レジ袋有料化でプラスチック問題を考える「プラス」効果とは

2020年8月24日(月)

 エンヴィです。

 

 7月1日からレジ袋が有料化されました。購入を控える人もいるでしょう。大切なのはみんなが環境問題に意識を向けることです。

 

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 実は、レジ袋の買い控えが環境に直接及ぼす影響は大きくないです。プラスチックの重量は元となる原油の約3%でしかありません。原油の8割は熱源や燃料として燃やされており、仮にプラスチックごみ全量を焼却処分したとしても3%分を上乗せするに過ぎません。地球温暖化を止める効果は小さいです。さらに、国内で出るプラスチックごみのうちレジ袋の占める割合は1.7%と微々たるものです。

 

 しかし、ごみ問題として捉えた時、プラスチックは厄介です。簡単に分解されず、処理コストがかかります。日本のプラスチックごみでリサイクルに回った242万トンのうち、国内のリサイクルに回されるのはたったの1割で、6割が輸出されています。「後のことは知らん顔」なのです。こうした現実を知らない僕たちも「ちゃんとリサイクルに出してます」と「知らん顔」なのです。果たして、プラスチックごみは適切に処理されているのでしょうか?

 今、海洋プラスチック問題が話題となっています。特に、日本近海のマイクロプラスチックの量は世界平均の27倍と、かなりの量が終結しています。正直、いい気はしません。ひょっとしたら、日本から輸出されたプラスチックごみが再生し、今度はアジア諸国のごみとして海洋に流れてしまっているのかもしれません。

 ただ、プラスチックごみの海洋への影響はよく分かっていません。推計によれば、99%が「ミッシング・プラスチック」と言われ、行方不明になっています。マイクロプラスチックのうち1ミリメートルより小さいと急激に数が減っていることから、理由として魚介類による摂取が示唆されています。

 衝撃だったのは、人間の口にも入っていることです。欧州消化器病学会より、日本を含む8か国の計8人の便を調べたところ、10グラムにつき20個のマイクロプラスチックが見つかったという発表がなされました。プラスチック自体は消化されず便として体外に排出されますが、付着する有害物質による影響は未知です。(保坂直紀「海洋プラスチック」角川新書) 

 

 こうして全体を見ると、景観を損なう、誤食した動物が他のエサが食べられない等により死んでしまうといった問題のほかは環境に対して甚大な影響が生じているとは言いがたいです。

 しかし、問題は人間には致命的な欠陥があることです。具体的には、ストレスに対する脳の反応に「限界」がある点です。人間は「今」の危機にすぐに反応できるようになっています。コルチゾールというホルモンが放出がなされ、「逃走」できるよう進化してきたからです。でも、慢性的なストレスに耐えるほどには進化していません。むしろ、日々蓄積していく問題に対して脳がストレスとして感じないよう働くメカニズムがあるのです。(ジョン・メディナ「ブレイン・ルール」東洋経済

 そして、人類が作り出したシステムが生命を支える自然システムを侵す「人新生時代」の危機は、人間の感覚で捉えるのに適当なサイズ感でなく、神経系にまで届かないようになっています。例えば、体内に有害な工業化学物質が一生分蓄積されたとしても、身体に負荷がかかっていると気づかないことになるのです。(ジョン・ブロックマン「天才科学者はこう考える」ダイヤモンド社

 

 「解決しようがないな」と思われた方もいるかもしれません。しかし、人間の強みは、テクノロジーで問題を乗り越えてきたことです。他の動物種には無い「特権」です。「ギブズ展望」という考え方があります。これは、生態系を、エネルギーを活用するための反応と経路の展望としてマップ化するという考え方です。僕たちが作ってきたシステム全体を精緻に眺めていくと、ひょっとしたら、現代テクノロジーや産業の生態系によって解決できる領域が見えてくるかもしれません。

 例えば、ペットボトルごみのリサイクルに必要な処理コストを料金に上乗せします。水だと1本だいたい100円ですから、思い切って300円に設定してはどうでしょうか。そうすれば、買い控えが生じて自宅から水筒を持ってくるようになるかもしれません。リサイクル産業は発展するかもしれません。

 

 こうした解決策が見つかるまでは、レジ袋の使用を控えるなど、その行為自体に意味づけをしていくことが大事です。「集合行為論」といって、一人一人の努力の効果は小さく見えづらいため、みんなの協調を得るのはとても大変です(夫馬賢治「データでわかる2030年 地球のすがた」日経プレミアシリーズ)。でも、僕たちには成功体験があります。新型コロナウイルス感染症への対応がそれです。みなさんが適切に行動した結果、いったんは感染者数が激減したことを忘れてはなりません

 将来に思いを致すことができる「特権」があるのも人間だけです。「人新生時代」の人類はこれまで想定してきた枠を超える存在になることでしょう。