「もう仕事しなくていいよ」と言われたら・・・?ケインズの大予言「仕事不足社会」!

2022年6月27日(月)

  レーブだ。

 

 参議院選挙が始まったが、今一つ盛り上がりに欠けるようだ。物価は上昇の気配にあるが、完全失業率は2.5%(4月)であり、雇用情勢は安定しているからだろうか。当初、心配された新型コロナウイルス感染症による雇用への影響も最小限だった。しかし、今後、仕事が減っていったら我々はどうなるのだろうか。このような思考実験が必要だったのではないだろうか。

 テクノロジーが進むと労働時間は短縮する。生産性の高い国ほど国民の労働時間は短いものだ。1930年、ケインズは、「100年後、1日に3時間働けば十分に生きていける社会がやってくる」と予言した。日本の労働時間でみると、1990年は2031時間だったが、2020年には1598時間と短縮されている(小黒一正「2050日本再生への25のTODOリスト」+α講談社新書)。

 ケインズの予言ほどに極端に短縮されていない理由の1つは「パイ変容効果」だ。経済情勢の変化によって職を失った労働者が別の作業に従事するようになることだ。製造業からサービス業への転換がイメージしやすい。

 しかし、21世紀の「パイ変容効果」は人間が対象でなくなる。理由はAIの進化だ。従来の機械は人間の動作をまねることが前提だった。その不十分な点を人間が補っていた。つまり、「機械+人間」のコラボが機能していたのだ。しかし、AIの進化は世界を一変させた。AIは全てのパターンの中から最適解を超高速に導き出す。それは決して「知能」とは言えないが、人間が従っている法則とは全く違う別次元の法則に従う。その結果、「機械+人間」より「機械」だけのほうが信頼のおける存在となり、「人間」はお払い箱となる。世界チャンピオンを破った「アルファ碁」を開発したディープマインド社は、50種類以上の眼疾患をエラー率5.5%で診断するプログラムを作った。このプログラムを眼科専門医8人の見立てと比較したところ、診断精度の高い医師2人と同じ結果を出し、残る6人を上回る正確さを発揮した。この6人は診断業務から外され、別の業務に就くかもしれない。しかし、その先には別のAIが待っている。こうして、人はどんどん追いやられる。タスクは細分化され、分析され、定型化していく。定型タスクはAIに奪われ、非定型タスクを担う労働者は、一部の高賃金者とその他の低賃金者に二極化していく。その中間にいる者こそ、「もう仕事しなくていいよ」なのだ。(ダニエル・サスキンド「WORLD WITHOUT WORK」みすず書房

 

 2020年はこうした未来に向けた思考実験ができるはずだった。新型コロナの感染拡大はテレワーク導入のブースターとなった。テレワークを進めるためには、仕事の内容に加えて、テレワークを受け入れられるだけの周りの理解や体制が必要となる。そのため、大企業ではテレワークにより労働時間を確保できたが、小規模企業は労働を中断せざるを得なかった。適応力に差が出た。また、新入社員にはテレワークばかりだと成長実感が得られないという問題も生じた。彼らのワークエンゲージメントをどう高めていったらいいか、試行錯誤した会社もあったことだろう。ピンチはチャンスなのだ。(玄田有史ら「仕事から見た『2020年』」慶應義塾大学出版会)

 

  危機は思いのほか短かった。まん延防止重点措置が繰り返される中、テレワークを一部取り入れつつ、従来どおりのオフィス出勤とのハイブリッドが進んだ。このハイブリッドの働き方でさえ、グローバルには65%が生産性向上を感じている一方、日本単独では39%と低い傾向にある。ジョブ型とメンバーシップ型の違いの現れと言えよう。(EY Japan ピープル・アドバイザリー・サービス「HRDXの教科書」日本能率協会マネジメントセンター

 裏を返せば、日本の働き方は、一人ひとりをみると非定型タスクの割合が高く、AIに浸食されにくい「堅牢」なスタイルと言える。しかし、それは生産性の点で、日本が世界から置いてけぼりを食うことを意味する。テクノロジーがもたらす失業は21世紀の間に深刻さを増し、世界は一足先にその洗礼を受ける。1日3時間の労働で済んでしまうのだ。世界は仕事に依存しない社会の創出に向けて切り替えていくかもしれない

 例えば余暇政策だ。観光地やテーマパーク、リゾートだけでなく、日常の暮らしの中で、コミュニティの人たちと手軽に余暇を楽しむ方法を見出すかもしれない。教育も、仕事能力の育成に留まらず、多面的な意義が見出され、その役割や手法が変わるかもしれない。ベーシックインカムなど、AIが稼ぐ収益を再分配するしくみが整えられ、文字通り、遊んで暮らせるようになるのかもしれない。そんな世界を指をくわえて見ていることにならないよう、働き方改革」の芽を真剣かつ丁寧に育てていくことが大事だ