「世界遺産」は打ち止めにして、目指すべきは「日本&世界遺産」先進国!

2019年8月19日(月)

 コノミです。

 暑い日が続きます。お盆休みで帰省された方やご旅行された方がいらっしゃると思います。ついでに世界遺産を一目見ようと足を伸ばした方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

 世界遺産といえば、先月、大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」が登録されましたね。地元ではとても盛り上がっていることでしょう。水を差すわけじゃあないのですが、日本としてはそろそろ「世界遺産」とのお付き合いの仕方を考えるべき時期に来ていると思います

 

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韮山反射炉

 

 世界遺産のしくみは、エジプトのアスワン・ハイ・ダムによって水没されるおそれのあった古代遺跡を守るため、ユネスコがキャンペーン活動を行ったことがきっかけとなってスタートしました(佐滝剛弘「『世界遺産』の真実」祥伝社新書)。

 そうです。大事なものを「保護する」ことから始まったのです。

 

 しかし、当初このスキームが検討されたとき、アメリカにおいて「文化」だけでなく「自然」についても国際社会が重要だと考える遺産をリストアップすることが提唱され、今の形になりました。

 こうした経緯と、特に文化遺産についてはヨーロッパ偏重とされていることから(Newsweek2019.7.2)、世界遺産は結局は欧米主導のしくみとなっていると批判する向きもあります。

 

 そもそも石造り文化のヨーロッパには、町並み、宮殿、教会、庭園などの遺跡が多数残されており、アドバンテージがあります。このため、最近は「グローバル・ストラテジー」といって地域間の不均衡の是正が図られたり、アジアの遺産であれば同じアジアから現地調査員を派遣するよう配慮がなされたりしています。

 

 いずれにしても、国際的な枠組みやルールが作られるときには本来の目的が損なわれ、国益のために利用される可能性がある点に注意しておきたいです。これは、世界遺産にとどまる話ではなく経済からスポーツにいたるまで幅広い分野で言えそうです。

 

 グローバル教育研究所の渥美育子理事長が作成した『文化の世界地図』では、世界の価値体系は以下の3つに分類されています。

①リーガルコード

 法的規範・ルールを中心とする社会(アメリカ、イングランド、北欧諸国など)

②モラルコード

 道徳的規範・人間関係を中心とする社会(アジア諸国、ラテンメリカ諸国、イタリア、スペイン、ロシアなど)

③レリジャスコード

 宗教的規範・神の教えを中心とする社会(イスラム圏諸国)

 

 (以上の3つのコードのうち2つ以上が混ざっている社会はミックスコード(オーストラリア、インド、ドイツ、中南部アフリカなど)とされています。)

 

 このうちグローバル環境に適応する資質を持っているのは、①のリーガルコードの国々です(山岡鉄秀「新・失敗の本質」育鵬社)。実際、国際社会における①の国々の影響は大きいです。世界遺産登録数が欧米で多くなっているのもこうした資質のせいかもしれませんね。

 

世界遺産登録数国別ランキング(2018)】

文化遺産)            (自然遺産)

1位 イタリア 49        1位 中国      13

2位 スペイン 41        2位 アメリカ    12

   ドイツ  41           オーストラリア 12        

4位 フランス 39        4位 ロシア     11

5位 中国   36        5位 カナダ     10

6位 インド  29        6位 インド      7

7位 メキシコ 27           ブラジル     7

8位 イギリス 26        8位 メキシコ     6

9位 イラン  22        9位 イタリア     5

10位 日本   18           アルゼンチン   5

                     コンゴ      5   

 

 文化の浸透は大事です。情報戦の一種と言っても過言ではないです。パソコンゲームで「Civilization」というシミュレーションゲームがあります。世界制覇を目指すゲームですが、文化的な建築や発見があると他国に影響を与えて世界制覇につながる設定になっています。アメリカで作られたゲームですが、日本人にこうした発想は無いでしょうね。

 

 話が逸れましたが、世界遺産に登録されたら手をたたいて喜ぶ、というレベルから卒業しましょう

 登録されると、観光収入が増えるなどの経済効果が期待されます。地域がまとまるというメリットもあります。一方で、群馬県富岡製糸場と絹産業遺産群のように観光客を受け容れるインフラが整っておらず観光客が激減してしまったところもあります。また、「おらがまち」合戦の様相を帯びる中、今後の登録候補地はよりマイナーなところが想定され、むりやり「痛い」観光地に祭り上げられる可能性があります。観光被害のほうが心配されます。

 

 発想を変えるのです。日本はすでに22もの世界遺産登録を終えている「世界遺産先進国」です。

 これからは、世界遺産の本来の目的である「保護」という観点に立ち返って、途上国の遺産を守るための国際協力を日本が主導していくのです。途上国では、資金不足や内戦等によって貴重な遺産が守られないおそれがあります。日本が率先してこの概念を提唱すれば、世界遺産という先進国のスキームの中で、日本の存在感は増すことでしょう。

 そして、国内の文化・自然については「観光」という文脈ではなく、世界標準によらない独自基準で守っていくというスタンスを内外に明示するのです。そうです、目指すべきは「日本&世界遺産」先進国です