そのペットボトルが「水戦争」を引き起こす!

2022年9月19日(月)

 エンヴィです。

 

 ペットボトルってありがたい存在ですよね。缶だと封を切ったら飲み干さないといけませんが、ペットボトルであれば、好きな時に適量を飲むことができます。炭酸だって閉じ込めておけます。今、台風14号が猛威を奮っています。災害に備えてペットボトル水を用意している人も多いことでしょう。

 

 ペットボトル水市場が大幅に拡大しています。そして、大きな問題を引き起こしています。ボトル・ウォーター産業は地球環境を最も汚染している産業の一つであり、最も規制が行われていない産業の一つでもあります。

 ペットボトル水はほとんどが地下水です。その取水先は、水が減りつつある水系に集中しています。驚くべきことに、ペットボトル水の生産には、大量の水道水が使われています。もしも、あなたが500mlのペットボトル水を飲んでいるとしたら、その2.6倍、ほぼ1.5リットルのビッグサイズ分の水を消費していることになるのです。それだったら、水道水を直接飲んだ方がはるかに「エコ」です。僕たちは水のありがたみをもっと感じなくてはならないのです。(モード・バーロウ「ウォーター・ビジネス」作品社)

 

 

 日本は水資源に恵まれています。一般家庭における1日の水の消費量は1人当たり約250L(リットル)です。しかも、風呂65L、トイレ60L、洗濯50L、炊事55Lと、ほとんどが洗浄用です。生命に必要な飲料用はわずかです。ありがたみを感じる機会が少ないわけです。(沖大幹ら「知っておきたい水問題」九州大学紙出版会)

 でも、世界は違います。それこそ、「水戦争」が起きているほどです。1967年の第3次中東戦争は、乾燥地帯における水資源の奪い合いから起きました。複数の国にまたがるナイル川インダス川の流域でも争いが起きています。

 地球上には約14㎦の水がありますが、淡水はたったの2.5%で、多くが氷山や氷河です。気候変動が地球を襲っています。氷山や氷河が溶けて塩水と混ざれば、もはや飲むことはできません。さらに、都市に人口が集中し、人々の「水ストレス」が増えています。2050年までに、アジアで10億人以上が水不足に陥るとされています。こうなると川の水は極めて貴重です。世界中で水の使用権をめぐって緊張状態が続いています。(インフォビジュアル研究所「図解で分かる14歳からの水と環境問題」太田出版

 

 日本にいると、こうした世界の厳しい現状に思いを致すことはないでしょう。ところが、日本も「水ストレス」の高い国なのです。実に、年間約800億㎦ものバーチャルウォーター(仮想水)を「農産物」という形で世界から輸入しているのです。主な輸入先は、米国、中国、豪州、タイなどで、このうち米国、中国、豪州では水資源の問題が深刻化しています。つまり、日本で水不足を感じずに済んでいるのは、他国の犠牲のおかげなのです。

 国内にも問題はあります。日本の地下水への依存度は25%ですが、地下水を汲み上げすぎると地盤沈下が生じます。実際、佐賀県新潟県魚沼市では地盤沈下が進んでいます。また、日本では硝酸性窒素による地下水汚染が深刻です。原因は肥料や畜産施設の動物の糞尿です。これらは「ノンポイント汚染」と呼ばれています。汚染の発生源を絞ることができないからです。ということは、問題への対処が広域にわたって必要になるということです。解決は容易ではありません。

 

 「地球に豊富にある海水を淡水化して使えばいいのではないか」という人もいるでしょう。既に実用化されています。アラブ首長国連邦第2の都市ドバイでは、水道水のほとんどが海水から作られていて、300万人を超える人口を支えています。そして、日本は逆浸透膜の技術を使って、中東をはじめとする国々の海水淡水化に貢献しています。でも、話はそれほど簡単ではありません。海水淡水化によって、より高濃度の塩水が排出されてしまうのです。処理のための技術開発が急がれます。

 

 結局、「清浄な水」は無料(ただ)では手に入りません。貴重な「公共財」なのです。ボトル・ウォーターについても、企業の取水や水源涵養の取組が適切かどうか、きちんと監視することが大切です。

 一人ひとりの水に対する意識はより重要です。世界の現状をもっと知らなくてはなりません。そして、行動に移す必要があります。おしゃれな水筒が店頭に並んでいます。ペットボトルの使用を止め、水筒をマイボトルにして持ち歩いてはどうでしょう。

 費用負担も有効な手段です。神奈川県秦野市では「地下水汚染対策基金」を作り、地下水の利用者から集めたお金を汚染対策に充てています。例えば、ペットボトル水に税をかけて、税収を水源地の保全に還元してはどうでしょう。

 いずれもコストがかかる話ですが、こうした取組によって世界の「水戦争」が防げるのであれば安いものです。