経済的「嫉妬」が中間層を救う!?

2023年10月30日(月)

 コナミです。

 

 「還元」が必要と、岸田首相は1人計4万円の所得税・住民税減税の方針を打ち出しました。日本の中間層は厳しい状況にあります。中間層が沈むと社会不安は増します。かの福澤諭吉は『学問のすすめ』において、ミドルクラスの重要性を説きました。逆に中間層が浮上すれば社会は安定します。どうしたらいいでしょうか。

 

 ここでいう中間層とは全世帯の所得分布の中央値前後にある層を言います。全体の約6~7割に当たります。所得の中央値は1994年の505万円から2019年の374万円に激減しています。中間層は確実に貧しくなっているのです。

 これからの世代はどうでしょうか。20~34歳の人たちは、「親よりも豊かになれるか?」という質問に対し、34%が「豊かになれない」と回答しています。若者を中心に投資や副業など別収入を作る動きが広がりを見せているのは、将来への不安の表れなのです。(NHKスペシャル取材班「中流危機」講談社現代新書

 

 恐いのは、富裕層との経済格差による「嫉妬」です。「嫉妬」が大きくなると社会の分断が進みます。本来「嫉妬」は最もよくコントロールされる感情です。なぜなら、「嫉妬」を認めるということは、他人に対する劣等感を認めることになるからです。

 ではどうやって抑えるかというと、「お金持ちが成功したのは運が良かったから」、「悪いことをしているから」と自分を説得するのです。「世の中はお金なんかじゃない。もっと大事なものがある。」と考える方法もあります。こうした戦略を「補償戦略」と言います。

 「補償戦略」は重要です。所得格差が1対50や1対100もあったら、その国は繁栄できませんが、1対5や1対10程度の少しの格差はあったほうがいいのです。さじ加減が難しいですが、経済の活性化は必要です。

 ですが、もしも「嫉妬」が渦巻く状態となれば危険です。再分配を求める声が最も大きくなるのは、再分配すべきものがほとんど無くなってしまった時です。(ライナー・ツィテルマン「なぜ富裕層は嫌われるのか?」総合教育出版)

 

 現在、どの国も平等へ向かう長い学びの道のりにあります。鍵は富の再分配と「脱市場化」の拡大です(トマ・ピケティ「自然、文化、そして不平等」文藝春秋)。今のところ日本では「嫉妬」を抑えられています。でも、減税よりも、富裕層からの「還元」のほうが、岸田首相の支持率アップにつながったことでしょう。

 「脱市場化」の最たるものは社会保障です。その充実は必須ですが、手厚くすればするほど「自己責任」ではなく「システム責任」への意識が強まり、不満が政府にぶつけらるというパラドクスに陥ります。

 政府は経済的「嫉妬」を適確に捉え、施策に反映させなくてはなりません。これこそが資本主義を続けるための秘訣なのです。