「がまん無理社会」の処方箋は「自由責任主義」の徹底!!

2019年3月18日(月)

 ソシエッタです。

 

 来年は東京オリンピックです。ちょっと前に、競泳の有力候補選手についての五輪大臣の「がっかり」発言が問題になりました。すると今度は、発言のその箇所だけを切り取ってあおっているとマスコミの報道ぶりを責め立てる声も盛んになりました。SNS上の炎上は今に始まったことではありませんが、バッシングの応酬はネット社会ならではの現象と感じます。

 

 今、多くの人が何とも言えないような不満をくすぶらせています

 鉄道職員への暴行、高速道路のあおり運転など、防犯カメラやドライブレコーダースマホの動画で実態が見えるようになったことも影響しているのでしょうが、全体的に寛容さが失われて、ちょっとしたことも我慢することができない「がまん無理社会」になっているように見受けられます

 

 クレーマー問題も一向に下火になりません。お隣の韓国では、客が購入した子犬を店主に投げつけて死なせてしまったという痛ましい事件がありました。ちなみに韓国では、客からのハラスメントを受けた従業員に休暇を取らせる条例を整備しているそうです(週刊ダイヤモンド2019.2.16)。

 中国でも列車内で乗客が他人の指定席に勝手に座って乗務員の移動指示に従わないというトラブルが問題になりました。

 

 こうしたトラブルの背景の一つに、広がりつつある経済的格差と稠密(ちゅうみつ)すぎる世の中があると思います。

 格差については「格差社会」という表現では言い尽くせず、「階級社会」とまで呼ばれるようにまでなりました。みんな「平等」であるはずという刷り込みに近い思いがある中、現実には乗り越えられない格差を感じています。このため、自分により近い他人とのちょっとした違いに過敏に反応してしまうようです。

 

 さらに、人がまばらな環境であればさほど腹を立てるようなことでもないのに、せわしない状況では他人に対する優越感をちょっとでも得られるように行動しよう(前の車を追い抜かそう、など)という気持ちが強くなってしまい、そのことがかえってストレスを生んでいる可能性があります。

 

 ちなみに、世の中全体の所得格差を表す「ジニ係数」は、0.4で社会騒乱多発の警戒ライン、0.5以上で慢性的な暴動が起きやすい状況とされています(梶原一義「税金格差」クロスメディア・パブリッシング)。

 日本は2014年に0.57とすでに危険水域にありますが、社会保障をはじめとする各種制度が機能しており、暴動が生じるような状況には至っていません。その代わりなのでしょうか、ちょこちょこトラブルが目に付きます。

 

 著書『文明の衝突』で有名なサミュエル・ハンティントンによると、社会における中産階級の位置づけは重要であり、彼らにとっては望めるはずの「社会的な上昇」が阻害されることに最も失望を覚えるようです(フランシス・フクヤマ「政治の衰退」講談社)。そして、「報われていない感」が何かにつけて攻撃的な過剰反応を引き起こすと言われています(榎本博明「『過剰反応』社会の悪夢」角川新書)。

 

 「がまん無理社会」になっている他の要因や背景事情として、

①産業構造がサービス業にシフトし、より高度なコミュニケーション能力が求められるようになったこと

少子高齢化が進む中、増加傾向にある高齢者がリスペクトされず、疎外感・孤独感を味わうようになってきたこと

③オンライン社会となり、欲しい情報や商品がすぐにかつ容易に手に入るようになってきたこと

スマホ等の出現ですき間時間に音楽やゲームに興じられるようになり、ものごとをじっくりと頭の中で考えるクセがつかず、反射的・衝動的に言動にしてしまうこと

など、このところの急激な社会の変化に私たちの認識がついていけていない可能性も指摘できそうです。

 

 これらは人間の本質に関わることであり、解決は容易ではありません。

 処方箋としては、外的要因と内的要因のそれぞれについて取り組む必要があります。まず外的要因ですが、なんといっても経済格差(富や収入の格差)を縮小させていくことが大事です。(ジェレミー・ハイマンズ/ヘンリー・ティムズ「NEW POWER」ダイヤモンド社

 税金や社会保険料を累進的に徴収するといった富の再分配が考えられます。また、最近話題となっているベーシック・インカムも検討してみる価値があります。ベーシック・インカムが単なる再分配と違うところは、個人の尊厳を傷つけないこと、最低限の生活保障があるので仕事に臨む際の自由度が高まることが挙げられます。

 

 内的要因については、一人ひとりに対して、自制心の養成を促すことが挙げられます。小学校などで学ぶ「道徳」は人間社会における暗黙の倫理規範を浸透させるという点でとても大事ですが、これに加えて、法治国家として「法」の存在をみんなが認識することが重要です

 クレーマーへの対応においても、法を知っているかどうかでずいぶん違います。学校だけでなく企業や役所、地域の公民館、図書館などでも学ぶ機会を作るべきです。パンフレットやチラシなどの紙媒体や、ネット上の目につくところで情報発信していくのもありですね。

 もちろん、警察など取り締まり機関との連携も欠かせません。さらに、対応を効果的にするためには罰則の強化も候補に挙がるでしょうね

 

 ハリウッド映画『スパイダーマン』で主人公の父親が、「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」と言っていました。「自己責任」はそれ自体がプレッシャーを生む言葉です。このため、みんな良くないことがあれば他人の責任にしたいところです(片田珠美「一億総他責社会」イースト新書)。

 

 しかし、人間の本性や昨今の社会の激しい変化に照らして考えるならば、個人個人の自由度を高めることを前提に、自由に伴う責任の度合いを強め、かつ、みんなにもその点の認識を高めてもらう「自由責任主義」こそが、今の世の中に求められていると言えるでしょう。 

 

 

 

【トラブルになる前に知っておきたい刑法の例】(週刊ダイヤモンド2019.2.16)

罪名(刑法) 概要  刑法における懲役または罰金に関する定め 

不退去罪(第130条)・・・要求したにも関わらず退去しない。3年以下10万円以下

威力業務妨害罪(第233条)・・・威嚇するなどして業務を妨害。3年以下50万円以下

強要罪(第223条)・・・脅迫や暴行により従わせる。3年以下

脅迫罪(第222条)・・・危害を加えることを告知して脅迫。2年以下30万円以下

恐喝罪(第249条)・・・脅して金品を要求。10年以下