2024年11月4日(月)
ハルです。
「ポカホンタス」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのはディズニー映画でしょうか。ポカホンタスは実在の人物で、ネイティブアメリカンの族首長の娘です。
映画のストーリーはともかく、彼女の結婚相手であるイギリス人入植者ジョン・ロルフは、1610年頃、タバコ栽培を成功させ、大いに利益を上げました。おかげで、ジェイムズタウンは発展し、植民地の首府になりました。ニコチンの持つヒトへの強力な依存性が、歴史を作ったのです。
18世紀、イギリス海軍船医のトマス・トロッターは、壊血病の薬として、新鮮なレモン果汁の瓶詰を発明しました。レモン果汁により、イギリス海軍内の疾病率は急減し、長期間の航海も可能となりました。反対に、解決法を知らないナポレオンのフランス軍とスペイン軍の艦艇では壊血病患者が続出し、トラファルガー海戦でイギリスに大敗北を喫したのです。
なお、勝利したネルソン提督はシチリア島を巨大なレモン果汁工場に変えましたが、島に大金が流れ込み、マフィアを誕生させることとなりました。ここでも歴史が動いたのです。(ルイス・ダートネル「この身体がつくってきた文明の本質」河出書房新社)
医学は20世紀に大きく進歩しました。これまでは歴史を変えましたが、これからの医学の進歩は歴史を停滞させると考えます。
ヒトは完璧ではありません。二本足歩行によって脳を大きくしましたが、腰痛がもたらされました。言葉を発しますが、のどの構造が変わり、窒息しやすくなりました。脳は認知の誤操作やバグだらけです。何かができればどこかに不具合が生じるのです(ビル・ブライソン「人体大全」新潮文庫)。でも、こうした不具合を、ヒトは創意工夫によって補完してきました。医学もその一つです。そして、現代では医学はあっという間に世界中に広まり、技術格差による歴史のダイナミズムは生じにくくなっています。
新型コロナウイルス感染症は世界中に大きな被害をもたらしました。ひょっとしたら閉塞する現代社会に衝撃を与え、歴史を変えてくれるのではないかという期待もありました。結局、ワクチンが迅速に開発されるなどして、かつてのペストやスペイン風邪のような状況には至りませんでした。
医学の進歩は、目の前の命を救う点でとても大切です。一方で、歴史の進行を遅らせ、かえって人類の存続を危うくする可能性も秘めています。医学への投資の見極めを考えておくことも必要でしょう。
今週はアメリカ大統領選です。トランプ氏が勝てば、医学への投資は制限されるでしょう。別の意味で歴史が変わるかもしれません。ちなみに、ポカホンタスは若くして病死しています。夫はさっさと見切りをつけたがっていたとされています。毒殺の可能性もあるそうです。アメリカの分断が起きないよう願うばかりです。