進歩したいなら、「オープン」それとも「クローズド」?

2022年8月15日(月)

 コノミです。

 

 今日は終戦記念日です。ウクライナの紛争は続いています。世界の平和を願わずにはいられません。紛争は「わたしたち」と「あなたたち」を隔てることから始まります。そして、経済事情が大いに関わります。リーマンショック、コロナショック、今回のインフレを経て、世界は内向きになっています。これからどうなるのでしょうか?

 

 

 もともとヒトは協力的な生物です。チンパンジーの黒目のまわりは茶目です。仲間に視線の先を悟られないためです。だから獲物をゲットできます。一方のヒトは白目です。自分が注目するものは仲間にも分かり、情報をたやすく共有できます。生まれながらにして「オープン」なのです。「オープン」だと、違った性質の人々が出会い、思想を豊かにし、多くの問題を解決できます。このことが文明にイノベーションと進歩をもたらします

 シリコンバレーは自由な気風で知られています。グーグルでは、創業者ラリー・ペイジらが開発アイデアを出せばスタッフの間に自由な意見が飛び交います。地位を誇示するような個室は一つもありません。その雰囲気は「幼稚園の遊び場」と表現されています。また、フェイスブックザッカーバーグによる株主への手紙には、「オープンであれ」と書かれています。(山根節ら「なぜ日本からGAFAは生まれないのか」光文社新書

 歴史も「オープン」であることの重要性を教えてくれます。中国の宋(960~1279年)はイギリスよりはるか前に産業革命を起こすポテンシャルを持っていました。国内統一後、皇帝は将軍を引退させ、内政に力を入れました。イスラム商人、インド僧侶、ペルシャ人、ユダヤ教徒を歓迎し、都市は商人や科学者であふれました。百科全書が編集され、陶製の活字による印刷が発明されました。茶の商人により紙幣が生まれました。鉄の生産量は1700年頃のヨーロッパ全体の量に匹敵するほどでした。

 オランダは小さな国ですが、17世紀に黄金時代を迎え、「オランダの奇跡」と呼ばれました。これも、ユグノー派、プロテスタントユダヤ教徒、クェーカー教徒など他の国で弾圧された集団にとっての移民先となり、頭脳が集まり、産業が発達したおかげなのです。(ヨハン・ノルベリ「OPEN」NewsPicksパブリッシング)

 

 悲しいことに人間は部族人でもあります。協力はしますが、それは他人を倒すためでもあります。「オープン」は生活に安全や裕福をもたらしてくれますが、人はしばしば「オープン」であることに不安を感じます。そして、わずかな不安や不快を感じるだけで他の集団に対し不寛容になります。こうした心理が、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」やイギリスのブレグジットを生んだのです。

 都市や国が発展する過程でも、保護や防衛、つまり、「クローズド」であることが支持されます。アメリカ建国の父の1人であるハミルトンも、「国際レベルの分業を拒んでこそ、国家の生産性は分業によって向上する。」と断じました。(マシュー・C・クレイン&マイケル・ペティス「貿易戦争は階級闘争である」みすず書房

 貿易も同様です。貿易は品物に価格差が生じることで行われますが、現実的には、その利益を最初に得たものが後続の国々に追いつかせないよう、「自由貿易」を主張しています。中国はWTOに加盟することで世界の工場として躍進しました。その一方で、外国企業には国内企業との合弁事業を求めたり、技術移転を強要したりしたのです。中国では指導者は、自分の求めるものが分かっていれば産業とイノベーターに対して極めて大きな自由を与えますが、その反面、「意外性」を嫌います。(長沼伸一郎「現代経済学の直観的方法」講談社)(トーマス・オーリッツ「CHINA:中国経済の謎」ダイヤモンド社

 

 このように、「オープン」であるべきか「クローズド」であるべきかは、人間の本質に照らしても、歴史に照らしても、難しい問題であり、タイミングが重要です。最初は「オープン」であるべきです。「意外性」は「オープン」な社会でこそ生まれる強みです。そこから「勝ち組」が生まれます。

 大事なのは勝ちすぎないことです。集団が大きくなり、安定を維持しようとする人たちが増え、集団が内向きになります。その時、文明の衰退が始まります。ヨーロッパが今も世界の中心の一角を占めているのは、幸か不幸か、国家としても思想としても統一できなかったからです。

 勝ちすぎないようにするためには、独占禁止法などの規制が必要です。そうです。「クローズド」の出番です。その際には一定の基準を設け、そこに達したら再び「オープン」にするという柔軟さがあるといいです。基準は「ジニ係数」や「失業率」「インフレ率」などが挙げられます。この絶妙なバランス感覚を実行に移せる国が、真の安定を維持することになるでしょう。