2021年4月5日(月)
トランだ。
米中の雲行きが怪しくなってきた。バイデン政権は一層強硬な姿勢を打ち出している。他の先進国でも中国に好ましくない見方をしている人が増加中だ(NEWSWEEK 2021.4.6)。
新疆ウイグル自治区の人権弾圧に反発し新疆産品を使わないという欧米企業に対し、今度は中国で欧米ブランドの不買運動が広がっている。米軍司令官は中国による台湾進攻の可能性を証言した。
さあ、日本はどうすべきか?
今こそ、地政学を駆使して考える時だ。地政学は、地理的条件が国際関係へ及ぼす影響を理解する学問だ。
日本は「シーパワー(海洋国家)」。「シーパワー」はアメリカの海軍将校だったアルフレッド・マハンが提唱した考え方だが、このような国は連携をとりながら、「ランドパワー(大陸国家)」の膨張を防ぐのが安全保障上のセオリーだ。
「隣国同士は対立する」という原則論も重要な考え方だ。ドイツの地政学者ハウスホーファーによれば、人口が増えると民族や国家は領土を必然的に拡大していく。
以上を踏まえつつ、日本が生き残っていく上で、現在、最も注意すべきなのは中国だ。ランドパワーであるばかりか、「一帯一路」構想により南シナ海からインド洋を経て地中海に至る「海のシルクロード」の確保を目指している。だから、尖閣諸島や南沙(スプラトリー)諸島の領有権をめぐり関係国との「いさかい」が絶えないぜ。
中国の課題は、世界第2位のGDPを誇りながら、一方で個人消費割合は低下していることだ。国内市場だけでは不安だ。貿易黒字に頼らざるを得ないし、資源やエネルギーの輸入も必要だ。シーレーンの確保は彼らにとってみれば「死活問題」なのさ。
(松本利秋「地政学が予測する日本の未来」SB新書)
対する日本のスタンスは明確だな。
一つ目は日米同盟の維持だ。言うまでもなく戦力の確保は基本となる。
二つ目は経済連携だ。ちょっとでも高いレベルの貿易を行う2国だと戦争に突入する可能性を17分の1に小さくできる。戦争を避けたいなら経済と貿易のネットワークを発展させることだ。(マシュー・O・ジャクソン「ヒューマン・ネットワーク」早川書房)
しかし、これで「安心」とはいかないぜ。地政学の大御所マッキンダーは、テクノロジーの発達により内陸国家が持っていた弱点が克服されると説いた。要は、シーパワーがいつまでも優位に立てやしないってことだ。事実、中国は海軍力を増強しつつある。
ここに至って必要な戦略は「近攻遠交」だ。
「近攻」は当面の戦略だ。対中包囲網を十重二十重にしつつ、そこから生まれる世界の枠組みにうまく入り込んで日本のプレゼンスを大きくすることだ。
2020年10月、日米豪印の4か国外相会議「クアッド」が開催された。安全保障が話されたが、中身は中国包囲網以外の何物でもない。また、情報連携に関して、英、米、加、豪、ニュージーランドの5か国の諜報機関からなる「ファイブ・アイズ」による机上演習に日本も招待された。インテリジェンスに弱い我が国にとっては有難い話だ。
とりわけイギリスとの連携は魅力的だ。EU離脱後のイギリスの基本戦略は「グローバル・ブリテン」。欧州市場に変わる投資先として日本を中心とするTPPへの参加を表明している。「第2次日英同盟」も夢じゃないぜ。
より重要なのが「遠交」だ。仮に中国が勢力を弱めると、ロシアなど新たな脅威が生まれるおそれがある。対中国という意味ではロシアと組むべきだという話もあるが、簡単じゃないだろうな。地球温暖化で年中航行可能となる「北極海航路」が出現しようものなら、彼らは国際経済の舞台に一気に躍り出てくるだろう。北方領土を手放すなんてあり得ないぜ。
では、これらの憂慮に備えて組むべき相手はどこか?
ずばりドイツだ!
経済大国であり、価値観が近い。ドイツも日本と同様、その家族システムは「直系家族」で権威主義的だ。また、両国は敗戦国だが、奇跡的な経済復活を果たしたという共通点を持つ。国際経済戦略では足並みを揃えやすいはずだ。(鹿島茂「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」ベスト新書)
オランダのジャーナリスト、スパイクマンは「リムランド(ユーラシア大陸の「縁」)を支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制する」と言った。日本からみて大陸の対極に位置するドイツは最適だ。中国やロシアに睨みを利かせられる(茂木誠「マンガでわかる地政学」池田書店)。
もちろん課題はある。双方の好感度はそれほどでもない。経済的結びつきを強めていくことが必要だし、文化交流ももっとやるべきだ。
昨日の友が今日の敵というのは歴史では「あるある」だ。地政学を身に付け、バランス感覚を研ぎ澄ませながら「盤上」を読み切り、したたかに次の手を打っていくことが重要だぜ。