人口動態から見える「機会の窓」の次の手は?

2023年2月13日(月)

 ハルです。

 

 日本の未来が心配です。中国やロシアの軍事的な脅威が増す中、アメリカの支援もどこまで期待できるか分かりません。岸田総理は防衛費を増やそうと、増税を検討しようとしましたが、自民党内でも猛反発を受けています。

 反対派が言うように、経済活動は大事です。しかし、それも平和があってこそです。アメリカの核の傘下で防衛費を最低限に抑えて高度経済成長を享受できたことを忘れてはなりません。そして、もっと重要なのは人口の恩恵を受けたことです。人口は国の運命を左右します。今回は、人口の動きに着目してみましょう。

 

 「人口転換」というものがあります。これは、国の発展に伴って生じる人口構造の変化のことで、4つの段階に区分されます。第1段階は、出生率も高く死亡率も高い状態です。多産多死の社会です。第2段階は、衛生状態が改善して医療が発達し、死亡率が低下する状態です。人口増加率が高まります。第3段階は、出生率が低下し、人口増加がスローダウンします。そして、第4段階は、出生率も死亡率も低い状態が続き、人口全体が減少していくものです。

 近年の日本の状況に照らしてみると、1900年代に入って50年までの半世紀は、出生率は30~36(人口1000対)の間にあります。ベビーブームもありましたが、大局的にみると長らく大きな変化はなかったのです。死亡率は、スペイン風邪が発生した1918年の27(人口1000対)をピークに減少しています。既に第2段階に入っていたのです。

 ところが、1950年代に入ると出生率が極端に落ちていきます。死亡率も落ちます。第3段階に入ったのです。60年代から70年代前半にかけての高度成長期では、出生率は少し増えます。死亡率はなだらかに減少していきます。その後、出生率は減少の一途をたどります。死亡率は80年代後半から上昇し、ついに人口は2010年に1億2807万人をピークに減少していきます。現在は第4段階です。『シヴィライゼーション』というシミュレーションゲームの名作があります。国を発展させていくゲームですが、そこで言う「衰退期」に当たります。

 

 

 人口統計学には「機会の窓」という考え方があります。これは、人口構造的なチャンスが訪れている間は、健康、教育、経済成長、政治的安定というボーナスが得られやすいというものです。「機会の窓」の条件は、出生率が低下し、15歳未満の子供の割合が総人口の30%未満、かつ、65歳以上の高齢者の割合が15%未満の時です。日本の場合だと昭和40年から平成7年の間が該当します。『シヴィライゼーション』でいう「黄金時代」です。(ジェニファー・D・シュバ「人類超長期予測」ダイヤモンド社

 「機会の窓」が開かれているのに適切な政策が実施されないと経済成長のチャンスを逃すことになります。この点、日本ではチャンスを活かせたと言えるでしょう。しかし、もっと大事なのは、その後を見据えることです。少子高齢化の到来は早くから予測されていたことなのです

 

 もちろん、政府は何もしなかったわけではありません。平成9年に介護保険法が成立、平成元年には消費税が導入されました。しかし、税収は平成2年をピークに落ち込み始め、バブル崩壊などもあり、思うようには伸びませんでした。平成26年から消費税率が8%に上がったこともあり、ようやく60兆円を超える規模になっています。

 ところが、社会保障費の規模はそれをはるかに上回ります。昭和45年は3.5兆円でしたが、昭和49年あたりから10年ごとに倍々ゲームのように増え、平成30年には予算額ベースで121.3兆円と手がつけられない状況となっています。

 

 これから、どうすべきでしょう?社会保障費のうち最も大きいのは年金です。全体の半分を占めます。次が医療費で、3割強です。年金問題の解決は容易ではないので、医療費を抑制することが考えられます。

 思い切って、医療政策から健康政策への「大転換」を行うべきです。新型コロナウイルス感染症では、重症化リスクとして、生活習慣病などの基礎疾患、肥満や喫煙歴が挙げられました。地球はあと5年以内に1.5℃温暖化するそうです。未知の感染症が姿を現すおそれがあります。体の抵抗力を高めるためにも、日頃からの健康づくりが必要です。(ヌリエル・ルービニ「メガスレット」日本経済新聞出版)

 今後、経済格差が広がるでしょう。健康格差も広がり、全体の健康を押し下げます。これら全てに「治療」で対処しようとしたら、医療費がいくらあっても足りません。健康への投資が必要です。2025年には高齢化率は3割を超え、2045年には4割近くになります。でも、人口は1億人います。「国力維持の窓」はまだ開いているのです。65歳を超えても元気でいられるよう、健康づくりを進めるべきです。