「知能低下社会」がやってきた!

2022年1月17日(月)

  ソシエッタです。

 

 オミクロン株の感染拡大が止まらなくなってきました。人流があれば感染は広がります。私たちは再び活動レベルを下げ、閉じこもらなくてはならないのでしょうか。

 昨年10月、日本出身である眞鍋淑郎氏がノーベル物理学賞を受賞することが決まりました。日本からノーベル賞は出なくなると言われる中での受賞でした。でも、これからは本当に出なくなるかもしれません。今、先進国に「知能低下社会」が到来しています。日本も例外ではありません。

 

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 ここでいう「知能」は、最も重要な認知能力であり、様々な能力に通じる「一般知能」です。反論に「フリン効果」を挙げる人もいるでしょう。これは、平均的なIQスコアが20世紀を通じて上昇してきた、というものです。でも、IQスコアが測っているのは、「一般知能」との関係が弱い科学的・分析的な思考様式です。

 近代以降、科学的・分析的な方法で考えることが正しいとされてきましたが、その反面、「一般知能」はゆっくり低下してきました。2017年、アイスランド大学が発表した研究によると、「一般知能」に関わる遺伝子スコアを持つ人の割合は1910年から減少傾向にあります。識字率や計算能力などの低下は「知能低下」を示唆しています

 背景にあるのが自然選択のパターンの消滅です。かつて、より高い「一般知能」の遺伝子が生き残ってきました。その後、医療や衛生の改善により幼い命が守られるとともに、女性がその能力をキャリア形成に捧げるようになり、出生数が減少しました。こうして、高い知能を持つ人が生まれる確率が低下しつつあります。これは、文明の宿痾です。ほとんどの国において、平均的な教育レベルと最終的な出生率には有意の負の相関があります。また、福祉国家が平均知能の低下を助けていると指摘する声もあります。

 「本当に知能が低下していると言えるのか」「女性の社会進出はだめとでもと言うのかしら」とお怒りの方もいるでしょう。でも現実は、産業発展後、数十年のタイムラグを経て、重要なイノベーションの発生頻度は低下しています。今見られるのは漸進的進歩にしかすぎないのです。(エドワード・ダットンら「知能低下の人類史」春秋社)

 

 日本の現状も厳しいです。世界に冠たる長寿国ではありますが、少子化が進み、人口が減少しています。女性のさらなる活躍が切望されています。ソーシャルメディアによるコミュニケーションが増え、難易度の高い言葉に触れる機会が激減しています。日本における「一般知能」の低下は他国よりも著しいと言えるでしょう。

 問題は、こうした問題に誰も気づいていないことです。多くの人が日本の「経済的」繁栄は終わったと感じていますが、階層意識については、「上流」が増え「下流」が減っていると勘違いされています。若い世代でその傾向が強いです。収入は減っているのですが、デフレのおかげで生活困窮にならないだけです。また、周囲を見渡してもみな同じに見え、自分は「中流」だと安心するのです。その傍ら、筋トレや美容に精を出し、仕事で成果を出すという「個人志向」的な人生観が増えています。世のため人のためという意識が弱くなります。知能が高いほど、投票などの市民活動にも参加し、極端な意見を持たなくなるのですが・・・日本の将来が心配です。(三浦展「大下流国家」光文社新書

 

 「知能低下」の実態は巧妙に隠されています。身も蓋もない言い方ですが、能力の多くは生来決まっています。でも、公平感を演出するため誰もが学校に行けるようにしておいて、「あとは各自の努力次第です」という考え方が広く受け入れられています。でも、階層は固定化されています。そして、格差自体はなくなりません。社会が機能する上で一定の役割を果たしているからです。むしろ、格差が減れば、その小さな格差が私たちを余計に苦しめます。(小坂井敏晶「格差という虚構」ちくま新書

 イノベーションを起こさなくてはなりません。経済面だけではなく、文明を維持するためにも重要です。成功する社会にとって、少数であっても適切な数の「天才」が必要なのです。「天才」は社会全体の「知能」が上がるにつれ、登場します。そのためには地道な取組が必要です。

 一つはスマホやインターネットとの付き合い方の見直しです。「表現」は脳が健全に機能するために必要なことですが、ソーシャルメディアは単に「はけ口」でしかありません。操作の一つ一つや使用言語について「一般知能」を高められるようシステム面で制御していく工夫が必要です。もう一つは、自然と触れ合うことのできる機会づくりです。自然から得られる感覚を大事にするのです。これらの取組を長い年月をかけて行い、知能遺伝子を永眠させないよう揺さぶり続けながら、コロナが去った後、活動レベルのギアを一気に上げる準備をしておくのです。