「記憶」のデフォルトは「いいかげん」。だからこそいい!?

2023年8月21日(月)

 ハルです。

 

 「最近、物忘れがひどいな」「人の名前が出てこないな」と思った経験はありませんか。ちょっとした物忘れ程度なら心配いりませんが、通名詞が出てこなくなったら深刻な問題です。認知症のはじまりかもしれません。

 記憶力は、今だけでなく将来の人生を左右する能力です。そのくせ、記憶自体はいいかげんです。そこには理由があります。

 

 記憶には、いくつかの種類があります。「マッスルメモリー」は、過去に習ったスキルを再現する能力です。集中的な練習の繰り返しが必要ですが、いったん身に付ければ簡単には忘れません。

 「ワーキングメモリ―」は、今行うことについて一時的に必要となる記憶です。本を読む際、読んでいる端から文章を忘れていったのでは全体を理解することはできません。作業をお手伝いする、そんな能力です。保持できるのは15秒から30秒。情報量もほんのわずかです。

 最後に長期記憶です。一般に「記憶」と言われるものです。脳に入力された情報が、海馬という部位を通して、神経活動のパターンとして脳のあちこちに分かれて貯蔵されます。一か所にあるわけではありません。

 そして、私たちは記憶を思い出すときは、これら分散した情報を寄せ集め、ストーリーを再構築します。再構築された情報は元の情報と同じではありません。改ざんされています。また、記憶はあっという間に忘れられます。20分経っただけで半数近くを忘れ、24時間後緩やかになり、約25%の記憶を保しながらほぼ横ばいになります。記憶は結構当てにならないのです(リサ・ジェノヴァ「記憶の科学」白揚社)。実際、脳内の信号伝達は、確率的に伝えることしかできず、時々間違えて伝えてしまうよう設定されています(櫻井芳雄「まちがえる脳」岩波新書)。

 

 でも、どうしてこんな、いいかげんな機能が設計されたのでしょうか。実は、完璧な記憶は、判断、統合、思考などには不向きです。「記憶の改ざん」のおかげで、これまでのやり方にこだわるのではなく、新しい情報の中から良さを取り入れることができるのです。この柔軟さが「記憶」の強みなのです。ちなみに高齢になると、悪いことを忘れる傾向があります。よくできていますね。(澤田誠「思い出せない脳」講談社現代新書

 

 以上の事実を踏まえながら「記憶」に向き合いましょう。まず、睡眠はしっかりとりましょう。睡眠中は外部からの情報がほとんど入ってこず、脳が記憶を整理する絶好のチャンスです。長期記憶が形成されます。スマホはほどほどにしましょう。おびただしい情報に無自覚に触れていると、脳内の情報処理作業が粗くなります。記憶力は落ちます。(林成之「図解 脳に悪い12の習慣」幻冬舎

 そして、他人のあいまいさを攻撃してはいけません。自分もそうなんだと意識して寛容さを持つことです。「柔軟さ」が脳の喜ぶ戦略なのです。