非正規が当たり前?発動せよ!「第2の雇用セーフティネット」

2021年6月14日(月)

 レーブだ。

 

 新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の解除まであと1週間となった。新規感染者数は減少傾向にあるが、インド型変異株が拡大しており、依然、予断を許さない。そして、雇用市場も厳しい情勢が続いている。

 読売新聞社日本テレビ放送網の調査によると、主要企業101社における2022年春の新卒採用は、「減らす」としたのが21社、「前年並み」が49社、「増やす」が14社であった。ますます非正規雇用が増えることになるだろう総務省労働力調査によると、2020年の非正規雇用者数は2090万人で全体の37.1%を占める。早晩、半数に及ぶ。

 そもそも、サービス産業の比重が高まると非正規雇用が多くなる。サービスは需要が発生した際に即提供されなくてはならないという「生産と消費の同時性・同地性」が求められているからだ。さらに、今後はICTが普及する。企業で職員をじっくり養成する必要が無くなり、長期雇用は必須でなくなるのだ。(酒井正「日本のセーフティネット格差」慶應義塾大学出版社) 

 

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名刺ゲーム

 問題は、非正規雇用が今も「常態」でないものと扱われ、このため、セーフティネットがおろそかになっていることだ。非正規雇用の増加は1980年代後半から始まっていた。しかし、正規雇用のほうも増えていたため実態が見えづらくなっていたのだ。そして、バブル崩壊後の「就職氷河期」(1994~2007年)という魔法の言葉が、特殊事情であるかのように錯覚させた。だが、経済のマクロトレンドは「ごまかし」を許してくれない。2000~2013年は「第二氷河期」と言えるし、今回のコロナ禍は「永続氷河期」と化すだろう。今後、こうした世代が社会の中枢を占めるようになる。 

 

 では、非正規雇用の何が問題なのか。一つは健康リスクである。以前、エディカが紹介したように、非正規雇用者の不健康感は正規雇用者より2割程度高くなる。これは、雇用が将来にわたって保証されないことによる精神面のプレッシャーによる。(小塩隆士「日本人の健康を社会科学で考える」日本経済新聞出版)

 特に、非正規雇用のうちパート主婦を除くアンダークラス」と呼ばれる人たちは、生活に強い不満を感じ、自分は不幸だと考える傾向が強い。2016年首都圏調査によると、「うつ病やその他の心の病気の診断・治療を受けたことがある」人は22.6%に及ぶ。(橋本健二アンダークラス2030」毎日新聞出版) 

 もう一つの問題は、セーフティネットから外れるリスクだ。国民年金の納付率は7割を切る状況だが、未納は自営業者等よりも非正規雇用や無業者に多い。理由として、年金を払える能力が無いという「流動性制約要因」が挙げられる。雇用保険は早くから非正規雇用に適用されたが、実際の受給者割合は低下している。一度でも不安定な職に就くとその後も不安定な状態が続くことになり、所得が低くなるからだ。「流動性制約要因」の罠と言われている。

 

 危険な状況だ。放置すると影響は労働者の大半に及び、中間層をも飲み込んでしまう。中間層が沈むことは国家が沈むことを意味する(吉田徹「アフター・リベラル」講談社現代新書)。抜本的な取組が必要となる。解決策は、雇用経験を条件としない給付を行うことだ。それは、既存のセーフティネットに代わる「第2の雇用セーフティネット」の出番を意味する

 具体的には、正規雇用・非正規雇用の如何を問わず、失業給付を誰にでも公平に行うこととする。そして、年金給付については、徐々にベーシック・インカムに置き換えていけばいい。これによって、誰もが「安心」を得ることができるし、健康リスクを下げることにもつながる。 

 当然、財源の確保が必要だ。既存の社会保障の体系的見直しが求められる。例えば、医療保険と労働保険の統一が挙げられる。加齢によるリスク上昇が労災を招いている可能性があるからだ。どのような場合も一律の医療給付を行えばよい

 また、効果の薄い給付は止めるべきだ。就業支援制度は一例だ。就労支援はもともと情報の非対称性による「構造的失業」を想定したものだ。しかし、今、生じているのは「需要不足失業」だ。現状に即しているとは言い難い。 

 さらに、保険料だけでは限界がある。富裕層ほど負担感が小さくて済むという逆進性があるからだ。税金の役割が期待される。以前、フィナが提案した「累進消費税」が参考になる。

 このように、ベーシック・インカムの導入は既存の制度を徹底的に見直すきっかけを与えてくれる。 これからは、非正規雇用が当たり前となる。誰もが、引け目を感じることなく、健康面や将来への不安も感じることなく、様々な経験を積めるようにすべきだ。こうした人材が我が国の「宝」となる。時代の動きを先取りし、社会全体で包摂していく姿勢が求められている。