「人まね」がもたらす永遠のディストピア!

2023年10月9日(月)

 ソシエッタです。

 

 私たちが欲しがるもののほとんどは「人まね」です。フランスの哲学者ルネ・ジラールは「模倣の欲望」理論を提唱しました。人は他人が欲しがるものを欲しがり、そこから逃れるのは困難です。これから起きるのは、徐々に激しくなる果てしない競争です。

 

 アリストテレスは、高度な模倣力により人は新しいものを生み出すことができると考えました。「人まね」は社会を発展させます。

 私たちは無意識のうちにモデルを模倣しています。有名人のファッションや振る舞いをまねます。相手が雲の上の存在なら笑っていられるのですが、身近な存在だと穏やかでなくなります。同質な社会では、自分を他人と区別しようとします。似たような家や車を持っていても、高級感を出したり、オリジナリティを見せたりします。これが争いにつながります。(ルーク・バージス「欲望の見つけ方」)

 

 

 加えて、日本社会に危険な兆候が現れています。「将来に備えるよりも現在をエンジョイする」「ハンバーグや焼き肉が好き」「習慣やしきたりに従うのは当然ではない」といった、これまで世代間で差が見られた思考や価値観が似通ってきているのです。これは、「失われた30年」という変化の乏しい期間の共有による影響と考えられます。世代を超えて理解が深まりそうとも言えますが、「したい」ことの重なりが増え、競争が激しくなるおそれがあります。(博報堂生活総合研究所「消齢化社会」インターナショナル新書)

 

 ソーシャルメディアはこの風潮を加速させます。人々はフォロワー数など、さほど重要でないものを欲しがります。アテンション・エコノミー(注意経済)の世界では、企業は人々の「注意」を奪い合います。私たちは私たちで「差異化ゲーム」や「逆張り」を繰り広げます(綿野恵太「『逆張り』の研究」筑摩書房)。

 スケープゴート・メカニズムも働きます。「ちょっと違う」誰かを犠牲にするのです。公職にある人や有名人の何気ない発言が炎上します。「キャンセル・カルチャー」です。(橘玲「世界はなぜ地獄になるのか」小学館新書)

 危機管理にも影響が生じます。未知の危機には専門家の助言が必要ですが、新型コロナでも見られたように、最初は畏敬の念を持たれた専門家も、みんなの知識が増えていく中、発言内容が個人の「したい」を制限するものであれば、手の平を返したように攻撃されます。(牧原出ら「きしむ政治と科学」中央公論新社

 

 私たち一人ひとりの欲望が他人の欲望を作っていることを自覚しなくてはなりません。自分の欲望に向き合い、その目標が「人まね」なのか、これからの人生に本当に必要なものか、一度吟味して下さい。そうしないと、社会の分断が深まるばかりか、あなた自身、果てしない競争に巻き込まれ、消耗することになるでしょう。