2023年2月20日(月)
コノミです。
2月24日でロシアによるウクライナ侵攻は1年になります。物価が上がっています。地政学的リスクが経済に影響を及ぼしたように見えます。でも、こういう時はものごとを正しく見なくてはなりません。逆なのです。経済が危機を生み出しているのです。
「複合危機」の波が押し寄せています。「複合」の内容は、戦争、金融、人口、感染症、気候変動などです。どれ一つとっても、解決は容易ではありません。これらが一緒に、しかも世界で同時に発生するのです。根幹に経済問題が潜んでいます。正しく見て、正しい処方をしなくてはなりません。そうでないと、私たちの生活は一気に苦しくなります。
地政学的リスクは、グローバリゼーションがもたらすパラドックスです。グローバリゼーションは最初は国家間の格差を、やがては国内の格差を大きくします。そこで為政者は国民の目を外に向けようと、国家を世界から閉じたものにしていきます。トランプ大統領時代のアメリカも、ブレグジットのイギリスもそうです。世界の貿易額の規模は、2008年以降減少傾向にあります。代わりに「経済安全保障」が叫ばれるようになっています。グローバリゼーションは後退しているのです。
中国も例外ではありません。ゼロコロナ対策は国民の反発を買いました。背景には国内の所得格差があります。習近平総書記の3期目続投が決まり、政権は安定しているように見えますが、「安心」なんてないのです。これから、国内では「共同富裕」を唱えながら、外に目を向けさせようとするでしょう。台湾統一工作も本格化させるかもしれません。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「2023年日本はこうなる」東洋経済)
シカゴ大学の研究者らが編み出した「経済政策不確実性指数」によれば、21世紀に入って、世界の「不確実性」が尻上がりに高まっています(「日経大予測2023これからの日本の論点」日本経済新聞出版)。そして、先進国が2024年までに景気後退に陥る確率は65%とされています。もうすぐの話です。
債務危機も迫っています。2030年までに世界の債務は対GDP比で400%を超える見込みです。利払いコストが重くのしかかり、経済成長の足を引っ張ります。でも、金融政策も財政政策も、もはや弾切れ状態です。巨額の債務を抱える国は危険です。(ヌリエル・ルービニ「MEGA THREATS」日本経済新聞出版)
日本はそのトップランナーです。過去のデータを見ると、政府債務が対GDP比で60%となった場合、先進国では35%が財政破綻しています。日本の国債残高は1067兆円で対GDP比200%を超えています。昨年末、ついに日本銀行は長期金利の変動幅を0.5%に拡大しました。事実上の利上げです。危機がじわりと忍び寄っています。(小黒一正ら「日本経済30の論点」日本経済新聞出版)
バブル崩壊のリスクも高まっています。昨年、多くの国で株価が下落しました。資産バブル終了の予兆とされています。コロナ禍では金融緩和が強化されました。日本は早くから「異次元緩和」を進めています。目の前のことに対処する短絡的な対策がリスクを生んでいるのです。なるほど株価は上昇しましたが、低金利のおかげで借金もしやすくなりました。住宅購入が進んで、住宅価格が高騰しています。
そして、インフレです。アメリカのインフレの半分以上は、慢性的な労働力不足と、パンデミックやウクライナ侵攻によるサプライチェーンの混乱による「コストプッシュ・インフレ」です。社会がダメージを受けている状態です。世界が「インフレ+不況」のスタグフレーションに突き進もうとしています。
こうした中、アメリカは「悪手」とも言える利上げを進めています。アメリカの利上げはドル高を生み、他の国々の通貨は安くなります。円安も進みます。こうして、他の国々でも、輸入物価上昇による「コストプッシュ・インフレ」を招くことになるのです。(中野剛志「世界インフレと戦争」GS幻冬舎新書)
ただ面白いことに、日本では輸入物価が上昇しても、国内物価全体の上昇にはつながりません。これは、価格を据え置くことを優先し、賃金を抑えてきたという「価格据え置き慣行」のおかげです。でもそれでは給料はちっとも上がりません。昨秋に最低賃金の改定が実施されました。もしも、賃上げが実行されたら、物価がさらに上昇することでしょう。
節約すれば経済は成長しません。救済策はモラルハザードを誘発します。増税すると経済活動が低下します。脱グローバル化を図れば、サービス、テクノロジー、データとそれぞれの市場が不活発になり、税収は減ります。「複合危機」からは誰も逃れられません。あとは、いつ起きるかということです。たぶん10年以内でしょう。辛いですが覚悟しなくてはならないのです。