新型コロナが炙り出した「日本ワクチン問題」の本質!

2021年7月26日(月)

 ハルです。

 

 ついに東京オリンピックが始まりました。新型コロナウイルス感染症の影響で、無観客試合をはじめ制約の多い大会となりますが、アスリートたちには頑張って頂きたいです。

 ところで、切り札のはずであったワクチン接種ですが、改めて我が国の問題点を浮き彫りにしました。具体的には、①ワクチンを国内でいかに受け入れてもらえるか、②ワクチン製造をいかに国内で進められるか、③ワクチン接種体制をいかに確保するか、の3点です。

 

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 まず、ワクチンそのものの受け入れです。ワクチンを提供する根拠法は1948年に制定された予防接種法です。どこまで国が介入し、どこまでを個人の判断に任せるのかが示されたのです。

 しかし、1970年代以来、ワクチン被害に対する国家賠償訴訟が提起されました。代表的なのはMMR3種混合ワクチンや風疹ワクチンです。報道も一役買いました。介入する側の国としても慎重にならざるを得ません。近年話題になった子宮頸がんワクチンはその罠に嵌ったと言えるでしょう。8割の接種率を誇るオーストラリアでは2066年に子宮頸がんの撲滅が予想されています。毎年約3500人が死亡している日本として本当にこのままで良いのでしょうか?(谷本哲也ら「ワクチン診療入門」金芳堂

 国はワクチンの有効性をもっとアピールすべきです。世界規模ではワクチン接種により年間200~300万人の死亡が予防されています。有害事象の確率は、不活化インフルエンザウイルスワクチンだと100万接種当たり1~2回程度です。効果を考えれば推奨すべきなのです。 

 そして、今回、興味深い現象が認められました。結核のワクチンであるBCGを国民に広く投与している国は新型コロナウイルスによる死者の割合が数十倍低いという結果が得られたのです。また、BCGに限らず、ワクチンによる「訓練免疫」が期待できます。アメリカでは過去1~5年にワクチン接種を受けた人は新型コロナ感染のリスクが低下したという報告があります。様々なワクチンを接種することによって免疫力をアップできるのです。こうした相乗効果と一緒にワクチンに対する理解を求めてはどうでしょうか。(宮坂昌之「新型コロナ7つの謎」講談社

 

 2点目はワクチンの製造です。ワクチンの開発・製造には500億円を超えるお金が必要です。開発から出荷可能になるまで最低でも数年かかります。コストを考えると企業にとっては割に合わないのです。しかし、ワクチンの年間市場規模は世界で約3兆円、国内だけでも2千数百億円とされています。それ以上に、感染拡大による国内経済への影響を考えると、予防への投資はもっと重視されてもよいでしょう

 2018年、ジョンズホプキンス大学のグループがいずれパンデミックが来ると警鐘を鳴らしていました。そしてその犯人も、感染性が高く、無症状又は軽症が多く致死性が高くないRNAウイルスと予想していました。新型コロナウイルスはまさに予言的中だったのです。ということは次もあり得ると考えるべきです。

 ワクチンの候補は、今回登場したmRNAワクチンが挙げられます。これは短期間で大量生産できます。「人工抗体」も候補です。複数混ぜて使えば変異株も不活化できるというメリットがあります。こうした最新技術を日本は獲得しなくてはなりません。安全保障として、国は企業支援を積極的に行うべきなのです。 (浦島充佳「新型コロナ データで迫るその姿」化学同人

 

 3点目はワクチン接種体制の確保です。開業医の協力を得ることで、かろうじて接種体制を確保できている状況です。そして、開業医の元締めである日本医師会は他業種による接種体制にとても慎重でした。そもそも論として、日本は国家的な緊急事態に一丸となれない弱さがあります。要因として、日本国憲法にいわゆる「緊急事態条項」が存在しないことが挙げられます。憲法の見直しを視野に入れることも必要でしょう(百地章日本国憲法 八つの欠陥」扶桑社新書) 。

 データ環境の整備も重要です。 小児だけでなく成人になってからも予防接種を受けることが必要です。百日咳、日本脳炎帯状疱疹等は加齢とともに免疫力が弱って、かかりやすくなるからです。このため、PHR(Personal Health Record)によって、個人の医療・健康情報を生涯にわたり管理する一環として、ワクチン接種歴についても掲載すべきです。これを使えば予防接種のタイミングを適切に管理することが可能となります。

 

 以上の提案は総合的なものです。単独の組織体で対応できる話ではありません。怖いのは、新型コロナウイルスの感染が収まれば、こうした面倒なことが忘れ去られることです。「ワクチン問題は安全保障問題」という意識でもって、感染の収束後すぐにでも関係者が一丸となってとりかかる必要があります