中小企業に浴びせられるのは「冷や水」?「熱湯」?

2020年11月23日(月)

 コノミです。

 

 新型コロナウイルス感染症は日本経済にピンチをもたらしました。倒産企業が増え、「Go To イート」や「Go To トラベル」もどうしよう・・・ということではありません。あまりにも多くの中小企業が救われているというピンチです。このピンチを乗り越えられなければ日本の運命はますます厳しいものとなるでしょう。

 

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 政府による経済対策は大盤振る舞いでした。小規模企業に対し、本来なら「資産を担保」に融資が行われるところ、「担保なし」に切り替える動きが急拡大しました。3~7月の金融機関による貸出額は40兆円以上に膨らみました。

 「持続化給付金」もそうです。前年同月と比べて売り上げが50%以上減少している月があった中小法人に最大200万円が支給されますが、基準が緩く、月ごとの売上げを操作されてしまいます。(NIKKEI BUSINESS 2020.09.28)

 そして、2020年上半期(1~6月)の倒産件数は3,943件と2019年同期と比べて1.4%「減少」と一定の効果が現れています。

 

 中小企業を守りたい気持ちは分かります。倒産すれば関係者は仕事を失います。

 過去には中小企業が重要な役割を果たしてきました。1972年からの10年間、人口の増加により約300万人が新たに労働市場に参入しましたが、オイルショックが立ちふさがりました。大企業は雇用をあまり進めず、余った労働力は中小企業が吸収しました。中小企業は「労働力の貯水池」とさえ呼ばれました。(小熊英二「日本社会のしくみ」講談社現代新書

 

 失業率が高まると社会は安定さを失います。不況に備え、雇用の行き先として中小企業をキープしておきたいという心理も働くことでしょう。もちろん、それだけでなく、中小企業のモノづくりの力が大企業を支え、日本経済の成長を促したのも事実です。

 しかし、石油ショックから半世紀が経ち、日本経済を取り巻く環境は厳しくなっています。特に「生産性の低さ」が指摘されていますが、その原因として挙げられているのが中小企業、とりわけ従業員数20人未満の小さな企業が多く、そこで働く人の割合が高いということです。逆に、従業員数250人以上の企業で働く人の割合は低くなっています。

 

【参考】20人未満の企業で働く人の割合(%)

 日本  ギリシャ イギリス ドイツ アメリ

 20.5   35.3   18.1   13.0   11.1 

 

 規模の小さい中小規模が多いと、「輸出」という大きな事業に踏み切ることができる企業が少なくなります。日本は世界第4位の輸出大国ですが、対GDP比による輸出額は世界160位と低いことはあまり知られていません。ほんの一握りの大企業がグローバルに活躍しているにすぎないのです。(デービッド・アトキンソン「国運の分岐点」講談社+α新書)

  国内市場は成熟しています。もう、「作れば儲かる」という状況にはありません。少子高齢化に加え、人口も減少しており、一人当たりの消費力も全体の消費量も落ちています。企業に求められているのは、海外に直接展開していく力です

 

 アパレル業界が典型例です。国内衣料品の市場規模は2017年で9兆7500億円と、バブル期の15兆円規模から3分の2に縮んでいます。そして、国内生産は風前の灯です。国内企業の多くが世の中の変化にうまく対応できていないのです。(福田稔「2030年アパレルの未来」東洋経済新報社

 一方でグローバルのアパレル市場には成長できる余地があります。国際的ブランドとなったユニクロも元々は個人衣料品店でした。今後はデジタルトランスフォーメーション(DX)に成功した一部のグローバル企業が市場を抑え、シェアを拡大していくという構図になるでしょう。

 

 もはや国内で成長を待つゆとりはありません。成長する海外市場に目を向けなくてはなりません。サービスや運営のデジタル化は必至です。店舗型にこだわらず、EC(電子商取引)先行で進めることも考えなくてはなりません。 

 国はメリハリをつけて支援を行うべきです。全ての企業を救済するという「護送船団方式」は国全体を沈没させかねません。海外に直接展開していく企業に重点を置いて支援するのです

 人材育成も重要です。グローバル経済の視点からは、現場の創造性と経営管理との役割をはっきり分けることが求められます経営管理については、ビジネススキル教育の強化が必要ですし、加えてコミュニケーション力やプレゼンテーション力も求められます。

 

 これまでの日本経済はぬるま湯でした。新型コロナウイルス感染症のような危機的な状況がなければ、いわゆる「ゆでガエル」になっていたことでしょう。今、私たちの背中には「熱湯」がかけられたのです。直ちに方針転換を行い、思い切って飛び出すことで「真の」ピンチから脱出することができるのです。