クマ被害発生中!人は野生動物と共存できるか?

2024年2月5日(月)

 エンヴィです。

 

 国内のクマ被害が増えていますNHKによると、今年度(4~11月)の被害者は211人でこのうち6人死亡と過去最悪を記録しています。ここまで被害が増えた原因は何でしょうか。対策はあるのでしょうか。

 

 被害増加の原因として、地球温暖化やハンター減少を挙げる声がありますが、いずれも説得力を欠いています。本質的な原因は、クマも含め野生動物が増えたことです。

 実は、高度経済成長を経て、国内の野生動物の生息環境は悪化の一途をたどっていました。1970年代は、やがて絶滅すると悲観されていました。このため、狩猟規制が行われ、野生動物の保護が進みました。

 結果は見事に現れました。シカの生息数が増加したのです。でも今度は、彼らが山中の草木を食べ荒らしたため、クマはほかに餌を求めつつ、次第にシカを襲うようになったのです。こうして、その数を増やしていったのです。

 

 もう一つは里山の荒廃です。都市部周辺では若者が減り、農地や森林の管理が難しくなりました。その分、野生動物は生息域を広げます。人とのパワーバランスが成立する防衛ラインは里山から都市に近づいたのです。札幌では住宅街にヒグマが出没し、大騒ぎになりました。(田口洋美「クマ問題を考える」ヤマケイ新書)

内山岳志「ヒグマは見ている」北海道新聞社より

 対策は困難です。山に戻しても何度も出没する「問題クマ」は駆除するしかありません。一方で、動物愛護の意識も高まっています。札幌市に寄せられる声の6割は「ヒグマがかわいそう」というものです。でも、仮に麻酔銃を使ったとしても、麻酔が効くまで早くて15分、遅いと3時間半もかかります。その間、人が襲われるかもしれません。現実は厳しいのです。(内山岳志「ヒグマは見ている」北海道新聞社)

 「ワイルドライフ・マネジメント」という考え方があります。調査・研究に基づき、生息地や個体数を管理しながら人と野生動物の共存を図る試みです。例えば、固定カメラで撮影した野生動物をAIに学習させ、問題行動をとる動物を特定したり、生息数を把握したりすることが考えられます。全体バランスのコントロールにつながります。

 

 そもそも、都市部の住民は野生動物に関する知識がなく、対応の仕方を身に付けていません。しかも、動物のキャラクター化は人の警戒心のハードルを下げます。ペット犬に対する姿勢をそのまま当てはめ、野生動物にも「心」があると想像しがちです。でも、安易なエサやりは、彼らを引き寄せるリスクを生みます。専門人材を育成し、普及啓発を行うべきです。(田中淳夫「獣害列島」イースト新書)

 これからも野生動物との遭遇は増えるでしょう。だからといって、根絶していいものではありません。やむを得ない場合の駆除も許容しつつ、常に生態系のバランスを考えることが必要です。