私たちは「成長」というブラックホールに吸い尽くされるのか

2023年6月26日(月)

 コノミです。

 

 私たちは、経済成長に依存する仕組みの中で暮らしています。不況下では人々は仕事を失い、生活は破綻します。「成長」を欲する気持ちは理解できます。でも、「成長」は貪欲です。先進国は危険なステージに入っています。不平等が広がり、資源をめぐる争いは激しくなっています。

 

 成長には「罠」があります労働生産性を向上させると、その分の担い手が不要となり、失業者が増えます。そこで政府は新たな雇用創出のため、さらなる成長を求めます。資本主義はそのエンジンとなります。資本は持っているだけでは価値が下がるかもしれません。このため、投資家は資本を動かし続けます。世界経済は80兆ドル超の規模です。年3%の成長率を維持するには、2.5兆ドル相当の新たな投資先を見つけなくてはなりません。これは、毎年イギリスをつくるレベルです。必然的に人や資源を使い倒すことになります。

 テクノロジーやクリーンエネルギーでカバーできそうですが、成長は続きます。しかも、クリーンエネルギーには鉱物採取が必要です。「成長」というブラックホールには、なす術がないのです。(ジェイソン・ヒッケル「資本主義の次に来る世界」東洋経済新報社

 

 

 考えなくてはならないのは、成長に依存しない、安定した社会づくりです。政府、企業、市民のパワーバランスを再構築する必要があります。求められるのは企業のパワーを政府や市民に返すことです。

 まず、公共財へのアクセスの確保です。年金、医療、教育といった公共サービスを充実させることは、人々を「所得を増やさなければいけない」というプレッシャーから解放します。財源が課題ですが、皆で支え合うことが重要です。累進性をもっと高めてもいいでしょう。「最高賃金制度」は日本社会に割合馴染むかもしれません。

 併せて、労働組合の力を強くします。北欧では組合が失業保険の運営も担っているため、組合加入率は高いです。経営陣と従業員が一緒になって経営に関わり、歯止めのない成長を阻止することができます。

 タックスヘイブンへの移転利益を無くすための国際協調も必要です。経営者に、「儲けようと思ったらいくらでもできる」と思わせないことが重要です。

(アレック・ロス「99パーセントのための社会契約」早川書房

 

 最後に、民主主義の復権です。世界中で民主主義への不信感が強くなっています。民主主義を正しい方向に持っていく努力が必要です。一部の富裕層や支配者層に判断を委ねる社会は危険です。市民に「成長」劇を見続けさせることに腐心します。市民は観客ではなくプレーヤーとなるべきです。政府は企業から力を取り戻し、その手助けをしなくてはなりません。

 時間はかかるでしょう。でも、生態系が原生林の90%にまで自然回復するのに60年しかかからないそうです。地球から見れば、今からでも遅いということはないのです。