縮みゆくヒトの脳 「反抗」の術(すべ)は無いのか!?

2020年9月14日(月)

 ハルです。 

 新型コロナウイルス感染症の影響で、以前に比べて自宅で過ごす時間が増えました。心配なのは外部からの刺激が少なくなり、脳が退化してしまうことです。 

 

f:id:KyoMizushima:20200727224925j:plain

ソニーピクチャーズ「エスケープ・ルーム」

 そもそも脳は人類の進化とともに大きくなってきました。最初の拡大は、200万年前、ホモ属が誕生した時です。といっても当時の脳の大きさは牛乳パックに少し足りないくらいです。この時、運動ニューロンへの結合が増えました。手、顔、言語に使用される器官の精密な運動制御に利用されたのです。

 次に数十年前に2度目の拡大が起きます。現代のホモ・サピエンスにつながる頃です。この時、前頭前皮質が大きく拡大しました。人格、意思決定、リスク管理、将来の計画など脳の実行機能が上昇しました。

 面白いのは、こうした機能が脳の拡大に貢献したわけではなく、逆に、脳が拡大したことによって、複雑な思考や言語のような認知能力をつけることができるようになったということです。「外適応のプロセス」と言われています。

(アンドリュー・W・ロー「適応的市場仮説」東洋経済

 

 こうしたプロセスを経て、人類は動物や類人猿とは違う「社会性」を身につけていきました。イギリスの人類学者ロビン・ダンバーが1992年に発表した論文によると、キツネザル、サル、類人猿の38種を調べると脳の容積と集団の規模が比例するそうです。ちなみに人間の集団の最適規模は150人とされ、「ダンバー数」と言われています。(サフィ・バーコール「LOONSHOTS」日経BP

 そして、人類はコミュニケーションの手段として「言語」を修得しました。言語の基盤となる遺伝子の一つとして、FOXP2遺伝子の存在が明らかとなっています。(カール・ジンマーら「進化の教科書」講談社

 

 ところが、脳の拡大は止まり、縮小に向かっています。現代の人類の脳は、3万年前のネアンデルタール人クロマニヨン人の脳と比べて、テニスボール1個分縮小したという報告もあります。

 脳はエネルギーを大量消費します。社会が複雑化されるに従い、システムを理解するため脳が大きくなると考えがちですが、実際は逆で、生存のための知能を使う必要が少なくなり、脳が大きなキャパシティを抱えておくことが非効率になっているのです。

 さらに、現代はTVや漫画などの娯楽が増え、頭をいじめる時間が少なくなっています。パソコンやスマホなど便利なツールが身の回りにあふれ、調べ物やコミュニケーションがより手軽に行えるようになっています。このまま放っておくと、私たちの脳は間違いなく劣化します。加えて人類は「長寿」を手に入れました。おまけに認知症うつ病までも手に入れてしまったのです。

 

 加齢による脳への影響をいくつか挙げます。

・メンタライジング、すなわち他者の意図を推測する能力が落ちる。→空気が読めない

・報酬予想能力が20%超低下し、人を信じやすくなる。→オレオレ詐欺の餌食

・事実に関する記憶(意味記憶)や車の運転方法などの手続き記憶は衰えないが、短期記憶や、ある状況下である程度の時間をかけて起きたことについての記憶(エピソード記憶)は衰える。→眼鏡がどこにあるか分からない(おでこにかけている!)

・問題解決能力は20歳をピークに75歳までの間に約40%低下する。→老害

・健康上の問題(聴力や視力の低下、慢性疾患)が増え、孤独感も増える。→うつ病

 

 こうした加齢に伴う脳の劣化を防ぎ、活性化させる方法として以下のことが挙げられます。 

・マインドフルネスは最も強力な対ストレス療法の一つであり、高齢者にも有効。

・カロリー制限を行うと、加齢に伴う炎症と関係のある血中物質(c-反応性タンパク質))が減少する。

・記憶力を大幅に改善するためには、挑戦的に新しい考え方を経験する。効果的なのは意見が異なり議論できる相手を見つけること。

・複数の言語を扱ったり、音楽を聴いたり、読書したり、運動したりするといった生活習慣を身に付ける。

・処理速度ゲームを行うと、認知症になる確率が低下する。

・マインド食(ベリー、野菜、全粒粉、ナッツ)は、アルツハイマー病の発症リスクを劇的に下げる。

(ジョン・メディナ「ブレイン・ルール」東洋経済

 

 このように、私たちは縮みゆく脳のキャパシティをフルに使う工夫をしなくてはなりません。それは、単に、認知症うつ病といった病気の予防につながるだけでなく、まだ眠っている能力を引き出すことができるかもしれません。

 もし、高齢者が若者以上に、あるいは若者とは別の能力を発揮することができればどうでしょう。高齢者と若者との効果的なマッチングによって人類は更なる発展を遂げることができるかもしれません。今こそ、加齢によって脳も衰えるだけというこれまでの常識に「反抗」してみませんか?そうです。脳はまだ進化途上なのです。