メタバース・ワークが巻き起こす「労働革命」!

2023年3月6日(月)

 レーブだ。

 

 「メタバース」という言葉が飛び交っている。これは簡単に言えば、コミュニケーションできるネット上の仮想空間のことだ。だが、ただのコミュニケーションではない。自分の分身であるアバターを使って、没入感たっぷりで行う、ほぼリアルなコミュニケーションだ。今、メタバースを使った働き方が注目されている。このメタバース・ワーク」は底知れない発展の可能性を秘めている

 

 「メタバース・ワーク」には次の3種類がある。

メタバース内で、現実社会の製品やサービスにアクセスする

メタバースを経由して、現実社会で活動する

メタバース内での活動で対価を得る

 

 ①はちょっと手の込んだオンラインショップだ。②は実用化が進みつつある。イメージしやすいのはバーチャルオフィスだ。ただし、テレワーク会議みたいに誰かの会話をじっと耐えて聞いている必要はない。好きな時に同僚のアバターに話しかけることができる。全身をスキャンして作る「リアルアバター」を活用すれば臨場感が増す。

 

 

 そして、アバター」を使うことによる「匿名性」は、働き方を柔軟にしてくれる。リモートワークでは難しかった接客も可能だ。コンビニの「グリーンローソン」では、ディスプレイに表示されたアバターが接客対応してくれる。距離の制約のほか、年齢や性別など様々な制約から解放される。地方に住む高齢者が、自分がデザインした可愛らしいアバターを都会の店舗で操作してもいい。人口減少時代における労働力確保の解決策の一つとなる。対面が障壁となっている場合にも融通が利く。医師にさえ打ち明けにくい身体やメンタルの悩みについて相談しやすくなる。(株式会社往来「アバターワーク」MdN corporation)

 課題は、当然と言えば当然だが、現実社会と同じレベルのスキルが求められることだ。ゲームとはわけが違う。他者との関わり合いで揉まれる必要がある。指導者を設けるなど組織的なマネジメントが必要だろう。どこまでも匿名という訳にはいかない。そうなると、人ではなく「AIアバター」に期待が寄せられることになる。

 

 メタバースのメリットを最大限に活かせるのは、③のパターンだ。とは言え現状では遊びの延長だ。映画『レディ・プレイヤー1』で主人公たちがアバターを使って賞金を稼いでたシーンを覚えているだろうか。

 将来的にはこれを進めて、「デジタルツイン」の世界を創るべきだ。現実社会の鏡像のようなものをメタバース内に作り、アバターの動きをシンクロさせるのだ。これによって「メタバース・ワーク」が一挙に変質する。分かりやすい例で言うと、手術ロボットだ。画像を見ながら遠隔操作することによって、医師が手術室にいなくても、そこに配置されたロボットが代わりに執刀をしてくれる。メタバース内の出来事がそのまま現実社会に反映されるよう「接続」するのだ。料理店ではシェフが操作する調理ロボットが調理をしてくれる。

 

 追加のメリットとして、AIのサポートが期待できる。私たちの仕事は様々な暗黙知によって彩られている(佐々木俊尚「Web3とメタバースは人間を自由にするか」KADOKAWA)。この暗黙知をAIに覚えさせ、人による操作に助言をしてもらうのだ。そうすれば、調理師免許取り立てのシェフだって、一流の腕前に近づける。

 もちろん、課題は多い。現実社会と接続させるには、多種多様かつ多数の機材が必要になる。報酬のための決済システムの確立だって必要だ。メタバース内で使用されている仮想通貨は価値が安定しない。円など現実の通貨を使用できるようにすべきだ。アバターの中身が誰なのか分からないのも怖い。ビジネスに信用は不可欠だ。トラブルにも備えなくてはならない。マイナンバーを紐づけておくなど、いざという時に個人を特定できる手段を残しておくべきだ。

 

 幾多の課題があるにせよ、メタバース・ワーク」は夢を与えてくれる内閣府が実施した令和3年の世論調査によると、「働く目的は何か」という質問に「お金を得るため」と答えた人が6割超えだったのに対し、「社会の一員として務めを果たすため」と答えた人はわずか1割強だった。現代人はお金以外の夢を持てなくなっている(尾登雄平「働き方改革の人類史」イースト・プレス)。

 メタバースは人とAIのマリアージュを実現する。AIにルーチン作業をお願いし、よりクリエイティブな作業を自らが行う。「楽しさ」や「やりがい」が生まれる。「脱労働社会」の誕生だ。(井上智洋「メタバースと経済の未来」文春新書)

 これは、「農業革命」や「産業革命」に劣らない「労働革命」だ。実現には、中長期のビジョンと多額の資金が必要だが、ジリ貧状態にある日本にとって、最後の起爆剤となる。全国民で取り組んでいこうではないか。