テレワークの拡がり・・・・「ITシステム帝国主義」の夜明け

2020年8月3日(月)

 レーブだ。 

 新型コロナウイルス感染症のおかげでテレワークが進んだ。パーソル総合研究所の調査によると、4月中旬における正社員のテレワーク実施率は全国平均で27.9%、東京都に限れば49.1%と驚異的だ。(週刊東洋経済2020.6.6)

 

 「通勤地獄」を味わっていた人は幸福感を得られたのではないか。「意外に仕事に集中できた」「家族と過ごす時間が増えた」とメリットを享受できた人もいるだろう。逆に「孤独を感じた」「コミュニケーションがとりづらい」と不便さを感じた人もいたかもしれない。

 テレワークを導入しやすい業界に情報通信業や学術研究部門などが挙げられる。一方、製造業、運輸業などは戸惑ったことだろう。しかし、こうした業界も、テレワークを部分的に採り入れつつ、週休3日にするなど働き方自体を変えていくきっかけができた。

 いずれ、医療や小売業など、社会機能維持のため今回「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれた人たちにもテレワークが試みられるだろう。現場ではいわれなき差別を受けた人も多い。歓迎すべきことだ。

 

 しかし、静かに危機が迫っている。覚えているだろうか、オックスフォード大学の研究チームが発表した、約半数の職業が消滅するという予測を。我々の仕事はコンピュータ化でIT技術やAIに代替されていくということを。(新井紀子「AIvs.教科書が読めない子どもたち」東洋経済新報社) 

 テレワークが当たり前となれば、対面形式によるコミュニケーションのスキルや妙といったものは不要となる。それは、機械学習にはもってこいのシチュエーションだ。人は今ほどには要らなくなる

 

f:id:KyoMizushima:20200627085558j:plain

ワーナーブラザーズ「AI崩壊」

 社会は投資家(資産家)、企業家(生産者)、労働者(消費者)の3つの階層に分けられる。その中で2対1の同盟関係を作った側が経済を制する

 例えば、19世紀の欧米では、投資家と企業家がタッグを組んで資本主義を推し進め、自由放任主義がもてはやされた。対抗としてマルクス主義が生まれた。

 20世紀中頃になると大量失業問題が生じた。手を組んだのは企業家と労働者だった。一方でイギリスの投資家は投資先を見失った。

 1980年代になると社会が豊かになった。投資家は世界のどこでも有利な場所に投資し、労働者は世界のどこからでも一番安いものを買うようになった。(長沼伸一郎「現代経済学の直観的方法」講談社

 

 では、次の時代はどうなるか

 もうお分かりだろう。ITシステムの登場により、労働者の力は確実に弱まる。必然的に投資家と企業家が組むことになる。企業家は新しい業態を開発し、投資家がこれに投資する。固定費である人件費を抑えるため、増え過ぎた労働者の数減らしが進む。

 もちろん、労働者のもつ「消費者」としての役割は大切にしたいところだ。労働者には最低限の消費活動だけは続けてもらい、そこから搾り取るようにして得られた利潤で経済が回る世界となる。これが「ITシステム帝国主義だ。労働者は「無自覚な奴隷」となる。

 

 テレワークはその試金石となる。企業は残業代の削減に動くだろうし、交通費も浮かせられる。過労死があっても労働災害かどうかの判断が困難となる。オフィスも不要となり、お互いの顔も生産性も見えにくくなる。自発的に動かない労働者の温床ともなる。人事評価は意味をなさなくなり、人員削減はしやすくなる。

 

 労働者ひとり一人の存在価値を高めるようにしなくてはならない水は利用価値は高いが交換価値はほとんど無い。交換価値というものは、消費によって得る「平均」の価値ではなく、新たに消費しようとする「限界」価値によって決まる。

 今や労働者は過多気味であり、「限界」価値は小さい。さらに、オフィス中心の働き方によって得られた「労働の質」がテレワークの中で消費され、減っていく。こうして知らぬ間に労働の質は下がり、生産性も低下する。一方、労働者個人には交渉力は無く、お互いの関係性も薄くなる中、交渉の機会さえ少なくなる。

 

 対抗策はただ一つ。インターネット上で横断的な労働組合を作るのだ。これまでも、労働組合、政府の労働規制、最低賃金などの改革によって買い手独占力が破られたことが生産性の伸びをさらに加速させる重要な要因になったことを思い出してほしい。(エリック・A・ポズナーら「RADICAL MARKETS 脱・私有財産の世紀」東洋経済

 この「ITシステム帝国労働組合」は、自らプラットフォームを立ち上げ、参加と団結を呼びかける。企業による不合理な扱いについては情報交換し合いながらネット上で企業と交渉を行う。

 こうして、自分たち自身に価値を作り、公正な労働市場を作ることによって生産性を上げることができる。今後、労働者であり消費者である者としての「存在」を世の中に明らかにすることが重要になってくるのだ