「究極の医療」はどこへ向かう?鍵を握る医療保険制度

2019年4月8日(月)

 ハルです。

 

 春です。今シーズン、鼻や眼は大丈夫だったでしょうか?昨夏の猛暑のせいか、例年よりも多く花粉が飛散して、今年初めて花粉症になった方も多いと聞いています。その花粉症でさえ、現在、研究開発が進められている「再生医療」で治る可能性があります。

 

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 再生医療は、低下した身体の組織・臓器の機能を再生する医療です。2012年に京都大学山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したことで注目を浴びました。山中教授らが作ったのはiPS細胞と呼ばれるものです。

 

 再生医療の主役は、自ら増殖することのできる「幹細胞」と呼ばれる細胞です。幹細胞は以下のとおり分類されます。また、細胞を使わないケースや遺伝子治療を組み合わせる手法もあります。

 

①組織幹細胞(体性幹細胞、成体幹細胞)

 ~皮膚、血液など特定の細胞だけを増やす。骨髄移植など実績がある。

②多能性幹細胞

 ~どの細胞にも化けられる。ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞が該当する。

   (上田実「驚異の再生医療扶桑社新書

 

 再生医療は、先に挙げた花粉症などのアレルギー疾患のほか、がん、糖尿病、心不全、腎不全、脳梗塞、角膜などの眼の病気、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、パーキンソン病アルツハイマー認知症といった難病、関節リウマチなど、たいへん幅広い病気に対する効果が期待されています。

 さらに、患者の細胞を採取して試験管の中で「病気の細胞」を作り出し、最適な薬を探すこともできます。実現すればまさに「究極の医療」と言えます

 

 私はフィナ。気持ちは分かるわ~。でも課題は山積みね。細胞増殖が暴走しちゃって逆にがんなってしまう危険性があるわ。倫理的問題が指摘されているものもあるようだし・・・。特許をどうするのかっていう課題もあるわ。

 

 そもそも研究開発には時間がかかるわ。2014年に施行した再生医療等安全性確保法等によって再生医療技術が早く承認されるしくみが整えられたようだけれど、研究開発には数年から10年単位の期間を見込んでおく必要があるの。それに伴って費用もかかるわね。

 

 もう一つは、承認されたとしても患者の金銭的負担が大きいことね。医療ってお金がかかるじゃない。日本は医療保険制度があって、医療機関の窓口で払うお金は少なくなるからあまり気にならないけど。

 でも、再生医療はそうはならないわ。だって、保険の対象にしちゃったら、みんながばんばん使うことになって国全体の医療費がますます増えちゃうわ。そうしたら、その分だけ、普段払っている保険料の値上げは確実ね。だから、再生医療は原則全額自己負担になるわ。

 

 だとするとお金がモノを言うわ。お金持ちはお金をかけて身体のメンテナンスをどんどんしていくの。そうでない人は現状のまま。寿命の長さも含めて人類が2種類に分かれていく気がするわ。(ユヴァル・ノア・ハラリ「ホモ・デウス河出書房新社

 

 ハルです。ご懸念はごもっともです。研究開発については国の補助金など費用を増やすことで解決したいです。医療分野における日本の研究開発予算は約2000億円です。かたやアメリカは国立衛生研究所(NIH)だけでも260億ドル(2兆8000億円)と14倍の開きがあります。まだまだ予算投入の余地があると思います。(佐藤正人「日本における再生医療の真実」幻冬舎ルネッサンス新書

 一方で、再生医療は従来の医薬品とは異なり製造プロセス等が複雑なことから、製薬企業以外のメーカーにもチャンスはあります。門戸を広げる視点も大事です。(2019.3.12「エコノミスト」)

 

 医療費の問題についてはそれこそ医療保険制度をうまく活用するべきです。「先進医療」という仕組みがあります。これは、一定の評価を受けた先進的な医療技術について、保険給付を併せて使ってもよいとする仕組みです。再生医療技術を「先進医療」に位置づけて、保険診療部分は保険給付とすれば、全体で見て患者の自己負担額は減ります

 

 フィナよ。でもそれでは医療費高騰の問題は解決できないわ。ある程度でも保険が効くのなら再生医療を使っちゃうかも。年間3500万円もかかるって話題になった肺がんの薬オプジーボ(一般名;ニボルマブ)も結局半値にされちゃったわよね。覚えてる?

 

 ハルです。もちろん覚えてます。そこで提案です。患者の自己負担のうち一定部分を保険財源に回してもらうのです。その割合は、先に述べた研究開発予算投入分も加味して、国の医療財政を支えられるレベルに設定することです。

 このように制度にしっかり組み込むことで、財源問題にも対応しつつ再生医療を推進することができます。また、効果があるかどうかはっきりしない「なんちゃって再生医療」は先進医療の評価対象にならないでしょうから、これらを淘汰することにもつながります。

 

 フィナよ。そううまくいくかしら?日本の財政が厳しい中ではやっぱりお金の問題が優先するわ。

 

 ハルです。関係者の調整は容易ではないでしょう。しかし、仕組みを整えていくことで「究極の医療」を迎え入れることが現実味を帯びてきます。

 

 でも、治るから不摂生をしてもよいということにはなりません。病気を早期発見することによって治癒の確率を高められるという点は今と変わりません。また、できる限り医療のお世話にはなりたくないものです。健康診断や病気予防に関する日々の取組の意義は失われないどころか、病気が治癒する可能性が高まることによって、かえって大きなものとなるでしょう