「医師の働き方改革」で何が変わる?潜む課題から目を逸らすな!

2024年4月29日(月)

 ハルです。

 

 今月から「医師の働き方改革」が始まりました。制度の背景には、医師の過労死問題があります。医師には求めがあれば診療しなければならないという「応召義務」が課せられています。医師不足と言われる中、医師たちの献身によって医療が提供されてきました。このブラックな慣行に終止符が打たれます。でも、そこに潜む課題に目を向ける必要があります。

灰吹ジジ・中西淳『王の病室』KODANSHA

 改革のメインは、時間外・休日労働時間の上限設定です。年960時間以内をベースとしつつ、救急業務や研修業務に従事する場合は、都道府県知事の指定を受けた医療機関でのみ、年1860時間以内という特例が適用されます。もう一つは「追加的健康確保措置」と呼ばれるものです。時間外・休日労働時間が多い医師に面接指導を行ったり、休息のインターバルを設けたりするものです。(益原大亮「医師の働き方改革 完全解説」日経メディカル)

 改革はリスク管理でもあります。誰しも睡眠不足でフラフラな医師に命を預けたいとは思わないでしょう。改革は確実に進めていく必要があります。一方で、医師の総労働時間が減るため、救急医療に対応できなくなるのではないかという心配の声も挙がっています。それならと医師の数を増やせば、その分の費用を国民全体で支えなくてはなりません。働き手が減少している中、医師を増やすことには限界があります。

 日本の医療は、病床が多いわりに医療従事者が少ないという状況にあります。でも、医師には絶大な権限と裁量があり、医師でなければできないことが多いのです。このため、患者が病床を埋め尽くすと「医師の不足感」が生じ、「もっと医師が欲しい」となります

 

 発想の転換が必要です。ミシェル・フーコーは、個人的な問題までも制度によって統治する仕組みを「生政治」と名付けて批判的に論じました。医療も、健康それ自体が人々の生きる目的になっていて、政府が面倒を見る状態に陥っている可能性があります。(藤井聡「『過剰医療』の構造」ビジネス社)

 日本は高齢化が進みます。高血圧や関節痛など慢性疾患を抱えながら日常生活を送る人が増えます。こうした人の日々の健康管理やルーチンの診察・投薬は、医師だけでなく看護師等のコメディカル・スタッフが行えるようにしてはどうでしょうか?つまり、タスク・シフトやタスク・シェアリングをもっと強力に進めるのです。もちろん、緊急時の対応、がんや脳の手術など、高度の判断、技術、専門性が求められるケースは、専門医に任せるよう「仕分け」るのです。

 国民の認識も重要です。健康維持に責任を持って臨み、絶対に必要な医療とは何かを意識することで、保険料や税金を払うことの意義を感じることが大切です。「医師の働き方改革」をそれだけに終わらせず、「国民の医療意識改革」につなげるべきです。