悠久なる川を見て、新しい水管理

2023年5月29日(月)

 エンヴィです。

 

 みなさんのお住まいから川は見えますか。川は雨や雪の水を流れにし、海に送り出します。その働きは悠久です。心を癒してくれます。人間の精神は大量の水がある場所に惹かれるそうです。今、川を見る試みが求められています。

 

 東京は今でこそ大都市ですが、徳川家康が入った当時の江戸は、アシだらけの湿地帯でした。そこで家康が真っ先に行ったのは、飲料水の確保でした。神田上水等の水道、牛ヶ淵等のダムが整備されました。

鈴木理生ら「ビジュアルでわかる江戸・東京の地理と歴史」日本実業出版社

 

 

 飲料水の他、水運、国境、農業・工業用水、産業、水力発電など、川と人には様々な関わりがあります。川は交通や産業の流れをも引き寄せます。世界の大都市の約84%が大河川沿いにあります。このため、様々な課題が発生します。

 地球温暖化により気温が上昇すると、蒸発や植物による水の消費量が増加し、川に流れ込む水量が減少します。反対に、豪雨災害も悩みのたねです。舗装のため降雨が土にしみ込まず、川に急速に流れ込む「都市水害」も起きています。

 「河川」だけでなく「流域」全体を考える必要があります。

 国内には3000以上のダムがありますが、土砂の堆積とコンクリートの劣化、水道管の老朽化が気になります。排水の影響も心配です。現在の排水処理施設には医薬品を取り除く力はありません。尿中の医薬品成分が流れると、生物に異常が生じるおそれがあります。抗生物質であれば、耐性菌が生まれるかもしれません。

(岸由二「生きのびるための地域思考」ちくまプリマ―新書)

 

 こうした問題に対して世界が見せている姿勢は積極的です。アメリカでは数多くのダムが取り壊されています。EUでは「水枠組み指令」によって、2027年までに水路を生態学的かつ化学的に良好な状態にすることとされています。中国では、習近平総書記が「生態文明(エコ文明)」構想を提唱し、自然水路のパトロールを行う役人を約20万人も配置しています。(ローレンス・C・スミス「川と人類の文明史」草思社

 ひるがえって、日本の危機感はいかほどでしょう。日本では都市化と水利用を優先しました。このため、節水の意識が弱いです。また、家電のおかげで暮らしが手軽になり、とことん「きれいさ」を求めます。風呂にも洗濯にも相当量の水が使われます。人口が減少する中、今の生活を続けられるだけのコスト負担に耐えられるでしょうか。(中庭光彦「東京都市化と水制度の解釈学」多摩大学出版会)

 

 水利用のスタイルを考え直す必要があります。そのためには、川や排水を「見える化」することが大切です。暗渠だった渋谷川の復活もその一つです。簡易な下水設備を地域コミュニティで管理するのも一案でしょう。排水への意識が高まります。新たな水管理は、川と向き合って長いお付き合いを心がけることで始まります。