本格化するコロナ・メンタルヘルス問題

2021年1月18日(月)

 ハルです。

 

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が11都府県で実施されています。成人式を楽しみにしていた人もいたことでしょう。みなさんのメンタルヘルスが心配です

 

 2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)に襲われた香港では、65歳以上の自殺率が30%増えました。2005年にハリケーンカトリーナが上陸したアメリカのルイジアナ州ニューオリンズでは、住民の半数が「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」や気分の落ち込みを経験しました。

 今回の新型コロナウイルス感染症について、厚生労働省が行った調査によると、最初の緊急事態宣言が出された令和2年4~5月頃に「何らかの不安等」を感じている人は6割に上り、その多くが「感染」に対する不安でした。5月、多くの死者を出したアメリカでは約3人に1人が不安や不眠、憂鬱な気分といった精神的苦痛を「高レベル」で経験しました。

 

 さらに、経済活動の減退が「間接的に」死をまねく可能性もあります。失業率が1ポイント悪化すると自殺者が1.6%増えるとする研究報告があります(NEWSWEEK 2020.8.25)。

 「新型コロナウイルス関連倒産」は全国累計で875件に達しています(帝国データバンク2021.1.8)。独立行政法人労働政策研究・研修機構の「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響」によると、完全失業者数は4月以降急激に増え、11月までの累計で195万人となっています。そして、警察庁の統計によると、自殺者数は10月に2000人を超える事態となりました。

 一度は危機を乗り切ったと思われましたが、再び出された緊急事態宣言は、こうした先行き不安な統計データと相まって、より大きな不安を生むことになるでしょう。時間を置いてメンタルヘルス問題が深刻化する可能性があります

 

 大切なのは、冷静さを保つことです。日本での被害は、感染者数はともかく死亡者数は欧米諸国に比べて格段に少なく抑えられています。

 理由として、他の東アジア諸国でも死亡者数が少ないことから、そもそも東アジア地域は新型コロナウイルスに対する何らかの免疫を持っていたという説が有力です(小林よしのりゴーマニズム宣言 コロナ論」扶桑社)。

 しかし、それ以上に、手洗い・マスク着用の意識が高かったこと、日本の医療システムが迅速な救命措置を可能にしていることなどが考えられます。

 何せ、欧米諸国ではマスクをつけないことが「個人の権利」として成立する上に、マスクを着用していると「ヤバい人」扱いされるという世界観なのです。さすがに、同列に論じることはできないでしょう。(谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない2」ワニブックスPLUS新書)

 

 油断は禁物ですが、このように感染症関連データを冷静に分析すれば、必要以上に怖がることはないのです。現在、イギリス、南アフリカ、ブラジルからの帰国者などから変異種が見つかり大きく報道されていますが、対応の基本は同じです。

 前述の厚生労働省メンタルヘルス調査においても、不安やストレスの解消法として、手洗いやマスクの着用といった「予防行動」を挙げる人が多数いることが分かりました。

 「ワクチン接種が始まれば心配はなくなる」といった過剰な期待はせずに、不要不急の外出を控えながら、新しい生活様式を受け入れ、実践することが大切です。

 

 日本では、明治政府が富国強兵策を進める中で感染症対策に力を入れました。明治19年1886年)には総人口約3850万人のうち94万人が亡くなっていますが、その5分1がコレラをはじめとする感染症によるものでした。このため、衛生教育の徹底がなされ、今日に至っています。(奥田昌子「日本人の病気と食の歴史」ベスト新書)

 つまり、日本人は、意識的にも無意識にも、「公衆衛生」を日常生活に採り入れてきたのです

 

 こうしたことから、感染症によるメンタルヘルス面での対応としては、公的機関やテレビ、新聞などのマスメディアによる、丁寧な情報提供・発信が重要となってくるのです。 

 新型コロナウイルス感染症をめぐる日本における対応は、「Go To トラベル」キャンペーンをめぐる混乱に見られるように、一貫性が無く何を守りたいのかがはっきりしませんでした。これでは、国民の信頼を得ることはできません。結果、感染の再拡大を尻目に、これまで守ってきたはずの予防行動でさえ「ルーズ」になってしまいます。

 今、政府や自治体、マスメディアは、本来の「粘り強い」日本人像をもっと信頼して、従来の情報提供・発信のあり方を検証し、今後は、根拠をはっきり示しながら、取組の理解を求めていくことが必要です。そして、地に足の着いた「雇用政策」に重点をシフトすべきです。 

 このように信頼関係を構築することが、メンタルヘルスにとって最も重要なのです。

 

f:id:KyoMizushima:20200922214659j:plain