「再生」のヒントは、中国経済戦略にあり!

2022年6月13日(月)

 コノミです。

 

 ロシアのウクライナ侵攻の陰で、中国が息を潜めています。この戦争が終わったら、世界のパワーバランスが変わるでしょう。今やアメリカを追い越さんばかりに成長している中国の経済力が一層存在感を放ち、国際政治への影響力も増すでしょう。反対に日本の国力は削がれていくでしょう。でも、「中国脅威論」だけ唱えていてもダメです。これまで欧米諸国や日本の後塵を拝しながら必死に経済成長を遂げてきた中国の姿勢を尊重しなくてはなりません。今は、日本が中国に学ぶべき時ではないでしょうか。

 

f:id:KyoMizushima:20220417212449j:plain

 

 中国の近代史を簡単に振り返ると、毛沢東の行き過ぎたイデオロギー路線を鄧小平が修正し、市場経済が導入されていきました。まさに現実路線です。そして、胡錦涛時代にWTO加盟を果たし、「世界の工場」として躍り出ます。

 次いで習近平国家主席は、「虎もハエも」区別せず摘発するとして、腐敗の排除を行いました。腐敗は成長の足を引っ張るからです。その上で、経済対策に着手しました。一つは「サプライサイド改革」です。これは、政府の介入を大幅に増やすというものです。具体的には、工場や炭鉱を閉鎖したり、同一産業内の企業を統合・閉鎖したりして過剰生産に歯止めをかけたのです。また、債務危機のリスク最小化に努めました。最大の債務を抱えている部門にターゲットを絞って経済を膨張させ、借金を返しやすくしました。国内各地の銀行については、中央銀行である人民銀行が評価を行い、ランク別に事業活動に制限をかけました。インフラ整備については、官民でタッグを組ませ、初期費用を建設業者に負担させることで、地方政府の借金を止めました。

 これらは、強権的な体制であるがゆえに達成できたのかもしれませんが、世界の歴史を熱心に研究し、日本については成功もミスも学んできた中国政府の努力の賜物なのです。(トーマス・オーリック「CHINA:中国の経済の謎」ダイヤモンド社

 

 2030年代には中国経済の世界制覇が実現し、アメリカ経済が凋落すると予測されています。特に、中国が科学技術と世界のサプライ・チェーンの確保に力を入れている点は注目すべきです。

 中国の第14次5か年計画(2021~2025)では、次世代人工知能量子コンピュータ集積回路などを「フロンティア領域」に位置付けました。研究面では、分野によっては日本は中国に抜かれています。中国の自然科学論文数は世界一位、国際特許出願件数も世界一位です。また、政府系の中国科学院をはじめとする各省庁の研究機関を中心に、民間企業を抱き込んだ形で科学技術振興の体制を整えています。思えば、アメリカでも民間企業のイノベーション国防総省などが下支えしています。民間とタッグを組む国家の存在は研究面において極めて重要なのです。

 サプライ・チェーンを丸ごと国産化する政策も野心的と言えるでしょう。製造業の大切さを痛感したのです。半導体争奪戦ではアメリカから冷や水を浴びせられました。このため、急成長を果たし、世界市場の約25%を確保するに至りました。そして、中国は世界最大の輸出額を誇り、輸出先も広く分散しています。2022年からは、海外メーカーが中国で自動車製造を単独でできるよう規制を撤廃しました。他の分野でも同じことをするでしょう。「世界の工場」のポジションを譲るつもりはないのです。(高橋五郎「中国が世界を牛耳る100の分野」光文社新書

 

 そんな中国にも大きな懸念点があります。一つは借金が膨らんだことです。中央政府、地方政府、政策銀行を合わせ、2016年の中国の公的債務はGDP比で130%となっています。問題はその増額のスピードが世界に類を見ないことです。金融危機の可能性はついて回ります。仮に危機が勃発すれば、いかに中国政府と言えど簡単には止められないでしょう。

 社会保障負担の増大も課題です。中国の所得は新興国レベルです。中国共産党による統治の正統性は、「生活が良くなっている」という国民の感覚でもっています。貧富の格差が放置され国民の生活が向上しないとなると内部崩壊するおそれがあります。(津上俊哉「米中対立の先に待つもの」日本経済新聞出版)

 

 日本はこうした中国の失敗の可能性にも目を向けつつ、中国のこれまでの取組を学ばなくてはなりません。一つは対日投資を拡大させることです。法人税を下げるなど思い切った優遇措置により、国内に製造拠点を増設しなくてはなりません。サプライ・チェーンの確保にもつながります。もう一つは科学技術への投資の拡大です。日本に競争力があり、存在感を示すことができる分野に集中投下を行った後、いずれ他の分野にも応用できるよう広げるという中長期戦略が必要です。医療機器、ゲノム編集、次世代半導体などが挙げられます。今度は日本が虎視眈々と基礎体力をつけておく番なのです。