笑う富裕層と搾取される労働・消費者。格差解消の方法はあるのか?

2022年12月19日(月)

 コノミです。

 

 今年もいろんなことがありました。一番衝撃を受けたのは安倍元首相の銃撃事件でした。直接の動機は統一教会との関係です。このため、その後の参議院選挙で大勝したはずの自民党の動揺が収まりません。でも、本当に目を向けるべきは、根底にある格差の問題です。経済的困窮は「救済」を求めるからです。このままだと、同様の惨劇が起きかねません。

 

 「新富裕層」が増えていますアベノミクスの恩恵を受けた人もいます。株式や暗号資産への投資に成功した人がそうです。彼らにとって、税金のかからないドバイへの移住が人気のようです。軽いですね。

 波に乗れた人はいいですが、乗れなかった人はどうなるでしょう。その人たちの不満は他人に向かいます。欧米では移民や外国籍企業がターゲットです。こうしたやるせない雰囲気が、トランプ大統領やイギリスのブレグジットを生み出しました。統一教会が隠れ蓑になっていますが、安倍元首相の事件もその一環です。

 

 世界にはダボスマン」と呼ばれる億万長者がいます。世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席するために、毎年、スイスのダボスに集まる人たちです。名付け親は政治学者のサミュエル・ハンティントンです。彼らの影響力は政治の世界にも強く及び、先進経済諸国のほとんどで圧倒的な力を持ちます。ダボス会議には選ばれた政治指導者も参加します。トランプ大統領習近平国家主席も、そして安倍元首相もダボスでスピーチを行いました。

 彼らの仕事のジャンルは、金融、投資ファンド、不動産、IT、自動車、製薬と多岐にわたっています。共通している点は、ロビー活動により多額の納税義務を免れていることです。個人資産はタックスヘイブン租税回避地)に貯め込んでいます。その一方で、圧倒的多数の労働者を酷使し、圧倒的多数の消費者の支持を得ています。成功者は羨望の的なのです。でも、消費者は労働者でもあります。どちらの側でも搾取されているのです

 

 分かりやすい例がアマゾンのジェフ・ベゾス氏です。アマゾンの提供するオンラインショッピングの恩恵を受けている人は多いでしょう。でも、裏方は大変です。本国アメリカの倉庫内では低賃金の労働者が働いています。需要はどんどん増えています。新型コロナウイルス感染症はオンラインを加速させました。しかし、作業現場ではマスクも消毒液も供給されず、感染が拡大しました。また、パンデミックにつけ込んで、食材や粉ミルクなど生活必需品の販売価格を吊り上げたと非難されました。ベゾス氏の純資産は2000億ドルを突破しています。

 「ダボスマン」は、新型コロナウイルス感染症というピンチにも見事に「対処」しました。アメリカで成立した「CARES法」は救援パッケージです。内容は失業手当や給付金、学費の負債を抱える従業員を支援した企業に対する税控除などで総計6000億ドル以上になります。ところが、パッケージのコアな部分は大企業向け支援です。その額は5000億ドルにのぼります。(ピーター・S・グッドマン「ダボスマン」ハーパーコリンズ・ジャパン)

 

 

 こうしたことは日本では起こらないのでしょうか。世界と比べると日本の経済格差は小さいです。でも、やっぱり経済界の声は大きいです。新型コロナウイルス感染症では、「命か経済か」という議論が繰り返されてきました。今や後者が優勢です。でも、日本の富裕層が税金をしっかり納めてくれれば政府の財政負担は変わってきます。平時からの医療体制も充実するでしょう。緊縮財政をやめて国内投資を進めることもできるのです。未来に希望が持てるのです。(田村秀男「日本経済は再生できるか」ワニブックスPLUS新書)

 そして、怖いのは、放っておくと格差は拡大するということです。歴史を振り返ると、技術革新のスタートダッシュに成功した国は、その後も有利な世界を築いていきます。自分たちに有利なルールを作るからです。「ダボスマン」を見ていると納得できる話です。(オデッド・ガロー「格差の起源」NHK出版)

 

 格差を解消する方策はあるのでしょうか?手っ取り早いのは税制改革です。累進性を強化し、所得の再分配を確実に行うことです。バイデン大統領が進めようとしている法人税率の世界標準設定によって、タックスヘイブンを無くすという先回りも必要です。こうして財源を手にしたら、ベーシックインカムを検討しましょう。

 富裕層からの搾取を防ぐことも重要です。イギリスにあるプレストン市では、市の公共機関が地元企業との取引を増やすようにしています。消費活動が市内に留まるようにしているのです。日本では東京など大都市に人が吸い寄せられ、過剰な労働力を提供しています。これでは一人当たりの生産性は上がりっこありません。地域で産業を回すことで、自身の価値を見出すことにつながるのです。