「副業ビッグバン」でスーパー人材が誕生!?

2022年8月29日(月)

 レーブだ。

 

 「副業できたらいいのになあ」と思っている人は多いだろう。一つの職場に縛られず、身の置き場が増える。気分転換にもなるし、人との出会いも増える。ペットブームの昨今、飼い主に代わってペットを散歩させる代行業もあるらしい。ペット好きにはたまらないだろう。自分の人生をより豊かにできそうだ。

 しかし、現実は甘くない。うかつに手を出すと疲れる。芸人が下積み時代に飲食業なんかでバイトしていたという話をよく聞くが、ネタを書く時間を取れなければ本末転倒だ。誰もが充実感を味わえる副業のしくみにするべきだ。

 

 

 国による副業政策は今回が初めてではない。明治末期から大正にかけて、農家に対し副業が奨励された。農業の機械化が進み、人手が余るようになったからだ。同時に第1次産業である農業から第2次産業である工業へ産業構造自体が変化することとなった。人々は農村部から都市部へと移動した。移動した労働者は企業が吸収した。

 次の節目はバブル崩壊後だ。1995年、経団連は不景気を乗り切るために「雇用の流動化」を提唱した。聞こえは良いが、要は非正規雇用を増やして人件費全体を抑えにかかったのだ。先進国の中でこれほど非正規雇用が増えているのは日本だけだ。当然ながら、正規雇用に「雇用の流動化」は生まれなかった。(大村大次郎「経済危機の世界史」清談社)

 さらに、時代は下って2018年、厚生労働省が公表しているモデル就業規則が改定され、ついに、原則禁止とされていた副業が許可された。

 想定されているのはIT技術の活用だ。クラウドソーシングサービスが手っ取り早い。記事を書いたりデザインを提供したりと、自分の特技を活かすことができる。また、新型コロナウイルス感染症を気にしなくてはいけない中、「巣ごもり」食事を提供するウーバーイーツ、来店の必要が無い「LINE相談」はありがたい。テレワークを駆使すれば、通勤ストレスともおさらばだ。実際、多くの副業保有者は、自宅やカフェ、ファミレスを職場として利用する傾向にある。(「副業お得技ベストセレクション」晋遊舎

 副業を希望する者が副業すると幸福感が高まる上、副業を持っていない者と比べて年収も上がる。これは、転職・起業によるものであり、「飛び石効果」と言われる。副業の推進は「雇用の流動化」を高めるのだ。

 

 一見すると、副業は自由度が上がり、労働者にとってメリットが大きいように思える。しかし、歴史を振り返ると、企業側が推し進めてきたのは、雇用の不確実性を高めて人件費の上昇を抑制することにある。

 副業を選択する労働者が増えるということは、別の角度から見れば、自社の新規雇用を絞った上で、全国を対象にアウトソーシングして、外部の即戦労働者をより安い賃金で使用することができるともとれる。現時点で正社員の副業を全面的に認める企業は23.7%と低調なのは、ひょっとしたら良いことなのかもしれない(2022.6.25日本経済新聞)。

 課題は収入だ。副業を持つ者の約65.4%が金銭的な動機を持つ。また、世帯所得200万円未満のワーキング・プア世帯が、最も副業を持つ傾向にある。彼らは活動時間を最大限仕事に充てることになる。これで疲れないわけがない。週当たりの労働時間が55時間を超えると仕事満足度が高まるとされているが、彼らには当てはまらないだろう。その一方でメンタルヘルスは悪化する。身体を壊してしまっては元も子もない。こうなると労働者はもはや「道具」だ。同じ道具なら、AIやロボットのほうがうまくこなせるかもしれない。副業の推進はこうしたリスクを伴うことを忘れてはならない。(川上淳之「『副業』の研究」慶應義塾大学出版会)

 

 ではどうしたらよいか。「同一労働同一賃金」と「ワークシェアリング」がヒントになる。労働時間の基本単位を「8時間」ではなく、「4時間」としてはどうだろう。例えば、午前8:00~12:00は自宅でA社のテレワークを行い、休憩や移動をはさんで14:00~18:00はB社の営業活動を行う。「本業」「副業」という概念自体が無くなる。こうした毎日をしばらく続け、A社とB社を比べて気に入ったほうを4時間✕2単位とフルにしてもいい。または、A社を固定しておいて、B社をC社やD社にチェンジするのもありだ。給与は各社半分ずつとなる。4時間もあれば、個人の能力をそこそこ活かすこともできよう。他社の業務を経験することで幅も広がる。企業からすると、労働者の人流が倍増する。良い人材に当たる確率も高まる。

 現在、副業を持つ者は労働力人口の1割にしか過ぎない。これが、2割3割と増えていけば、雇用市場の雰囲気も変わる。これこそが「副業ビッグバン」だ。一流の能力を複数持つスーパー人材も誕生しよう。世界に類を見ない壮大な仕掛けで、日本の経済成長を促したい。