地球温暖化を乗り越える2つの「科学」

2022年5月16日(月)

 エンヴィです。

 

 「脱マスク」論が熱を帯びてきました。新型コロナウイルスの感染防止は大事ですが、熱中症にも気をつけなくてはならないからです。

 かたや、地球温暖化防止はビッグ・チャレンジです。日本は、二酸化炭素などの温室効果ガスを、2030年に2013年と比べて46%減とする高い目標を掲げ、グリーン政策を推し進めています。温室効果ガス排出量(2018)でいうと日本は、中国、米国、EUなどに次いで、第6位(2.7%)となっています。大きな責任があるのです。でも、排出量削減には莫大なコストが伴います。実現できるのでしょうか?

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 再生可能エネルギーへの期待は大きいですが、投資や補助金に毎年約110兆円が必要とされています。環境先進国ドイツも苦しんでいます。FIT(固定価格買取制度)によって、再生可能エネルギーが総発電量の4割に至りました。でも、産業競争力を維持しようと負担を家庭用電気料金に求めたところ、6人に1人が家計の10%以上をエネルギー支出が占める「エネルギー貧困」の状態に陥ったのです。ドイツは日本より寒いので大変です。

 日本については、再生可能エネルギーを進めていく上で地理的制約があります太陽光発電に適した平地面積が少ないのです。このため、森林を伐採して山の斜面にもメガソーラーを設置してきました。でも、「景観を損ねる」「土石流災害の原因になる」と別の問題が生じています。陸上風力や地熱発電はどうかというと、適地は国立公園内に多く存在し、厳しい開発規制が敷かれています。国立公園は環境省が所管しています。温暖化防止に使うべきか自然環境を守るべきか、悩ましいことでしょう。洋上風力については、日本は海に囲まれていて期待大ですが、偏西風が吹くヨーロッパほどうまくいきません。夏は風が弱まるので年間設備利用率が35%程度に留まるのです。(望月衣塑子ら「日本のタブー3.0」宝島社新書)

 温暖化対策の投資はどうでしょう。産業構造を変革して経済成長につなげるという発想の転換が求められています。でも、日本が海外投資を呼び込むには、中国を上回る魅力が必要です。中国は太陽光発電導入量も風力発電導入量も世界最大を誇るほか、電気自動車のリチウムイオンや風力発電のモーターに必要なレアアースの多くを生産するなど戦略鉱物を抑えています。日本での投資効果は限定的なものになるでしょう。(有馬純「亡国の環境原理主義」エネルギーフォーラム)

 

 あちこちで苦戦を強いられていますが、そもそも地球温暖化を乗り越える方法はあるのでしょうか?ヒントは2つの「科学」にあります。

 まず、地球温暖化についてですが、実は、人間の活動による影響は大きくありません化石燃料や核物質から得られるエネルギーが暖房や移動、発電に使われた後はほとんどが、最終的に地球の自然熱放射と共に宇宙に放出されますが、気候システムを流れるエネルギーのうち人間の影響は1%に過ぎません。

 では、二酸化炭素濃度はどうでしょう?過去150年間の上昇は人間の活動が原因と言っていいでしょう。でも、長い地球史の視点からみると、二酸化炭素濃度は低レベルにあります。むしろ、二酸化炭素濃度が今の5~10倍だった時代、今とは違う動植物が大いに繁栄していました。課題は、現代の生命体が低レベルの二酸化炭素に適応して進化したため、この100年間の急増が多大な影響を及ぼす可能性があるということです。そして、過剰な二酸化炭素が大気から消え去るには何百年もかかるので、温室効果ガス排出を抑制していくという方向性は間違っていないのです。

 その他、地球温暖化により気候が変動し、ハリケーンや降水量が増加しているという報道がなされたりします。でも、ハリケーン活動に何らかの変化が起きている証拠や世界規模で降水量が増加しているという証拠はありません。しばしば海面水位の上昇も採り上げられますが、過去50万年の間、水位が上がったり下がったりと同じパターンが繰り返されているだけです。

 地球温暖化」と聞いて慌てるのではなく、冷静に分析することが大切です。その武器となるのが「科学」です。こうしてみると、温室効果ガス排出量の高い目標でさえ一つの目安と位置付け、コストや経済政策とのバランスにもう少し目を向けることができます。(スティーブン E.クーニン「気候変動の真実」日経BP)

 地球温暖化を乗り越えるもう一つの「科学」は、科学技術です。日本のグリーン成長戦略に盛り込まれたグリーンイノベーション基金は、10年間で2兆円と限られています。日本の強みは地熱と洋上風力です。自然環境とのバランスを図りながら地理的制約を突破する技術開発に対し、集中的に投資していくことが求められます。かねてよりエネルギー資源の確保に苦しんできた日本の戦略力が試されています