「建築」から予想する未来の生活

2022年6月20日(金)

 トランだ。

 

 ウクライナは依然、ひどい状況だ。終結の見通しは立たないが、仮にこの紛争が終わったとして、国土が復興するまでどのくらいの年月を要するのだろうか。ついそんなことを想像してしまう。

 そして、もし、日本が外国から攻め込まれるような事態になったらどうか。もっとひどいことになるぜ。なぜなら、日本人の危機意識は西洋と比べて弱い。これは、「建築」を見れば分かる。「建築」は歴史を語り、そこで生活する人間の考えを教えてくれれる。「建築」の視点を持つことで、物事の本質に迫れるぜ

 

 新型コロナ感染症の対応では西欧の諸都市で厳しいロックダウンが敷かれた。「City」という言葉はラテン語の「キビタス」から派生しているが、その意味は、「壁の内側に人が密集している場所」だ。都市ってのは「壁」で守られている。中国では「國」や「邑」がこれに当たる。そして、都市では住民に厳密なルールが課せられる。そうしないと、たちどころに敵に攻め込まれて滅ぼされるからだ。したがって、西欧では「公」という概念が確立しやすい。

 ボードゲームの名作「カルカソンヌ」は実在した中世フランスの城塞都市だ。フランク王国カール大帝が5年にわたって攻撃したが、結局、落とすことができなかった。住民の団結力、そして、マネジメントがすごかったんだ。都市封鎖をするには、秩序維持のための様々な配慮が必要になってくる。物流も確保しなくちゃならない。精神的不安にも対処しなくてはならない。こんな風に、西欧ではロックダウンという非常時モードへの切替えが当たり前のようにできる

カルカソンヌ本村凌二監修「建築でつかむ世界史図鑑」二見書房)

 一方で、日本人は変わることを自然に受け止める精神文化を持つ。これには、四季の変化をはじめとする自然環境が影響している。普段はあんまり感じていないかもしれないが、日本の自然環境は意外に厳しいんだぜ。地震や台風はしょっちゅうあるし、加えて、住める場所の地盤はゆるい。河川は急こう配だから雨が降れば一気に川から海へ流れてしまう。豪雪地帯も多い。こういう塩梅だから、危機が起こってから考えればいいやという思考回路が形成される。そして、周りは海だ。大陸との距離のおかげで心配する「敵」は外にいない。むしろ、内にあるぜ。住める場所は小さく分散している平野の、極めて小さな集落になっちまう。顔見知り仲間での緊張を高めないことが大事だ。

 新型コロナ感染症対応では、検疫対策を厳しくし、国内ではゆるやかな「自粛」が採用された。これで十分なんだぜ。だから、日本では「共」という概念が成立しやすい。長屋で住むか、そうでなければ一軒家で大家族で住むかだ。(大石久和「国土が日本人の謎を解く」産経セレクト)

 アメリカはまた一味違う。象徴はホワイトハウスだ。建築様式はパッラ―ディオ様式と呼ばれるもので、古代ギリシャ・ローマの神殿建築がベースだ。古代ギリシャ・ローマと言えば、人間や市民社会を中心とする価値観を持つ。つまり、アメリカは個人の「権利」を重んじるってことを「建物」が高らかに宣伝しているわけだ。(祝田秀全「建築から世界史を読む方法」KAWADE夢新書)

 

 じゃあ、これからの建築はどのような方向に進むのだろうか。鍵は「SDGs」だ。エコで、かつ、気候変動に備えた建築が志向されるだろう東京オリンピックパラリンピック隈研吾が設計した新国立競技場が分かりやすい例だぜ。競技場では木の庇(ひさし)が使用されている。木材の使用はぬくもりを感じるとともに、地球温暖化の抑止効果もある。樹木は一定程度まで成長すると二酸化炭素吸収が極端に低下してしまう。だから、その段階で伐採して有効活用しつつ、新たに植樹していくことがエコサイクルを生み出すことにつながるんだ。

 また、日本の住宅の平均寿命は25年だ。これは、高度経済成長期に根付いたスクラップアンドビルドに由来している。一方で米国は45年、英国は75年といずれも長い。サステナブル」という観点から、これからは長寿住宅が志向されるようになるだろう。

(スタジオワーク「眠れなくなるほど面白い建築の話」日本文芸社

 日本は高齢化が進み、人口が減少傾向にある。さしもの東京都も減少し始めた。だから、いつまでもスクラップアンドビルドって訳にはいかないぜ。となると、防犯や防災に不安がある一軒家でもなく、移動が不便で停電に弱い高層マンションでもなく、これらの中間に当たる低層マンション風の建築が増えていくに違いない。そして、そこが新しい「ムラ」になる。日本人は何だかんだいって寂しがり屋だから、周囲に人がいるってことが大事だ。こうした基本単位を元にした生活が想定される。感染症も基本単位で対応するのだろう。その時どんなスタイルの建築様式になっているか、今から楽しみだぜ。