新型コロナで見えた「新しい医療の様式」。「ゆるい医療」よさようなら!

2020年7月13日(月)

 ハルです。

 

 新型コロナウイルス感染症が再拡大しつつあります。医療体制への影響が懸念されます。その一方でこれまでの対応の中で、「新しい生活様式」と同様、これからの医療のあり方が見えた気がします

 

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 国内で感染が拡大し、誰しもウイルスを持っているかもしれないという状況下で、患者と医療スタッフとの接触を避けるため、国がスマートフォンなどを使ったオンライン診療を解禁しました。

 従来は「対面診療」が原則とされ、日本医師会厚生労働省がオンライン診療の拡大に慎重な姿勢をとっていました。しかし、今回は、感染が収束するまでのやむを得ない時限措置として認められました。受診歴が無い初診患者についてもオンラインで診療し、薬の処方もできるという思い切りのよさに驚かされました。大変画期的なことです。(Wedge May 2020)

 

 オンライン診療の活用には対面診療と同等のエビデンスが必要だという慎重な意見があります。では今回、診療の質は落ちたのでしょうか。もしも、「落ちた」と言い切れないのであれば、利便性の観点から、新型コロナウイルス感染症でなくとも、遠隔診療を進める道が開けることとなります。へき地や離島に住んでいる、自分で車を運転できない、など医療機関へのアクセスが悪い方にとって安心につながります。

 

 また、医療機関のベッドが足りなくなるという理由から、検査陽性となった患者の入院期間を短くして、その代わりに自宅に帰れるようになるまでの期間をホテルで過ごしてもらうという措置がとられました。いわゆる「宿泊施設療養」です。もちろん、重症患者は対象になりません。症状が全く無い方や症状があっても比較的軽い方について、ホテルの個室で誰とも触れないようにしながら約14日間の健康観察を行うというものです。自由度は落ちますが、医療面がちょっと手厚いマンション暮らしといったところでしょうか。

 一方の医療機関では院内感染が勃発し、「安全神話」が崩れました。新型コロナウイルスが医師たちの想定を上回る感染力を持っていたのです。むしろ、様々な患者が集まり、病院内を行き来する医療スタッフがいる医療機関でこそ感染リスクが高まりました。がんや糖尿病などの基礎疾患を持つ患者にとっては「死」すら覚悟したかもしれません。 

 そうであれば、いっそのこと平時から、重症者以外は原則自宅で療養とするという形をとることとしてはどうでしょうか。これまで国も在宅医療を進めてきました。自宅を「院外ベッド」と称してきました。

 例えばインフルエンザについて、米国感染症学会のガイドラインは、慢性疾患や免疫低下状態の人、妊産婦、乳幼児、高齢者を除き、抗インフルエンザウイルス薬の積極的使用を推奨していません。対症療法しか方法が無いのですから、自宅で安静にしているのが正解なのです。(木村知「病気は社会が引き起こす」角川新書)

 

 これからは、新型コロナウイルス感染症や他の感染症に備えて、医療機関における感染防護能力が一層問われることとなります。ですから、患者をできる限り自宅療養にすることができれば、医療機関の負担を減らすことができます。

 ここでもオンライン診療技術の活用が期待されます。街中のお店に入る際、手首に当てる赤外線体温計を目にしたと思いますが、例えば、自宅に備え付けたモニター装置から赤外線を出して体温チェックすることも可能になるでしょう。AIの持つ深層学習を使えば、患者の顔の表情や体の微妙な動きから診断に役立つ情報が得られるようになります。

 あとは受診に至る仕組みづくりを行えば、在宅での受診は可能です。もちろん、医師が必要と判断すれば、医療スタッフを自宅に派遣したり、患者に医療機関に来てもらったりすればよいのです。そうすれば、病院の一般外来は不要になるでしょう

 

 国は病床の確保を病院側にお任せしていました。その割に、医療費削減のため、あの手この手で病床数を減らそうとしていたところ、新型コロナウイルス感染症の対応では、休眠病床を再利用することによって病床不足をカバーすることができました。このことは逆に、平時からゆとりある病床の維持を容認することにもつながり、その分の医療費は国民の負担として跳ね返ってきます。(Wedge June 2020) 

 日本は、今回の封じ込めを「日本モデル」として自画自賛しています。要因として、高い医療の質とフリーアクセスを強調していますが、こうした全体に「ゆるい」医療提供体制は、もはや医療費の伸びほどに平均寿命や健康寿命を延ばしているとは言いがたいです。仮に、国民が今後も「ゆるい」医療を望むというのであれば、それに見合ったコストを払わなくてはなりません。

 今回のコロナ禍をきっかけに、日本が誇る医療システムが将来にわたって持続可能なものかどうか、今一度、検証してみる必要があります。