タクシー業界の最後の姿とは・・・

2021年12月13日(月)

 トランだ。

 

 新型コロナウイルス感染症は交通に影響を与えたぜ。今、感染が見つかっているオミクロン株がどうなるかは神のみぞ知るだが、去年の最初の緊急事態宣言では「移動は乗用車で」というケースが増えたようだが、タクシーの利用も増えたかというとそうでもないようだ。どうやら、タクシーってのは、経済動向に連動するみたいだな。日本経済の今後を思うとタクシー業界の将来は厳しいものになると予想するぜ。

 

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 東京都では、タクシーの輸送人員数はリーマンショック時にどーんと落ちた。その後は戻すこともなく横ばい状態となっている。反対に東京メトロは少し増やしている。(太田和博ら「総合研究日本のタクシー産業」慶應義塾大学出版会)

 輸送人員数を戻せない理由として、業界における構造的な問題がありそうだ。まずは、運賃の高さを含めた「使い勝手」だ。公共交通機関に比べると、個人単位、かつ、ドアトゥードアで運んでくれる利便性はあるが、その分運賃は高くなる。そして、タクシー運転者と利用者の間には圧倒的な情報格差がある。ルート、所要時間、料金などだ。加えて運転手の人柄や安全性も気になってくる。「当たり」が悪いと、乗ってる間中、嫌な思いをする。「二度と使うもんか!」と思った経験はあるはずだぜ。

 

 しかし、運転手にあたるのも気の毒だ。彼らの年収は310万円と見積もられている。さらに、労働時間が長いから時間当たりの金額でみると、過去30年間、全産業労働者の8割に達したことがない。リーマン・ショック後に至っては5割を切ったそうだ。しかも、車両のリース料や燃料費等といった必要経費を会社に支払い、残りが運転者の賃金になるという仕組みで、取り分は売り上げの55~65%程度だ。だから、近場まで送ってくれと言うと途端に怖い顔になって、乗車拒否される確率が高まる。

 こうした中、運転手数は2015年には34万人だったのが、2020年には28万人と激減している。今や、平均年齢は60.1歳だ。かといって勤続年数は必ずしも伸びていない。離職率が高いってことだぜ。勤務形態には「昼日勤」「夜日勤」「隔日勤務」の3種類があるが、主流は、1日20時間働いて2日分の勤務をこなす「隔日勤務」だ。24時間365日の稼働要請から生じる長時間・深夜・不規則労働、連続的に運転作業をこなすことに伴う精神的負担。座りっぱなしで腰だって悪くするぜ。どうだい?過酷だろう。

 

 背景にあるのは「同一地域同一運賃」ルールだ。タクシー業界は多くが中小企業から成り立っている。だから、不当競争が労働条件の悪化につながって安全性を含むサービスの質が低下しないよう、また、様々な運賃が存在することによって利用者が混乱しないよう、最小限の運賃幅を設ける仕組みになっている。

 そうなると、事業者としてはできるだけ保有する車両数を増やしてシェアを拡大したいと考える。その分、コストはかかるんだが、歩合制賃金にしているから事業者にとって収入面のリスクは限定的だし、収入は現金でキャッシュフローがすぐに悪くなることはないから即「倒産」とはならない。そして、コロナ禍では怪現象が起きたぜ。不特定多数を乗せるドライバーは、人一倍感染リスクが高い。高齢ドライバーだと重症化の危険も伴う。だから、国からの休業補償や雇用調整助成金をあてにして全休にしたほうが経営的には正解だったぜ。

 非効率の結果が、多すぎる東京のタクシー車両だ。国際比較をすると、ニューヨークは約1万3600台(人口841万人)、ロンドンは2万台(人口898万人)のところ、東京は約4万7000台(人口1396万人)もあるぜ。(栗田シメイ「タクシー業界サバイバル」扶桑社新書

 

 これからのタクシー業界の行方が案じられるぜ。最後の「絵姿」はどうだろうか?

 鍵はアプリだ。最初の緊急事態宣言では、アプリ配車の伸びが圧倒的だった。アプリ配車をうまく活用できているドライバーとそうでない者の営収の差は大きくなった。それに、安い料金を設定しているタクシーだと、儲けられる月と儲けられない月の差が激しいってこともある。ゆくゆくはダイナミック・プライシングを導入したほうが業界が活性化するだろう。こうした意味でもアプリを利用することは事業者側にとってもメリットが大きい。将来はマッチングサービスが基幹インフラとなる可能性が高い

 さらに、自動運転車が浸透すれば運転手が不要となるし、サービスもどんどん透明化されていく。個人個人の用途にカスタマイズされた多様なサービスを取り込むことだって可能となる。自家用車で駐車場を探し回るより、移動のたびにピンポイントで利用することができれば便利だろう。車種だって移動ごとにチェンジできると面白い。それを「タクシー」とは呼ばないのかもしれないが、重用なのは今から絵を描いておくことだぜ。