「働き方改革」はバラ色?それとも付け焼刃?

2019年4月29日(月)

 レーブだ。

 4月になり「働き方改革」がスタートした。各職場では手探りで取組みが進められていることだろう。ポイントは、①長時間労働の是正、②公正な待遇、③多様で柔軟な働き方、の3つだ。

 

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 長時間労働については、時間外労働、いわゆる残業時間に上限が設けられた。1か月間で45時間、1年間で360時間が原則だ。(布施直春「『働き方改革関連法』早わかり」PHPビジネス新書)

 労働時間を減らす方向はよい。長時間労働などが原因で精神疾患として労災認定された人が498人(2016年度)と過去最多を更新した。メンタルをサポートする意味でもとても重要だ。(「文藝春秋オピニオン2018年の論点100」文藝春秋

 

 一方で「働き方改革」が財界主導による「都合の良い『働かせ方改革』」になる危険がある。日本経済は長く低迷している。成長のために「雇用の流動化」が必要とされている。

 これには、日本の雇用慣行である終身雇用や年功序列を打破するねらいがありそうだ。「同一労働・同一賃金」もこの文脈で考えると分かりやすい。仕事内容が同じであれば賃金を同じにすればよい。今の職場に不満があれば出ていけばいい、そして自分が働きやすいと思う職場に動いてもらえればいい、という考え方が見え隠れする。

 

 とは言え、「同一労働・同一賃金」は大きなトレンドになるだろう。日本では非正規雇用が増加している。男性で2割、女性で5割、全体で3割にのぼる。むしろこれからは「非正規」のほうが普通になる。「非正規」という用語を変えてもいいくらいだ。

 ちなみにドイツでは2000年の「ハルツ改革」により労働市場改革が推し進められた。その結果、経済成長率はEU諸国の中で高いほうにあるものの非正規雇用が増加した。日本がドイツの後追いをする可能性は十分ある。

 

 ここで考えてみたい。

 

 非正規雇用が増えるということは、多くが低所得者層に当てはまることを意味する。それは経済格差の拡大をも意味する。果たして我々は素直に受け止めることができるのだろうか。

 ジョン・ロールズの「正義論」というのがある。この中では、全体の所得格差が拡大したとしても最も貧しい層の所得水準を向上させる経済成長が正しい政策とされている。八代尚宏働き方改革の経済学」日本評論社

 一方、経済協力開発機構OECD)の報告は「正義論」が必ずしも正しくないことを示唆している。メキシコやイギリス、アメリカなど多くの国で格差の拡大がその後の経済成長率を押し下げ、逆にスペインやフランスなどは格差縮小が一人当たりのGDP成長に寄与している。 

 

 今は正規の労働者も、歳をとれば非正規となる可能性は十分ある。70歳以上になっても働こうとするのであればなおさらだ。自分の子や孫が正規労働者でいられる保証は無い。「みんな非正規」となる事態を想定しておく必要がある

 今回の働き方改革が、最貧層の所得水準向上に結び付くのかどうか、きちんとチェックしていく必要がある。 並行して、ベーシックインカム導入の可否を真剣に議論しておくべきだ。

 

 高度プロフェッショナル制度についても、この文脈で考えると定期昇給や残業代の廃止がねらいではないかと思える。海老原嗣生「いっしょうけんめい『働かない』社会をつくる」)

 年収要件は1,075万円。対象業務は金融商品の開発、研究開発などとなっており該当者は限られている。しかし、今後対象者が拡大するだろう。

 この話は元々「ホワイトカラーエグゼンプション」といって、賃金の底上げにつながっている中高年層ホワイトカラーを狙い撃ちにしていたものだ。彼らのモチベーションを下げることにならないか心配だ。(久原穏「『働き方改革』の嘘」集英社新書

 

 そもそも、顧客の要求がますます多様で複雑になっているにも関わらず、従業員数の十分な手当てがないまま今に至っていることが問題だ。

 「お客様は神様」という姿勢で全ての要望に完璧に対応するのは困難だ。「プラスアルファ」のサービスを求める顧客には、サービスに見合った料金を「プラスアルファ」で追加負担してもらうべきだ。そして、賃金の底上げに反映させるべきだ。

 そうすれば、多様なサービスに応えるシステムになるし、多様な働き方にもつながる。サービス・利用料金と労働者数・賃金のバランスを評価する仕組みをつくるべきだ。

 

 多様な働き方として、テレワーク、在宅勤務、在宅就業(SOHO)は魅力的に聞こえる。米国の研究によると、幸福度の高い従業員はそうでない従業員に比べて生産性が30%高くなるという報告もある。従業員の働き方の選択肢を広げ、幸福度を高めるべきだ。

 しかし、そのためには、仕事の範囲や内容を明確に定めるなど管理者による業務管理が今まで以上に求められる。また、組織内で融通が利かなくなる、若手の自然習熟の機会が少なくなる、といった課題もある。柔軟な組織設計を考えなくてはならない。

 法的整備も課題だ。テレワークなどの働き方については、労働基準法最低賃金法、労働安全衛生法などは適用されていない。優秀な人材を確保するためにも制度の充実は検討に値する。

 

 「働き方改革」が本物なのか、目先の経済成長の追っかけでしかないのか、政府や企業の本気度が試される。