「格差圧縮」は200年後なのか!?テクノロジーの方向性が決め手

2024年5月6日(月)

 コノミです。

 

 「もしトラ」が現実味を帯びてきました。アメリカ民主主義の危機は、世界の危機でもあります。アメリカ国民の分断の背景には、グローバリゼーションや新自由主義によってもたらされた「経済格差」があります。格差を縮小し、安易なポピュリズムを防がなくてはなりません。(「民主主義の危機」朝日新書

 「格差循環」という考え方があります。「格差の拡大と縮小は交互に起きる」というものです。新しいテクノロジーが登場すると、当初は、その恩恵を受ける人とそうでない人との間に格差が生じますが、徐々に全員が恩恵を受けるようになり、格差が縮小すると考えられます。(小林慶一郎「日本の経済政策」中公新書

 

 でも、現実は厳しいです。格差の拡大を反転させるには時間がかかります。さもなくば、よほどのことが起きなくてはなりません

 イギリスの産業革命の当初、恩恵を受けたのは一部の資本家でした。生産性は向上しましたが、労働者は搾取され、健康を損ないました。企業はひたすら「限界生産性」を追求します。社会全体が恩恵を受けるようになったのは、チャーチズム(人民憲章運動)が盛んになり、組合活動の合法化、投票権の拡大、下水システムの敷設など様々な面で改善が図られたからです。この間、90年もの時間を要しています。

 このように、進歩は「偏り」ます。逆に言えば、テクノロジーの方向を正しくすれば、社会全体を潤すことができます。20世紀初めのアメリカでは労働者が不足し、生産性向上は悲願でした。こうした中、工業化に伴い、生産計画、情報収集、効率性分析が重要となり、エンジニアとホワイトカラーが多く雇用されました。小売・卸売分野でも新しい雇用が生まれました。こうして、国民所得労働分配率が上昇したのです。(ダロン・アセモグル&サイモン・ジョンソン「技術革新と不平等の1000年史」早川書房

 

 今、生成AIなどのデジタル・テクノロジーによって、雇用が脅かされています。しかも私たちは、こうしたテクノロジーで成功した「テクノ・リバタリアン」の言葉に耳を傾けがちです。ですが、人は権力を持つほど利己的に行動します。彼らは、政治家も巻き込んで、新しいテクノロジーを使って人々の無力化を進めてしまいます。恩恵を簡単には譲り渡したりしません。チャットGPTの恩恵を全ての人々が実感できるのは200年後とされています。

 新しいテクノロジーを、新たな雇用の創出や、異なるスキルとニーズを持つ人々を結び付けるプラットフォームの構築に使われるよう振り向けなくてはなりません。そのためには民主主義を確実に機能させることが重要です。権力者には耳障りな声こそが必要なのです。そうしないと待っているのは「大惨事」です。直近で世界に「格差の大圧縮」が生じたのは、第二次世界大戦後の数十年間であったことを忘れてはなりません。