2023年11月13日(月)
レーブだ。
マイナンバーが炎上中だ。3月、横浜市の住民がコンビニで住民票の写しを取得しようとしたら別人のものが出てきた。カード取得最大のメリットとうたっている健康保険証機能「マイナ保険証」にいたっては8000件を超える誤登録が見つかった。このため、政府が総点検を行ったところ、案の定ひも付けミスが見つかった。
マイナンバーカードには、運転免許証、医師や看護師などの国家資格証、母子健康手帳などの機能が追加される。様々な民間サービスも接続される。便利な反面、つなぎ目が多くなり、不正アクセスのリスクも高くなる。(萩原博子「マイナ保険証の罠」文春新書)
まずは信頼回復が大事だ。その上で、カード取得のメリットがもっと強調されてもいい。その一つが労働保険だ。今後、日本の雇用市場はより流動的になる。職場が変わるごとに煩雑な書類手続きが発生していてはかなわない。こういう時こそ、デジタルの出番だ。
労働保険には労災保険と雇用保険がある。労災保険は業務中・通勤中のケガや病気などに対応するもの、雇用保険は失業給付や育児・介護給付など雇用の継続を支えるものだ。労災保険は全ての従業員が対象となる。アルバイトや外国人労働者も例外ではない。一方の雇用保険は一定の労働時間等の要件を満たす必要がある。
労災と聞いて、転倒などによるケガを思い浮かべるかもしれないが、現在は適用が広がっている。長時間労働による脳出血や過労死、ストレスによるうつ病などがそうだ。つまり、労災は誰にでも起こり得る。
指定病院で治療を行う場合、病院窓口で手続きが必要となる。氏名、住所、生年月日等の個人情報を記入する必要がある。そして、いったん治療費全額を立て替え、その後、返金してもらうため、労働基準監督署に費用請求書を提出する必要がある。ここでも同じ情報を記入する。雇用保険も同様だ。給付金の申請書に氏名等のほか、振込先指定口座を記入することとなる。一言でいうと面倒くさい。(片桐めぐみ「ひとりでもすべてこなせる!小さな会社の社会保険・労働保険」ナツメ社)(山下慎一「社会保障のトリセツ」弘文堂)
このほか入社時には、健康保険、厚生年金等の手続きも必要だ。同じ情報をいちいち記入するのは面倒だし、記入漏れも発生する。職場が変われば同じことの繰り返しだ。こうした手間が、マイナンバーカードによって省略できると大きい。
国はこうした最終イメージをきちんと提示しなくてはならない。だから、メリットが伝わらない。提示しないのは自信が無いからか。だが、マイナンバーカードの普及を進めると決めたからには、腹を括ってイメージに沿った制度設計や改善を進めるべきだ。もちろん、セキュリティに万全を期すことは言うまでもない。こうした努力のはてに、真の生産性の向上が待っている。