2020年2月17日(月)
エンヴィです。
「昆虫食」がちょっとした話題です。
もう読むのをやめた方もいるかもしれませんね。関心のある方はこのままお付き合い下さい。
昆虫食は、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が報告書を発表したことで注目が高まりました。以下のとおり、「持続可能な食料」ということで、家畜と比べて環境的優位性が高いことが強調されています(あくまでも家畜と比べての話ですよ。)。
・餌が少なく済む。
・食べられる部分が大きい。
・温室効果ガス(メタン、二酸化炭素)などの放出が極めて少ない。
・有機廃棄物で飼育できる。
・栄養価が高い(タンパク質は家畜と同等、必須アミノ酸、ビタミンB群等など)。
・人畜共通感染症のリスクが小さい。
背景にはマルサス的な考え方があります。人間のニーズはその充足を上回るというものです(トーマス・セドラチェック「善と悪の経済学」東洋経済新報社)。世界の人口は増えています。新興国など経済が豊かになった国の人々は空腹を満たすだけでなく、これからは、より美味しいものを求めるようになります。しかし、それでは「持続可能な食料」の確保にはつながりません。
肉食は環境に対する負荷が大きいです。このため、昆虫食に目が向けられることとなりました。そもそも人類は700万年前から昆虫を食べています。今、世界では2000種類近くの昆虫が食用とされています。内訳は、甲虫31%、イモムシ18%、アリ類14%、バッタ類13%となっています。
2018年には中国の武漢で「第2回国際昆虫食会議」が開催されました。この会議では、昆虫食にまつわる生産、加工、流通、政策、ビジネス、マーケティング、倫理、健康、消費者意識など多岐にわたるテーマが網羅されました。(石川伸一「『食べること』の進化史」光文社新書)
フィンランドなどヨーロッパではコオロギに味付けしたものや粉末にしたものが出回っています。2015年に欧州連合が「新規食品」に位置付けたことから流通するようになったのです。世界の食用昆虫市場は2030年には79.6億ドル(約8600億円)にまで成長するという試算もあります。(2019.08.12 The Asahi Shimbun GLOBE+)
実は、日本でも昆虫食はありました。
例えば「カイコ」です。繭から糸を取った後、残ったサナギは製糸工場の工女のおやつになっていました。コオロギについても、山形、福島、新潟、長野などで食用の記録があります。スズメバチの幼虫が作り出す透明な液体は成虫にとって長距離飛行の栄養源になります。脂肪が効率よく消費され、乳酸値を低く抑える効果があることから、ここから開発されたスポーツドリンクはマラソンランナーの有森裕子選手や高橋尚子選手も飲用していました。(内山昭一「昆虫は美味い!」新潮新書)
敬遠されがちな昆虫食ですが、考えておくべき一つのオプションかもしれません。「フード・マイレージ」といって、食材の輸送に要する燃料や二酸化炭素の排出量を輸送距離と重量で数値化した指標があります。農林水産省の試算(2001)によると、日本のフード・マイレージは国民1人当たりで世界1位ですし、総量としてもダントツに大きいです。これでは、世界中から非難を浴びてしまいます。
日本人は、味や食材、健康面への影響など「食に関する自分ごと」には関心がありますが、「食に関する他人ごと(環境)」への意識が低い点が課題です。小泉環境大臣が気候行動サミットに参加した際、「毎日でもステーキを食べたい」と発言して批判されましたが、他人ごとではありません。マグロやウナギが絶滅しそうだというニュースを聞いても、心のどこかで、「誰かが何とかしてくれるだろう」「みんなも食べてるし」とお寿司屋さんに行ったりしてませんか。
もちろん、昆虫食にも課題はあります。
いくつかの食用昆虫は乱獲や生息環境の破壊で減少しています。このため、特定品種の養殖が各国で検討されています。糞など廃棄物をどうするかという問題もあります。マンションの一室でも育成できてしまうので、逃げ出したりしないよう適切に管理する必要があります。また、突然変異が生じるかもしれません。自然の力を侮ってはいけないでしょう。
さらに、家畜の肉に代わる「人工肉」が存在感を示しつつあります。一つは大豆等を原料とした植物性のもの、もう一つは動物の細胞を培養して作る培養肉です。日本能率協会総合研究所によると、世界の人工肉市場は23年度には1500億円と19年度の1.5倍に成長すると予想しています(週刊ダイヤモンド2020.1.11)。
昆虫食はあくまでもオプションとして考えるべきです。地球環境を守るメインの食材にはなりにくいです。でも、自然を感じることができ、環境について考えさせられる食材ではあります。昆虫食を通じて「食と環境」を考えるきっかけになればと思います。地球環境を守るのは私たちなのですから。