「ブルークライシス」~気候変動が海を襲う!

2021年11月8日(月)

 エンヴィです。

 

 グレタ・トウンベリさんが、国連機構変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を「失敗」と批判しています。偽善の「祭典」は要らないというわけです。その一方で、評価できる動きもあります。コスタリカパナマなど太平洋に面する中南米4か国が巨大な「海洋保護区」を作ることを宣言しました。乱獲に対し、生態系の維持を打ち出したのです。そして今、母なる「海」が温かくなっているのをご存知でしょうか?このままだと海は「死のスープ」となるかもしれません。その変化は深いところで目に見えない形で進行しています

 

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 海は、人の活動によって発生した二酸化炭素の大半を大気中から取り除くという大きな貢献をしています。具体的には、温室効果ガスによって地球システム中に蓄えられた余剰熱の93%が「海」に吸収されているのです。「陸」が引き受けているのはわずか7%なんです。この結果、海面温度は過去40年間、10年当たり0.11℃の速度で上昇しています。

 海が温かくなるとどういうことが起きるでしょうか?海の生態系に影響が生じます。例えば、魚類にはそれぞれが好む水温域があります。このため、魚類の分布が移動することになります。クロマグロの仔魚の生育に適した水温は24~28℃とかなり狭い範囲です。ただでさえ乱獲によって減少傾向にあるとされているクロマグロですが、このままだと生息域が限られ、絶滅に向かうおそれがあります。ホタテガイは成貝が23℃まで、稚貝が20℃までが適当な水温とされています。コンブは暑さが苦手な海藻です。国内で漁獲されるコンブは9割以上を北海道が占めています。出汁にも使われるコンブがとれなくなると、海の「スープ」は味気無くなるでしょう。

 このように、海水温度の上昇は、海洋生物の分布域に影響を与えます。現在、その最前線は、高緯度方向へ10年あたり平均72±14㎞ずつ前進しているとされています。もちろん、このため資源が増加する地域もあるでしょう。サケの場合、北へシフトすることによって日本での漁獲量は減少しますが、ロシアでは急増しています。食卓に並ぶ魚介類が大きく様変わりすることになるでしょう。(山本智之「温暖化で日本の海に何が起こるのか」講談社

 

 もう一つ怖いのは、海の「酸性化」です。二酸化炭素は水に溶けると酸性に導きます。海の「酸性化」は違った様相を見せます。植物プランクトンは増えるものもあれば減るものもありますが、全体的にサイズが小型化していきます。そうすると、大型の魚へ運ばれる栄養が今よりも少なくなります。また、サンゴ礁、貝類、カニ類の殻は石灰質でできています。つまり、「酸」に弱いのです。すると、形状を正常に保つことが難しくなります。さらに、稚魚の生存率や魚の感覚神経への影響も指摘されています。

 既に日本近海では酸性化が進んでいて、海水のpHが低下しつつあります。貝殻は薄くなり、稚貝の段階から捕食されやすくなります。マダイは孵化率が低下することが実験によって確認されています。ウニも幼生が小さくなるとされています。将来のお寿司屋さんでみるネタのサイズは小さくなることでしょう。

 こうした温暖化と酸性化は、「海の熱帯雨林」と呼ばれているサンゴ礁に多大な影響を与えますサンゴ礁は地球表面積のわずか0.1%しか占めていませんが、9万種を超える生物が暮らしている「竜宮城」です。サンゴは生きていく上で必要な栄養の大部分を、体内で共生している褐虫藻から得ています。ここに高水温などのストレスが加わると、褐虫藻が失われ「白化現象」が起きます。また、海水温が上昇して幼生が遠い海域へ拡散しにくくなれば、サンゴ礁どうしによる競合が生じます。そもそも、水温上昇によって幼生の死亡率も高まります。気候変動に関する政府間パネルIPCC)の2018年特別報告書によると、世界の平均気温が産業革命前より1.5℃上昇するとサンゴの生息域は70~90%が消失し、2℃だと99%以上に至るとしています。日本でも、温暖化と酸性化のダブルパンチによって、サンゴの生息域は2060年代には九州~四国沖の一部海域に縮小し、2070年代には近海から消滅するとされています。

アンドレス・シスネロス=モンテマヨールら「海洋の未来」勁草書房

 

 地球温暖化について、懐疑的な意見を述べる人もいます。しかし、こうしている間にも海の温暖化と酸性化は静かに進んでいます。むしろ、もっと進んでいてもおかしくなかった大気中の温暖化を、「母なる海」が引き受けてくれていたのです。

 病気も気づいた時には手遅れということがあります。今、「海」から発せられているメッセージは、将来の危機を教えてくれる「検診結果」なのです。僕たちは、改めて「海」に対し感謝の念をもって、守ることを考えなくてはならないのです