「温暖化の罠」~温暖化対策がさらなる温暖化を招く!

2023年7月31日(月)

 エンヴィです。

 

 7月の世界平均気温は観測史上最高になるそうです。国連のグテーレス事務総長は「地球沸騰化」時代が来たと言っています。それ以上に「沸騰化」しているのが、温暖化対策をめぐる覇権争いです。世界の緊張感が高まっています。

 

 日照りや長雨があると農・漁業の生産性は落ちます。従事者の収入は減り、食料価格は上昇し、人々の生活は悪化します。このため、紛争リスクが上昇します。サハラ以南では気温が1℃上がると内戦が4.5%増加するとされています。(関山健「気候安全保障の論理」日本経済新聞出版)

 別の形によるリスクもあります。北極圏の温暖化は他の地域の4倍速で進んでいます。氷が解けることによって、航路、石油・天然ガス、漁業などに新たな利益が生まれます。ロシアは北極圏を戦略的に重要な地域と位置づけ、冷戦後に放置された基地を再整備しています。ここでも緊張が高まります(石原敬浩「北極海PHP新書)。

 

 温暖化対策の急先鋒はEUです。排出量取引制度の拡大、自動車のCO₂規制、国境炭素調整措置、再生可能エネルギーの普及を進めています。

 でも、綺麗ごとばかりではありません。EUには、域内企業に好ましい競争環境を整備することで、世界で戦える大企業を育てようという魂胆があります。「タクソノミー」はその一例です。持続可能の基準をはっきり示し、ESG詐欺まがいの商品やサービスを排除するのです。こうして、EUが打ち出す厳しい基準を世界の企業が追従し、やがてそれらが国際標準となっていきます。

 国境炭素調整措置は、環境規制の緩い国で作られた輸入品に事実上の関税をかけるしくみです。中国や日本の製品を締め出すねらいがあります。

(竹内康雄「環境覇権」日本経済新聞出版)

 

 このように温暖化対策は経済戦の様相を帯びています。この争いは、EU・米国、中国、インドを中心に繰り広げられます。もし戦争が起きれば、資源は使い尽くされ、温暖化は止まりません。そうでなくても、脱炭素社会では、EVや太陽光発電で強みを持つ中国がトップに立ちます。こうした技術力は軍事力に転用され、安全保障上の脅威は増します。(杉山大志ら「『脱炭素』が世界を救うの大嘘」宝島社新書)

 

 鍵を握るのは、地政学的に近い日本です。日本の武器は、次世代技術と期待される水素です。小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉で水素を製造すればコストを下げられます。その上で、EUとパートナーシップを組むことがポイントです。EUの描く覇権構想に日本も売り込みをかけていくのです。

 温暖化対策は重要です。でも、ただ追い求めるだけでは、かえって世界に緊張を生み、温暖化を加速させることにつながってしまいます。気候変動リスクがもたらす安全保障に対し、視野を広くし、戦略的な技術開発と国際連携を進めるべきです。