「ディスタンス」ではなく、「ネットワーク」構築こそ大事!

2021年3月29日(月)

 コノミです。

 

 3月20日東京オリンピックパラリンピックで海外からの観客を受け入れないことが決まりました。残念ですが、新型コロナウイルス感染症による感染リスクを抑えるためには、「他人」との直接的な距離「ディスタンス」をとらなくてはならないからです。

 人は長い歴史の中で、閉鎖的な面を持ちつつも「他人」とつながることで発展してきました。平時は個人主義、災害が多ければ集団主義的になると指摘されています。

 しかし、グローバルな感染症という危機的状況の中では、「他人」と距離をとる「自分」を保ち続けなければなりません。人としての本質が揺さぶられています。「ネットワーク」理論により、目に見えない脅威を乗り越えなくてはなりません。

 

 「他人」や「外部」とつながるネットワークがもたらす経済的効果は明らかです。

 つながる人ほど給料が高い傾向にあります。従業員1人当たりの売上高は、県外企業との取引を増やすと増えます。マクロレベルで見ても同様です。1人当たりのGDP成長率は、貿易を自由化すると平均1~1.5ポイント増加します。逆に閉鎖的だと成長が鈍ります。ラテンアメリカでは1960年代から80年代にかけて保護主義的な政策をとったため、経済を停滞させることとなりました。

(戸堂康之「なぜ『よそ者』とつながることが最強なのか」プレジデント社)

 

 「ネットワーク」を薦める理由は、互いの強みを活かし合い、補い合うという分業の効果があるからです。個々のプレーヤーが持つ経験値や知識、能力によって新しい「知恵」が生まれます。自分では気付かないことも、客観的視点からのフィードバックが気付かせてくれます。

 もちろん、「ネットワーク」にはリスクもあります。感染症リスクやリーマン・ショックのような金融リスクは、予測不可能なシステミック・リスクをも引き起こします。現代はネットワーク自体が複雑であること、情報伝達や移動のスピードが上がったため、リスクの伝搬スピードが一段と早くなったことから、その影響は甚大です。

 だからといって「守り」の対応を続けることは問題です。「ネットワーク」から離れ、閉鎖的状態を続けてしまうと、成長力が失われます。そして、ますます今得られている利益について、「守り」を強化するという負のスパイラルに陥ることとなります。

 

 ただでさえ、日本は経済基盤や社会保障が充実していて、それこそ一人でも幸せな生活を送れます。もちろん、絶えまない刺激から自分を守る手段として、一定の距離をとりながら他人と接する態度をとらざるを得ないのも仕方ないです。

 さらに、インターネットやソーシャルメディアは、人を結び付ける一方で分断も生んでいます。加えて、2040年には国内の独身世帯が47%になると見込まれるほど少子高齢化が進んでいて、一人でいることの準備が求められています。

 こうしたことを背景に、「空間」が価値を持つようになっています。フランスの社会学アンリ・ルフェーブルが唱えた「空間の商品化」です。最近、お一人用のワークスペースを見るようになりました。家庭でも、自宅の敷地にわざわざコンテナハウスを設置してその中で過ごす人もいます。仕切りで個室の雰囲気を味わえるラーメン屋もあります。「孤食」がストレスを和らげてくれるのです。(南後由和「ひとり空間の都市論」ちくま新書

 

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 このままだと、個人の能力は今以上には上がらず、生産性も落ちます。当然、イノベーションは生まれないでしょう。自己肯定感にも歪みが生じてきます。「いいね」の数やコメントとかいったデジタル・アウトプットでしか自分を確認できなくなってしまいます。その一方で「他人」への寛容さが薄れ、争いの種を生みます。

(荒川和久、中野信子「『一人で生きる』が当たり前になる社会」ディスカヴァー携書)

 

 「ネットワーク」を築くことを、社会が求めていかなくてはなりません。そうしないと手遅れになってしまいます。一人一人が「ネットワーク」理論を知り、その重要性を認識することが大切です。ネットワークの考え方は、話題のワクチンにも応用できます。予防接種は「重症化を防ぐ」だけでなく、感染者が新たに何人に感染させるかという「基本再生産数」を減らすためにも必要であることを教えてくれます。

 また、国内だけでなく国際的な交流を絶やさないことも必要です。例えば、社会的立場や行動履歴、PCR検査結果などいくつかの指標を総合的に見て問題ないと判断された人同士については従来ベースの経済活動を認めるなど、一定の条件下での緩和を図るのです。

 

 感染対策と並行してこれらの取組を行うことによって、経済が活性化し、感染対策に必要な予算も充てられるという好循環を生むことができます。今、必要なのは逆転の発想です。その根本にあるのは、人が人であるがゆえの「本質」なのです。