296兆円のうち、「国の借金」である国債は約135兆円と45.6%を占めるの。ここで言う「歳入総額」は一般会計と特別会計を重複なく合計した「純計」のことよ。

 その使い途はというと、全体の4割である約120兆円が借金の返済国債償還費等)に充てられているの。ということは全部返済できてるわけじゃないんだっていう人・・・鋭いわ!そのとおりよ。国債残高は毎年増えていって今や計1043兆713億円に上っているわ。税収は57兆円だから、仮にその全てを返済に充てたとしても完済するまで18年かかる計算よ。(田中秀明「ニッポンの財政」standards)

 

 この点について、「国が発行する国債の半分を日本銀行保有しているから、今後も日銀が引き受ける形にすれば大丈夫」と言う人がいるわ。おじいちゃんが居酒屋のツケを孫に回す感覚かしら。

 でも、これには落とし穴があるの。国債の流れを見れば分かるけど、政府が発行した国債を民間銀行が購入する際は、元手として国民の「銀行預金」を使用しているの。だから、日銀が民間銀行から国債を引き受けると言っても、それは「銀行預金」の裏付けがあるからできることなの。もし、世界恐慌が起こって、国民が「銀行預金」の取り崩しに走り、民間銀行も日銀に返済を求めるようになったら、あっという間に倒産するわ。先の例で言うと、居酒屋が「お店が立ち行かないんで」と孫に「ツケ」の一括返済を求めるようなものかしら。

 その時、日本は「ジ・エンド」ね。なぜなら、借金は社会保障のためでもあるから、医療や福祉が回らなくなる。また、借金は異次元緩和の原資となって株価を支えているから、これもできないとなると株価は大暴落。日本経済は滅茶苦茶になるわ。考えてもみて!新型コロナウイルス感染症もあって、企業の成長力は見込めないはずなのに、日経平均株価は異様に上昇している。こんなの、金融政策が実体経済を救済しているとしか説明がつかないわ。(猫組長(菅原潮)「カルト化するマネーの新世界」講談社+α新書)

 じゃあ、孫も家財道具を全部売り払って借金を完済すれば、って思うでしょうね。でも、現実は厳しい。生活するための資産は売れっこないもの。現在国が保有している資産のうち売却できるものを目一杯かき集めたとしても約20兆円ぽっちよ。しかも、毎年使える代物じゃないわ。

 世の中に様々な楽観論があるけれど、怖いのはみんなの感覚がマヒしちゃっていること。つまり、「日本の財政は危ない、危ないって言われてるけれど、何とかなってるんじゃない」という開き直りね。その意味で、東京オリンピック・パラリンリックは「負のレガシー」を残したわ。何せ、開催延期により予算が2940億円増加して1兆6440億円にもなり、国の負担も追加分の710億円を加えて2260億円に膨らんだわ。負担するのはみんなだけど、ピンときていないでしょう!

 

 今、どんどん「信用バブル」が膨張している。いつ破裂するかしら?ズバリ、家計の貯蓄額が低下傾向を示すタイミングと考えるわ。現時点で政府部門は赤字でも、それを上回る家計や企業の貯蓄があるから経常収支は黒字になって、日本経済は格付け機関からも評価されているの。

 でも、これからは不透明よ。確かに、新型コロナウイルス感染症による消費低迷の影響を受けて、使うお金が減り、家計の預金は昨年6月に1031兆円と過去最高を記録したけれど、それって実体経済が小さくなってるってことよ。だからこその経済対策でしょうけど、もう何度も繰り返してることよ。仮に実体経済が復活するとしても、この間に高齢化は着々と進んで収入減・預金減が進むでしょうね

 もはや、財政金融政策の正常化を目指すしかないわ。つまり、「ドケチ」作戦。ドイツでは、メルケル首相が批判を浴びながらも「黒いゼロ作戦」で新たな国の借金をつくらなかったから、コロナ禍でも思い切った支出が可能になったの(マライ・メントラインら「いまどきのドイツと日本」PHP)。

 増税も必要よ。でも、政治家は増収分を選挙対策のため気前のいい政策に回すのが常套手段だから要注意(金子勝「人を救えない国」朝日新書)。消費税の何割かは絶対に国債償還に充てると使い途を限定するべきでしょうね。財政の「緊急事態宣言」を出して、未曽有の長期戦を戦い抜く覚悟が必要よ。

 

デジタル時代の「世論」。本当にそうなの?

2021年11月15日(月)

 ソシエッタです。

 

 衆議院選挙が終わりました。大苦戦が予想された自民党ですが、終わってみれば単独過半数に達していて岸田首相もほっとしたことでしょう。選挙で勝つには「首相の顔」が必要な時代になりました。そして、長期政権になるには内閣支持率政党支持率を上回っていることが必要ということが、これまでの世論調査で示されています。

 その「世論」が、デジタル社会の進展に伴い、脆いものになりつつあります。知らぬ間に操作されていることさえ起こり得ます。そうすると、政治は民意を本当に反映していると言えるのか疑わしくなってくるのです。

 

f:id:KyoMizushima:20210925164955j:plain


 世論調査は、政治意識などに関する有権者の意識と行動を計量的に分析して、社会構造を把握する役割を果たしています。例えば、1987年から2020年の34年間は、日経平均によって、自民党支持率の変動の77%が説明できます。ですから、歴代政権にとって最重要課題はズバリ、「経済対策」となるのです。

 意外なのですが、世論調査の回答者数は「2000人前後」とそれほど多くありません。何百万人とかいった規模は必要ないのです。問題は、調査に対する国民の協力が減る傾向にあること、操作されるおそれがある中、わずか「2000人前後」という少なさが不安定さを生むことです。

(鈴木督久「世論調査の真実」日経プレミアシリーズ)

 

 アメリカでは、気候変動やテロリズムよりも「捏造されたニュース」が重要な社会問題になっています。象徴的な出来事として、2016年の大統領選でトランプ政権が誕生した際の「CA事件」があります。これは、「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」というトランプ陣営の選挙キャンペーンを行っていたデータ分析会社が、フェイスブックから不正に入手した大量の個人データを選挙に活用していた疑いがあった事件です。

 真相までは分かりませんが、重要なのは、デジタル時代の新たなプロパガンダ戦略としてAIの活用が注目された点です。ここで話題となったのは、「マイクロターゲティング」という手法です。フェイスブックの個人データをAIに解析・学習させ、有権者一人ひとりの政治的傾向をかなりの精度で割り出し、それぞれにカスタマイズして政治広告を発信するというものです。

 効果はいかほどでしょう。フェイスブックの研究(2016)によると、SNSの投稿を見たことで政治的問題や候補者への意見を変えたかという質問に対し、8割が「変えたことはない」と回答したそうです。じゃあ、残りは意見を変えたと言えそうですね。アメリカの政治で勝敗を分けるのはたった8万人ほどとされています。この規模であれば、十分に「マイクロターゲティング」の射程範囲です。

 こうして考えると「2000人前後」なんて何とかなっちゃいそうです。さらに問題なのは、今のデジタル環境においてジャーナリズムのプレゼンスが低下したせいで、人々が受け取る情報の質が明らかに劣化したことです。反対に、利用が増えつつあるSNSは容易に人々の分断を生みます。「嘘の情報」は事実よりも1.7倍多くツイートされ、6倍拡散します。SNSで最も速く、最も遠くまで伝わる感情は「怒り」です。

NHK取材班「AI vs. 民主主義」NHK出版新書)

 

 心配なのは、世の中が「分かりやすさ」を求めていることです。氾濫する情報の中で、人はストレスを避けるため、必要な情報だけを手っ取り早く入手するよう強いられています。その副作用は、分かりやすいものばかり求めているうちに、ややこしい物事を把握して理解する能力が低下することです。また、一握りの「インフルエンサー」が提供する「分かりやすい」メッセージが与える影響が、半端なく大きいことです。

 本来、現代社会は複雑さを増しているはずであり、理解するのも一筋縄ではありません。一見分かりやすく思えることが実はそうではないことも併せて伝えていくことが大切です。(武田砂鉄「わかりやすさの罪」朝日新聞出版)

 私たちの生活にオンラインは必須です。加えて、新型コロナウイルス感染症は非接触を求めました。SNS上のやりとりが増していく時代、いとも簡単に「思想」が操作される時代、一人ひとりの理解力が低下する時代に、「世論」がどのように形成されてしまのか不安です。

 世論調査の工夫が求められます。回答者数を増やさなくてはなりません。回答のインセンティブ付け(回答した人に〇〇ポイントを贈呈するなど)も必要でしょう。そして、より大事なのは、分かりやすさだけを追い求めるのではなく、その背景にある深い状況を理解しようとすることです。地味ですが、読書をお薦めします。それも、欲しい情報だけでなく偶然出くわす情報にも触れられるよう、本屋や図書館を活用して下さい。「世論」を形成する私たちの「論」というものを耕すことが重要なのです

 

「ブルークライシス」~気候変動が海を襲う!

2021年11月8日(月)

 エンヴィです。

 

 グレタ・トウンベリさんが、国連機構変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を「失敗」と批判しています。偽善の「祭典」は要らないというわけです。その一方で、評価できる動きもあります。コスタリカパナマなど太平洋に面する中南米4か国が巨大な「海洋保護区」を作ることを宣言しました。乱獲に対し、生態系の維持を打ち出したのです。そして今、母なる「海」が温かくなっているのをご存知でしょうか?このままだと海は「死のスープ」となるかもしれません。その変化は深いところで目に見えない形で進行しています

 

f:id:KyoMizushima:20210911211202j:plain

 

 海は、人の活動によって発生した二酸化炭素の大半を大気中から取り除くという大きな貢献をしています。具体的には、温室効果ガスによって地球システム中に蓄えられた余剰熱の93%が「海」に吸収されているのです。「陸」が引き受けているのはわずか7%なんです。この結果、海面温度は過去40年間、10年当たり0.11℃の速度で上昇しています。

 海が温かくなるとどういうことが起きるでしょうか?海の生態系に影響が生じます。例えば、魚類にはそれぞれが好む水温域があります。このため、魚類の分布が移動することになります。クロマグロの仔魚の生育に適した水温は24~28℃とかなり狭い範囲です。ただでさえ乱獲によって減少傾向にあるとされているクロマグロですが、このままだと生息域が限られ、絶滅に向かうおそれがあります。ホタテガイは成貝が23℃まで、稚貝が20℃までが適当な水温とされています。コンブは暑さが苦手な海藻です。国内で漁獲されるコンブは9割以上を北海道が占めています。出汁にも使われるコンブがとれなくなると、海の「スープ」は味気無くなるでしょう。

 このように、海水温度の上昇は、海洋生物の分布域に影響を与えます。現在、その最前線は、高緯度方向へ10年あたり平均72±14㎞ずつ前進しているとされています。もちろん、このため資源が増加する地域もあるでしょう。サケの場合、北へシフトすることによって日本での漁獲量は減少しますが、ロシアでは急増しています。食卓に並ぶ魚介類が大きく様変わりすることになるでしょう。(山本智之「温暖化で日本の海に何が起こるのか」講談社

 

 もう一つ怖いのは、海の「酸性化」です。二酸化炭素は水に溶けると酸性に導きます。海の「酸性化」は違った様相を見せます。植物プランクトンは増えるものもあれば減るものもありますが、全体的にサイズが小型化していきます。そうすると、大型の魚へ運ばれる栄養が今よりも少なくなります。また、サンゴ礁、貝類、カニ類の殻は石灰質でできています。つまり、「酸」に弱いのです。すると、形状を正常に保つことが難しくなります。さらに、稚魚の生存率や魚の感覚神経への影響も指摘されています。

 既に日本近海では酸性化が進んでいて、海水のpHが低下しつつあります。貝殻は薄くなり、稚貝の段階から捕食されやすくなります。マダイは孵化率が低下することが実験によって確認されています。ウニも幼生が小さくなるとされています。将来のお寿司屋さんでみるネタのサイズは小さくなることでしょう。

 こうした温暖化と酸性化は、「海の熱帯雨林」と呼ばれているサンゴ礁に多大な影響を与えますサンゴ礁は地球表面積のわずか0.1%しか占めていませんが、9万種を超える生物が暮らしている「竜宮城」です。サンゴは生きていく上で必要な栄養の大部分を、体内で共生している褐虫藻から得ています。ここに高水温などのストレスが加わると、褐虫藻が失われ「白化現象」が起きます。また、海水温が上昇して幼生が遠い海域へ拡散しにくくなれば、サンゴ礁どうしによる競合が生じます。そもそも、水温上昇によって幼生の死亡率も高まります。気候変動に関する政府間パネルIPCC)の2018年特別報告書によると、世界の平均気温が産業革命前より1.5℃上昇するとサンゴの生息域は70~90%が消失し、2℃だと99%以上に至るとしています。日本でも、温暖化と酸性化のダブルパンチによって、サンゴの生息域は2060年代には九州~四国沖の一部海域に縮小し、2070年代には近海から消滅するとされています。

アンドレス・シスネロス=モンテマヨールら「海洋の未来」勁草書房

 

 地球温暖化について、懐疑的な意見を述べる人もいます。しかし、こうしている間にも海の温暖化と酸性化は静かに進んでいます。むしろ、もっと進んでいてもおかしくなかった大気中の温暖化を、「母なる海」が引き受けてくれていたのです。

 病気も気づいた時には手遅れということがあります。今、「海」から発せられているメッセージは、将来の危機を教えてくれる「検診結果」なのです。僕たちは、改めて「海」に対し感謝の念をもって、守ることを考えなくてはならないのです

 

「家庭菜園」が育てる新たなフード・サプライチェーン!

2021年11月1日(月)

  フーディンだよ~。

 

 おいら、パンケーキが好きなんだけど、新型コロナウイルス感染症による最初の緊急事態宣言が出された時、お店からホットケーキミックスがすっかり無くなっちゃってて驚いたよ。今でこそ安心して買えるけど、おいらたちがどっぷり浸かっている食品のサプライチェーンに「弱点」があることをさらけ出しちゃったんだな~。もっと身近なところで「食」を確保する必要性を感じたよ。鍵は「農」だね。

 

f:id:KyoMizushima:20210903093358j:plainf:id:KyoMizushima:20210903093411j:plain

 

 日本だけでなく世界でもパンデミックの影響はあったみたいだよ。例えば、インドは欧米諸国にもスパイスを提供している主産地だけど、2020年3月、緊急措置で輸出を停止したんだ。ベトナムも国民への供給を優先して米の輸出を禁止した。こうした中、欧米では恒久的な自衛策として「家庭菜園」による自給が始まっているルーマニアでは栄養価がある野菜のタネが配布された。オーストラリアでは「タネの図書館」がオープンして、市民なら誰でもタネを借りることができ、収穫できたらそのタネを返却するんだって。(吉田太郎「コロナ後の食と農」築地書館

 

 もう一つ大事な点は、おいらたちがあまりにも「工業型農業」や「工場型畜産」に依存しすぎちゃっているってこと。ここで言う「工業型農業」とは大規模農業のことで、「工場型畜産」は狭い空間に詰め込まれ、病気の感染を防ぐため抗生物質を投与され続けた家畜から肉類等を生産することだよ。

 こうした人間中心の「食」の生産が、新型コロナウイルス感染症の流行を引き起こした「真犯人」じゃないかって疑われてるんだ。大量の農作物を効率よく作るためには大規模な「工業型農業」が必要となる。すると、小規模農業を営んでいる人たちはこれまで手つかずだった自然へと追いやられ、そこで未知のウイルスと遭遇し、感染のきっかけとなる。一方、「工場型畜産」によって密にかつ均質に育てられた家畜は、いざ抗生物質耐性菌にさらされると弱いもんだから「病気の貯蔵庫」と化してしまう。これまで問題となった鳥インフルエンザH5N1や豚インフルエンザH1N1は、こうした「工場型畜産」がルーツだと判明しているんだ。安くておいしいお肉を求めるおいらたちの欲望がブーメランになっておいらたちに跳ね返ってくるんだな~。ちなみに、今、からあげがブームだけど、日本に輸入されてくる鶏肉はブラジル産が74.6%、タイ産が22.7%で、これらの国では抗生物質が使用されている。過去には残留抗生物質が見つかったこともあるよ(女性セブン'21.9.9)

 こうした中、2020年、欧州委員会は2030年までに農薬と家畜用の抗生物質を半減し、有機農業の面積を現在の3倍に拡大して農地の10%を生け垣や野草の生息地へと戻すという「農場から食卓まで戦略」(F2F戦略)を発表したんだ。さらに、消費者の行動も変わりつつあるよ。有機農産物への需要が急増して、世界中でオーガニックブームが巻き起こっているんだ。1人当たりの年間有機農産物の消費額トップはスイスの3万2000円、次いでデンマークの2万3800円。じゃあ日本はどうかって?960円なんだって・・・寂しすぎるよね~。

 

 こうなったら、日本でも「農」を身近なところで進めるしかないんだな~。本格的な「農業」までは必要ないよ。ミニトマトやオクラなど自分の「食」の一部を賄えるレベルの「家庭菜園」がお薦めなんだな~。日本と同様に食料の輸入依存度が高いシンガポールでは新たに屋上農場が計画されている。ドイツのベルリンではアパートの室内でハーブや野菜を育てるプランタービジネスが新たに立ち上がった。

 日本の場合、耕作放棄地があるからこれを活用すればいいよ。その面積は2017年時点で約38万ha、東京ドームで言うと約8万個分。人口が減少して、さらに増える可能性もあるしね。この耕作放棄地を、自治体が「家庭菜園バンク」として無料で住民に貸し出せばいいんだな~。栽培方法はインターネットで調べてもいいんだけど、地域でしっかりした取組があれば自然とコミュニケーションが生まれるよ。そう、コミュニティが「耕され」ていくんだな~。もちろん、「家庭菜園」ビジネスにつながってもいいね。中国では最先端の有機農業を行いつつ、地方の全てをネット回線でつないで小規模な生産者を育てているよ。(井本喜久「ビジネスパーソンの新・兼業農家論」Cross Media Publishing)

 政府や市場のシステムに放置されている「穴」を補うにはコミュニティの復活が欠かせないとされている(ラグラム・ラジャン「第三の支柱」みすず書房)。だから、もしも「農」を通じたコミュニティを地域で作ることができれば、「食」だけでなく、「心理的安心」も得られるようになる。みんなの健康につながるんだな~。ぜひ、「ヘルシー・コミュニティ」を作ろうよ!

 

インターネット時代の「著作権」。どこまでが許される?

2021年10月25日(月)

 エディカです。

 

 今日から1都3県では飲食店が通常営業になるわね。もちろん、油断はできないけれど、カラオケも気兼ねなく行けるわ。そういえば、カラオケって1曲歌うたび、著作権のおかげで5円前後が作詞家・作曲家の懐に入るって聞いたことあるけど・・・一安心ってとこかしら。

 

f:id:KyoMizushima:20210828135048j:plain

 

 著作権の存在理由は、芸術文化活動が活発に行われる土壌を作ることよ。著作者にとっては、著作物から利益が得られるというインセンティブがある・・・だからこそ、創作への意欲がわくの。でも、ほとんどは他人の作品からアイディアやイメージ、モチーフや手法、その他様々な要素を吸収して、自分の作品を作り上げていくものよ。だから、著作権なんて要らない、自由に使わせろって声もあるわ。

 ここで、簡単に「著作権法」を解説するわ。著作権法の目的は、文化の発展に寄与すること著作権が著作物を守るの。コピーや上演、譲渡や配信を著作者に断りなく行ってはいけないの。著作権には「権利の束」って言われるくらいたくさんの権利があるわ。

 でも、がんじがらめだと「文化の発展」につながらないから「制限規定」を設けて、一定の要件の下であれば著作権者から許諾を得ずに著作物を自由に利用できるようになっているの。例えば、私的に使用する場合、非営利目的で上演する場合、引用として用いる場合ね。このブログでも「引用元」はちゃんと掲載するようにしているわ。

 そして、現代はインターネットの時代・・・様々な情報が行き交うの。著作権の整理も大変になっているわ。というより、著作権法がどんどん強化されているわね。2018年の著作権法改正では、「アクセスコントロール回避規制」が導入され、著作物利用の手前にある「著作物へのアクセス」自体を保護する方向が決まったの。また、学校が授業をオンデマンド配信する場合、学生・生徒数に応じた補償金を支払わなくてはならないという「授業目的公衆送信補償金制度」ができたわ。ちなみに、著作権侵害は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金・・・切ない話ね。(福井健策ら「インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)」CRIC公益社団法人著作権情報センター) 

 

 そもそも、「文化」というものはみんなが自由に享受できる「公共財」のはず。著作者だけでなく、ユーザーにだって自分らしく利用する権利があるはずよ。アメリカの著作権法には、他人の著作物であっても公正な利用ならば著作権侵害ではないという「フェアユース」と呼ばれる規定があるわ。また、「クリエイティブ・コモンズ」と言って、非営利目的なら誰でも自由に利用・改変していいですよという表示を作品に記載するなどして自ら著作権を弱めるケースもあるわ。(福井健策「改訂版著作権とは何か」集英社新書

 それに、著作権法特許法などの知財法は社会的にも大きな影響を与えるものよ。新型コロナウイルスワクチンを世界に流通させるため、WHOが企業に特許を一時的に凍結するよう求めたこと覚えているかしら。 

 微妙なのは、著作権について、従来の「文化振興」に加えて「産業保護」の側面に光が当たってきたことよ。2017年に発表された「文化経済戦略」によって、オリパラをはじめ、産業、観光、まち・ひと・仕事等といった広範囲にわたって文化資源を活用する政策がスタートしたわ。(山田奨治著作権は文化を発展させるのか」人文書院

 それに、「文化の安全保障」という問題もあるわ。英語による文化情報の重要性が高まることで、英語以外の文化情報が相対的に弱くなる傾向にあることが指摘されているの。

 

 どう?著作権をめぐる問題の奥深さを感じてもらえたからしら。こうしたジレンマを解決するのは簡単じゃないわ。個人の権利と公共の福祉・・・これをいかにバランスさせるかよ

 解決方法として税金の考え方が参考になるわ。富裕層から多くを得て社会に還元する・・・みたいに。例えば、著作権にも何らかの「安定装置」を導入するの。具体的には、著作権が厳しくなるようであれば、著作権料収入にかかる税金を上げる。反対に著作権が緩和されるようであれば税金を下げる。いずれの場合でも得られた税収は文化振興に還元する、という風に・・・。この場合、著作権の強化・緩和のバロメーターを設定しなくてはならないけど、このように規制と連動したシステムを導入することで、著作者の権利と、ユーザーや他の創作者の権利とのバランスを図ることが期待できるわ。 

 インターネット社会は、「一億総ユーザー化」、「一億総クリエイター化」とさえ言われていて、一人ひとりが「文化」を楽しみ、これを創り出すポテンシャルが増大しているの。そのことが多様性を育み、「文化の発展」につながるわ。今一度、人間が知識に「アクセス」することを最大限に尊重すべきという著作権法の原点に立ち返るべきね。