「運動脳」じゃなく、「運動したくなる脳」をください!

2022年12月12日(月)

 ハルです。

 

 サッカーのワールドカップが盛り上がっています。次の月曜には優勝国が決まります。寝不足続きの方も多いのではないでしょうか。

 サッカーに限らず、トップアスリートのプレーを観ていると、「頭いい!」と思う時があります。彼らが勉強に専念していたら、すごい成績を上げるはずです。

 

 

 運動すると脳の働きが良くなります。「運動脳」です。脳には1000億もの細胞があり、お互いのつながりの総数は100兆にのぼります。このネットワークがフルに機能すれば、相当な威力を発揮するはずです。そして、運動がこのネットワークを強化するのです。

 具体的には「認知機能」と「記憶」に大きく関わります。運動すると、脳の前頭葉の血流が増加します。血液は脳に栄養を運びます。このため、「認知能力」がアップします。集中力も増します。脳には海馬という「記憶」をつかさどる部位があります。大きなストレスにさらされると海馬の細胞が死に、物忘れがひどくなります。でも運動すると、ストレスがかかっても海馬を殺す物質が減ります。持久系の運動をすると海馬自体が大きくなります。「記憶」がよくなるのです。

 さらに、有酸素運動でBNDF(脳由来神経栄養因子)という物質の分泌が増えます。BNDFは脳細胞を守り、細胞間のつながりを強化します。脳は25歳あたりから毎年約0.5%ずつ縮むのですが、運動が脳の老化スピードを遅らせてくれるのです。(アンデシュ・ハンセン「運動脳」サンマーク出版

 

 いいことづくめの運動ですが、残念なことに人間は運動するようには進化してきませんでした。むしろ、「ぐうたら」でいられるように進化してきたのです。

 入手できるエネルギーも利用できるエネルギーも限られています。そして、健康を犠牲にしてでも優先されるのは「繁殖」への利用です。人間の繁殖スピードはチンパンジーの2倍にもなります。ただし、エネルギーを入手しなければ、そもそも生き延びることはできません。だから、狩猟採集の時代に「走る」機能が進化しました。二足歩行も多数の特殊な汗腺も、頭部を安定させる項靭帯も、時間をかけてでも獲物をとことん追い詰めるために発達した機能なのです。

 今や、座っている時間が長い人が増えてきました。体を動かさないでいると、年を取るにつれてミスマッチがもたらされます。肥満、糖尿病、心血管疾患、アルツハイマー病、がん、免疫力低下・・・いずれも進化と現代環境とのミスマッチが原因です。

 仕事で座る時間が長い人の死亡率が高いというエビデンスまでは得られていませんが、不健康なライフスタイルは、先に挙げた疾患にかかる割合を倍増させます。たとえ長生きできたとしても不健康な状態が長く続くのです。

(ダニエル・E・リーバーマン「運動の神話」早川書房

 運動はこれらの問題を解決します。効果的な運動は「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」です。1日たったの4分✕週2回のトレーニングです。初心者は「その場かけ足」でも結構です。(田畑泉「世界標準の科学的トレーニング」ブルーバックス

 筋肉をつけると、筋肉から放出される物質(マイオカイン)が炎症を抑えてくれます。これも生活習慣病の予防を助けてくれます。ちなみに、最も体力のある集団の死亡率は、最も体力のない集団の4分の1です。運動習慣があると、新型コロナウイルスに感染しても入院集中治療を受けるリスクが半減します。

 

 

 ここまで書くと、「運動しなきゃ」と思うでしょう。でも、運動しなくて済むのならそうしたいはずです。エネルギーの無駄な消費ですし、それが苦しいことであればなおさらです。小学校で毎日マラソンをさせられた経験がトラウマになっている人も多いことでしょう。解決するには、「楽しい」と思える運動を探すしかありません。あるいは、自ら強制して運動せざるを得ない環境づくりを進めるしかありません。 

 例えば、ゲームマーケットのように、レーニングの見本市を開いてはどうでしょう。そこでは、魅力的なトレーニングのアイデアを結集させます。展示されたトレーニングに実参加すれば、参加者の電子マネーが加算されるなどインセンティブをつけるといいです。興味をひくトレーニンググッズを見つけたら、購入して自主トレに使ってもいいでしょう。

 逆にペナルティも欲しいです。スマホに万歩計のアプリをダウンロードしないとギガが使えないという設定した上で、目標とする歩数に達しなかったらスマホのギガを減らすこととしてはどうでしょう。もう頑張るしかないですよね。駅ではエスカレーターじゃなく階段を選ぶようになるでしょう。もちろん、障害のある方のペナルティは免除しなくてはなりません。

 日頃のクセをつけることで、身体活動を当たり前にするのです。「運動したくなる脳」の完成です。みんなで元気に長生きしましょう。