2020年9月28日(月)
トランだ。
新型コロナウイルス感染症の勢いが収まりつつあるな。これまで出勤形態を工夫していた会社もあったろう。テレワークも最初はうまくやれるかどうか半信半疑だったろうが、やってみると「意外にいけるな」と気づいた諸兄も多いだろう。
そうなると「職住近接」って何なんだってことになる。そして、住むべき街は、通勤の利便性ではなく、生活を最優先したものになってくる。これからの「住みたいまちランキング」は大きく様変わりするだろうぜ。
そもそも、住みたい「まち」ランキングは、正確には住みたい「駅」ランキングだ。複数の鉄道路線が利用でき、かつ、山の手線沿線までの所要時間が短いところが好まれる。
【住みたい街(駅)ランキング2020関東版(SUUMO)】
1位 横浜
2位 恵比寿
3位 吉祥寺
4位 大宮
5位 目黒
加えて、これらの街のイメージはメディアによる影響が大きい。「欲望のシミュラークル増殖」といって、回答者もメディアで聞きかじったくらいでその街に住みたいと回答してしまう。(大原瞠「住みたいまちランキングの罠」光文社新書)
確かに、これらの街は行ってみると商店が多く、若者が集まって賑やかで楽しそうに思える。お店の扉に「〇〇テレビに出ました」って宣伝が写真付きで貼ってあると、「あの有名人が来たんだ(また来るかも)!」とテンションが上がる。
しかし、日々の生活と週末の華やかさとでは見えるものが違ってくる。どうせ週末はどこかにお出かけするのであれば、それが住んでいる街の中でなくてもいいだろう。こうしたランキングの上位にある街ほど、人がやたらと多い(超「密」だぜ!)、車もばんばん走っていて落ち着かない、物価が高いなど安心して暮らせる街とは言い難い。「みんなの羨望の街」に住んでいるというプライドを除けば、満足度は必ずしも高くないはずだぜ。
これからの居住先は、日常生活上のストレスをできるだけ小さくできる地域がポイントになりそうだぜ。週刊誌AERAの調査を見ると面白い傾向が見えてきた。ランキングの上位に躍り出た市町村(注;東京都内、政令指定都市は除かれている。)を見ると、「買い物」、「医療」、「災害・行政」のポイントが大きく目立っている。
【コロナ時代の移住ランキング(Asahi Shimbun Weekly AERA 2020.8.10-17)】
住宅 買い物 子育て 治安 医療 災害・行政
<関東>
2位 千葉県柏市 3 10 10 3 6 10
3位 神奈川県開成町 5 10 5 6 9 10
<近畿>
1位 兵庫県福崎町 7 10 4 4 10 9
このうち柏市については「医療」のポイントがそれほど高くない。東京のベッドタウン機能の低下と新しい需要を呼び込む仕掛けの不足が指摘されており、柏駅の1日平均乗車人数も減少傾向だ。ランキングで上位になったことをモノにできるか、これからが正念場だ。
その柏市の隣には印西市がある。ここは地盤が固いことから、金融機関の事務センターや大企業の研究所、バックアップ施設が構えられた。2019年の台風15号の際、千葉県を襲った大停電を免れたのも、電線を予め地中に埋めていたからだ。「災害」への強さは自然の恩恵に加えて、計画的に公園、商業施設を整備し、医療機関を充実させてきたことによる。こうした「安全」や「安心」を売りにする街が今後生き残っていくだろうな。
(牧野知弘「人が集まる街、逃げる街」角川新書)
ただ、コロナのおかげで「職住近接」が否定されたように、これからは、「一つの街」に住むことがそれほど意味を持たなくなる。「住まい」にもサブスクリプション型のサービスが拡充しつつある。台風シーズンは住む場所を変えるってのも手だぜ。
そこまでいかなくても、住む場所を「点」で捉えるのではなく、「線」や「面」で捉えるべきだぜ。「シティ・リージョン」といって、都市単独ではなく都市を中心とした地域圏全体で連携を取り、発展の方向性を考える概念がある。人口減少に悩む都市では威力を発揮してくるんじゃないか。(諸富徹「人口減少時代の都市」中公新書)
例えば、医療機関や商業施設については、これを有する都市を中心に周辺都市からのアクセスを良くすることで、何も無かった都市に「売り」が生まれる。災害対応についても、居住誘導区域の3割が土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と重なっているらしいから、高台や大型商業施設などの避難エリアを持つ都市が周辺都市と協定でも結んで、普段から交流を深めたらいいんだぜ。
行政は、ポスト・コロナの生活圏域を改めて見直して、隣接する自治体同士で連携を深めていくことが大事だ。そうすれば「住みたい街」なんかよりも「住みたい地域」のほうが俄然意味を持つようになってくるぜ!