「デジタル都市」は永久に不滅です!?

2021年10月11日(月)

 トランだ。

 

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)の究極の用途は何だろうか?俺は「都市」だと考えるぜ。8日に行われた岸田総理の所信表明演説では「デジタル田園都市国家構想」っていうものまで飛び出してきたぜ。インフラが十分でない地方の方が取り組みやすいってことなんだろうな。しかし、あえて言うぜ。「デジタル都市」こそが俺たちの生活を支えてくれるだろうって。

 そもそも都市の魅力は「情報」だ。情報なき都市は衰退する。約4000年前に作られたインドの古代都市モヘンジョダロは下水道が整備され、圧倒的な先進性を誇っていた。考えてもみてくれ。古代ローマを除けば、西洋で下水道が整備されたのは1858年のロンドンと意外に最近の話だ。しかし、モヘンジョダロは滅亡した。その理由は今でも謎だが、一説によると、一部の支配者層が文字を独占的に使用していたために、都市として十分に機能しなかったことが原因って言われている。

 一方で情報を回す都市は栄える。グーテンベルクが発明した活版印刷術によって、都市の人口が増加し、一人当たりのGDPも増加したことがデータで明らかにされている。情報が行き渡り、住民が賢くなると経済成長を後押しするってことさ。(葉村真樹「都市5.0」SE SHOEISHA)   

 

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 改めて現代に思いを馳せると、未来の都市像が浮かび上がってくる。それは、都市における「日常活動空間」と「居住空間」の出現だ。

 ここで言う「日常活動空間」は、アメリカのジャーナリスト、ジェイソン・ジェイコブズが提唱した「ミクストユース」の具現化だ。つまり、DXの環境が十分に整い、目的の異なる人や用途の混在が発展し、商業空間でもあるが仕事もできるし人と憩うこともできる、それでいて自宅のような落ち着いた時間が過ごせる空間のことだ。

 これまで都市は、中心部にある「職場」と、買い物や遊びの「非日常空間」、「職場」とは離れた「居住空間」から3つで成り立っていた。未来都市では、中心部が「日常」の空間と化す。そして、個人は「職場」から解放され、どこにいても仕事をすることができる。家族との団らんの場所だって「居住空間」に限られることは無いんだぜ。インターネットの社会では、情報をむりやり都市の中心部に集中させる必要なんて無いからだ。

 

 こうした「日常活動空間」は「居住空間」と情報面で一体化することによって、俺たちの生活を見事に支えてくれる。これこそ、「デジタル都市」の真骨頂だ

 まずは「安全」だ。街中のセンサーやカメラが俺たちの行動を守ってくれる。交通事故が起きないよう車の運転は制御される。全国で整備されている社会インフラ(道路約128万㎞、橋梁73万橋、トンネル1万本、河川管理施設3万施設、砂防堤等10万基、下水道管渠47万㎞)は老朽化が心配されているが、特殊なセンサーが実際の使用頻度などを感知してメンテナンスの優先度を知らせてくれる。犯罪が起きないよう監視カメラや追跡システムが抑止効果をもたらす。ドローンやロボットとの共働が効果的だ。

 高齢化社会では「健康支援」も重要だ。風呂やトイレを含めて、自宅のあちこちに張り巡らされたセンサーやカメラ、そして、ウェアラブル端末が一体となって、24時間365日、身体の状態をチェックしてくれる。その日の体調などに応じて、食事の管理、運動の推奨、快適な睡眠を支援してくれるぜ。こうしたデータは「日常活動空間」でも共有される。移動時でも不整脈が発生すれば救急搬送が発動される。そこまでいかなくても、状態に合わせて、その日の歩行ルートの紹介や、レストランや食品購入におけるメニュー選択のアドバイスが得られる(日経BP総合研究所「空間✕ヘルスケア2030」日経BP)。全てを合わせると膨大なデータ量になるが、研究開発が進められている量子コンピュータが実用化されれば、これらの実現にぐっと近づくだろう。

 

 どうだい。素敵な「デジタル都市」がイメージできるだろう。だが、課題もある。「居住空間」をどう形成するかが重要になってくる。人類は集団生活を営むことで、また、そのようなものとして発展してきた。人は寂しさを好まない。心理的セーフティネットとして、「居住空間」にコミュニティを形成しておかなくてはならない

 「居住空間」に、DXによるバーチャル環境を導入することは可能だ。誰もがアクセスでき、生活面で必要な情報を入手・交換できる「場」を作っておくと便利だろう。しかし、十分とは言えない。バーチャル環境を補完するため、また、デジタル社会に取り残される人がいることにも思いを致して、リアルなコミュニティ活動の場も用意しておこう

 「デジタル都市」は人の集住を要しない。情報ネットワークにより、人はより自由活発になる。都市の歴史に新たな1ページを加えることになるだろう。