大惨事を防ぐための「砂」のトリセツ!

2021年9月6日(月)

 エンヴィです。

 

 菅総理大臣が退陣を表明しました。総裁選や総選挙のカードをちらつかせながらのあっという間の崩落でした。振り返れば、コロナ禍の厳しい局面で、そもそも短命に終わるとは予想されていました。「砂上の楼閣」だったのかもしれません。

 6月24日に発生したアメリカ・フロリダ州のマンション崩落は、「砂」そのものが問題だった可能性があります。死者数は98名に上りました。事故の原因は分かっていません。手抜き工事や地盤沈下の可能性が指摘されていますが、コンクリートにひびが入るなどして建物が老朽化していた可能性もあります。

 コンクリートには非常に細かい穴があります。ここから水が浸み込んでひびが入ったり、大気中の塩分によって内部の鉄筋が腐食したりするリスクがあります。これから数十年のうちに、全世界で粗雑なコンクリート1000億トンを交換する必要があるとされています。怖いのはコンクリートの素となる「砂」が世の中から無くなることです。そうすると、質の低い砂が出回るようになり、将来の大惨事につながるおそれがあります

 

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 空気と水を別にすれば、「砂」は人類が最も利用している天然資源です。消費量は年間約500億トンと推定されており、この20年間で5倍に増えました。その7割が建設用コンクリートに混ぜる骨材として使われています。アスファルトやガラスにも使われています。大量消費の象徴として、経済成長に伴う中国やアジア諸国における建築ラッシュ、828mの高さを誇る「ブルジュ・ハリファ・タワー」をはじめとするドバイの人工空間が挙げられます。東京でもオリンピック関連施設やタワーマンションの建設が続きました。

 コンクリートだけではありません。人類は1985年以降、1万3566平方キロメートルの人工地を世界中の沿岸に追加しています。その大部分が「砂」です。シンガポールは独立以来、砂を大量に輸入して国土面積を25%拡張しました。中国は南沙諸島西沙諸島を砂で埋めて新たな領土を造成しています。日本でも東京湾臨海部や関西国際空港等が挙げられます。

 

 今や、砂の市場規模は世界で約700億ドル。国際貿易は毎年5.5%の勢いで成長しています。日本はピーク時の3分の1とはいえ、2019年には125万トンの砂を輸入しています。輸入先はオーストラリアが75%です。和歌山県白浜の白砂もオーストラリア産です。気になるのは、取引の総額が急上昇していることです。世界中で砂を取り合うと、国家経済に打撃を与える可能性があります。 

 砂なんて砂漠にたくさんあるじゃないかと思うかもしれません。ところが、砂漠の砂は細かすぎる上、角が無いため砂同士が絡み合うことができず、コンクリートの骨材には向かないのです。シェールオイルの採掘に使用される「フラックサンド」の粒は、これとも違っていて、非常に大きな圧力に耐え、かつ、すき間に入るだけの小ささと丸みが求められます。一口に「砂」といっても一様ではないのです。

(ヴィンス・バイザー「砂と人類」草思社

 

 このように、砂は重要な資源なのですが、合法的に取引されているのは150億トンに過ぎず、闇市場では年間1000億ドルが動いているとされています。しかも、砂を違法に採掘・売買する国は70か国に上り、「砂マフィア」も暗躍しています。(石弘之「砂戦争」角川新書)

 国際的な取り決めが必要です。特に採掘は規制されるべきです。自然環境破壊の側面があるからです。例えば、世界中で砂浜が無くなりつつあります。波によって浸食される上、大規模な沿岸開発や河川ダムの建設によって、海や川の上流から砂が補給されなくなっているからです。砂浜は、嵐や海面上昇から人々の命や財産を守る防波堤ともなります。このため、砂浜を復活させる「養浜プロジェクト」が進められています。日本でも、昨年7月から千葉の九十九里浜で海岸幅40メートルを維持していくための事業が始まりました。30年間に及ぶ壮大なプロジェクトです。(Wedge July 2021)

 

 「砂」の適正使用は待ったなしです。2002年に建設リサイクル法が施行されました。これは、解体、新増築、修理等に伴って発生するコンクリート等の再資源化を義務づけたものです。同法によって、コンクリート廃材の資源化率は65%から99.3%に上昇しました。

 今後はさらに一歩踏み込んで、砂の新規使用を減らすべきです。新築に使用する材料に占める廃材の割合を増やすのです。このため、既存のインフラに使用されている砂に関するビッグデータを構築します。この時、築年数と劣化状況のデータも集めます。そして、これらの砂を再利用する際には、それぞれの質に応じて適切な場面で使用するようマッチングを行うのです。こうした緻密な努力が、「堅固な楼閣」を提供することにつながるのです。