DDS(デザイン、データ&サブスクリプション)が紡ぐ未来消費

2021年1月25日(月)

 コノミです。

 

 新型コロナウイルス感染症がデジタル・トランスフォーメーション(DX)を後押ししています。そして、来月、国会に提出される「デジタル改革関連法案」はこの流れを加速します。

 

 未来の消費活動のポイントは「デザイン」と「データ」です。まず「デザイン」で消費者を惹きつけ、その過程で必要な「データ」を取得します。世の中のトレンド、消費者の好み、サービスの使い方・・・これらを分析し、さらにその人向けにカスタマイズしたサービスを提供します。「デザイン」も新しくなっているでしょう。あらゆる場面でこのようなサイクルが回り始めます。

 そして、こうしたサービス形態に「サブスクリプション」はうってつけですサブスクリプションは製品やサービスを使う「権利」を定期購入するというビジネスモデルです。社会学者のエベレット・ロジャーズによると、新しいものへの感度が高い人は全体の半数に及びます。みんなと同じようでいたい、でも、みんなと違うものを・・・そこに人は惹きつけられます。この思いに寄り添うことのできる「デザイン」・「データ」と心地よさを持続させてくれる「サブスクリプション」は最強の組み合わせなのです。

(山本康正「2025年を制覇する破壊的企業」SB新書)

 

 「デザイン」は商品に留まりません。例えば、音楽の定額聴き放題サービス「Sportify」が画期的なのは多くの機能を無料会員でも利用できるとしたことです。この押し付けがましくないところが「かっこいい」のです。また、ファッションサービスの「airCloset」は、ファッション業界で活躍する現役スタイリストを取り揃え、購買者に合ったコーディネートを提供しています。こうした「しくみ」にも「デザイン」力が発揮されるのです

(リンクアップ「60分で分かる!サブスクリプション技術評論社

 

 「デザイン」・「データ」&「サブスクリプション」は、新型コロナウイルス感染症の逆風さえも上手に利用します。

 しばらくは旅行をあきらめざるを得ない状態ですが、現在検討されている工夫には注目したいです。ANAは「仮想旅行」の事業化に着手しました。スマートフォンを使ってその場にいるかのような空間を作り出し、疑似体験が可能となります。お土産も買えます。もし、1回の料金を低額で抑えることができれば、リピーターが増えること間違いなしです(読売新聞2021.1.22)。

 どうしても移動したい場合は、将来的には「無人ロボットタクシー」を利用することも考えられます。道中、車内モニターが現地の歴史や特徴を教えてくれたり、見どころでは車壁を透明にして景色を堪能させてくれたりするかもしれません。

 こうして旅行が終わると、顧客の感動ポイントをデータ化し、他の客のデータも加えつつ、次回はもっと感動的なサービスを提供してくれることでしょう(日経トレンディ 12.2000)。

 

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 こうした未来は一見素晴らしいように思えます。しかし、サービスが個別化するように見えて、実は、多様性を失っていくおそれがあります

 理由の一つは、データ関連企業がどんどん淘汰されて巨大化するためです。企業の多くは株式会社ですが、株式会社というのはその存続と株主の利益というジレンマを克服するため、「生産」をひたすら拡大しなくてはなりません。

 製造業であれば、供給が需要を上回ることで活動が停滞しますが、データ産業はコストを徹底的に削減して事業を拡大していくことが可能です。GAFAなどの大企業はベンチャー企業を吸収して、ますます大きくなっていきます。こうなると、様々な企業がそれぞれの独自性を発揮する機会が失われます。(平川克美「株式会社の世界史」東洋経済

 

 もう一つの理由は、サブスクリプションが私たちを「骨抜き」にしてしまうためですサブスクリプションでは短期的な収益は見込めません。このため、長期的に顧客を囲い込めるよう様々な工夫が施されます。その手段として「デザイン」と「データ」が利用されるわけですが、先の例で言うと、自分でファッションや旅程を考えるといった手間や煩わしさから解放してくれます。例えれば、実際にかゆいところではなく、かゆくなりそうなところをいつも先回りして掻いてくれるのです。

 それは、私たちの感性や考える力を失うことにつながります。その時の私たちの存在というのは、利益をもたらしてくれる「記号」か「データ」の一部でしかありません。それで幸せというのであればそれでもいいのかもしれません。しかし、こうしたサイクルの繰り返しは、消費活動を促進することはあっても、私たちの生産能力を上げることに貢献するわけではありません。

 「デザイン」・「データ」&「サブスクリプション」が紡ぐ未来社会は、私たちを「人間らしさ」からより遠ざけてしまうような気がしてならないのです。