コロナが変える医療の「カタチ」・・・それは、医療資源「増」ではない

2023年4月17日(月)

 ハルです。

 

 15日、和歌山県にある雑賀崎漁港で、岸田首相が襲撃を受けました。首相は無事でしたが、安倍元首相の銃撃に次ぐ卑劣な行為にショックです。容疑者は24歳と若いです。何が彼を動かしたのでしょうか。背後に日本の将来への隠れた不安があると考えます。ひょっとしたら、不安の原因の一つは新型コロナでしょうか。

 

 その新型コロナウイルスが、5月8日から感染症法上の5類感染症に区分されます。季節性インフルエンザと同じ区分です。3年もの間、人々を不安状態に陥れた今世紀最大級の事件が終焉を迎えます。同時に、未知の感染症に備えた体制づくりが始まります。

 まず、自治体の体制が変わります。昨年末の感染症法改正を受け、地域単位で必要な準備を行うこととなりました。医療機関のベッド確保もその一つです。さらに、政府中枢に感染症危機管理統括庁が設置されます。感染症の医療・研究の専門機関である「日本版CDC」も設置され、政策の専門性が高まります。これら一連の改革によって、全国的な感染症体制が敷かれることとなります。

 

 でも、十分ではありません。これらはいずれも「受け」にしか過ぎません。これから必要となるのは「攻め」です。ここからが正念場です。

 少し専門的な話をすると、ウイルスが体内に入ると、様々な免疫細胞がウイルスを攻撃します。ところが、免疫反応が激しくなると自らの体まで攻撃してしまいます。コントロール不能になるのです。このため、ステロイドを使って免疫反応を抑える治療が必要となります。

 医療機関の出番です。しかし、ベッドや医療従事者には限りがあります。このため、感染爆発が起きると「崩壊」します。「崩壊」を抑えるには、感染による重症化率が大きく低下するか、感染爆発が起きにくくすることが条件となります。前者に有効なのがワクチンであり、後者については行動の抑制です。もちろん、有効な治療薬が開発されれば、いずれの問題も解決です。(小野昌弘「免疫学者が語るパンデミックの『終わり』と、これからの世界」筑摩書房

 

 新型コロナはmRNAワクチンという新兵器を生み出しました。ワクチン開発は時間もお金もかかる一大事業です。病気でない人に投与するため、医薬品よりもはるかに高い安全性が求められるからです。承認を受けるまで6~20年かかります。

 ところが、mRNAはわずか1年で承認を受けました。設計が容易なのです。ウイルスの遺伝子情報さえあれば良いのです。今後もスピーディな承認が期待できます。(田中道昭「モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか」インターナショナル新書)

 

 治療薬も同様です。「ハイスループット・スクリーニング」という技術を使えば何百もの化合物を数週間で試験できます。

 さらに、これからは、データベースの活用が決め手となります。ウイルスの遺伝子配列については、鳥インフルエンザ情報共有の国際推進機構(GISAID)などの国際的なデータベースが存在します。薬剤化合物の大規模ライブラリーも必要です。

 これらを用いて、既知のウイルスや他の病原体について、広い範囲で基礎研究を続け、備えておくことができます。加えて、患者カルテに標準形式を採用すれば、治験の参加者候補を見つけることが容易となります。デジタル基盤の構築は急務です。(ビル・ゲイツパンデミックなき未来へ 僕たちにできること」早川書房

 

 最後に「行動」です。新型コロナは、マスクの着用、アルコール消毒といった「習慣」を遺してくれました。基礎疾患が重症化につながることから、健康づくりの大切さも教えてくれました。各業界では、サーマルカメラやアクリル板の使用、デジタルによる遠隔行為が当たり前となりました。これらの実践は「見えない武器」となります。

 

 以上の「攻め」は、医療の崩壊を防ぎます。もっと言うと、医療の出番を少なくします。つまり、平時からの健康づくりや衛生的な行為、未知の感染症が発生した場合の遺伝子解析から始まる一連の研究開発によって、いたずらに医療資源を増やす必要はなくなるのです。

 コロナ禍終了後の今は、ベッドや医療従事者の確保など従来から行われている取組の強化が優先されています。これはこれで仕方ありません。しかし一方で、これからの医療の「カタチ」が変わることを認識しながら、真に必要な体制の確保に注力するほうが実は重要なのです。