安楽死法は日本で「成立」するのか?

2024年2月26日(月)

 ハルです。

 

 今月1日に開かれたALS嘱託殺人事件裁判で、検察側より被告医師に23年懲役の求刑が行われました。被告側は、亡くなった女性の選択や決定を尊重すべきと、無罪を主張しています。いわゆる安楽死の考え方です。

 安楽死のうち「消極的安楽死」は、死が避けられないと分かった時、いたずらに延命治療を施すのではなく、自分らしく尊厳をもって死を迎えられるよう自然に任せるものです。「尊厳死」とも言われます。薬物を用いる「積極的安楽死」とは異なります。

 条件付きで安楽死を立法化した国に、オランダ、ベルギー、カナダ、スペインなどがあります。フランスも検討中です。スイスやドイツ、アメリカのオレゴン州などは「支援自死」を立法化しています。

 日本では、嘱託殺人や自殺幇助は刑法により禁止されていますが、かねてより、法制化の議論も行われています。日本で安楽死は「成立」するのでしょうか

 

 

 安楽死の推進派は、人生の見通しに対する恐怖や苦しみからの解放を主張します。人生の終わりの瞬間についての選択も「生きる権利」の一部と捉えています。長寿社会となり、「生きる」の質が求められているのです。(盛永審一郎「安楽死を考えるために」丸善出版

 一方で、安易な安楽死への警鐘も鳴らされています。欧州倫理研究所は、医師らが安楽死を適正に報告していないとしています。カナダでは医療や福祉を十分に受けられない人たちの安楽死が医師らに承認されています。こうした議論には、医療など社会保障コスト削減の議論がつきまといます。今回のALS嘱託殺人事件でも垣間見られています。気になるのは、こうした動きが医療サイドから生まれていることです。

 もし、安楽死法が成立すれば、医療サイドの判断で一方的に治療を差し控えたり中止したりするおそれがあります。対象者も、終末期だけでなく、認知症患者、精神・発達・知的障害者へと拡大するおそれがあります。(児玉真美「安楽死が合法の国で起こっていること」ちくま新書

 

 機微な話です。日本での安楽死法の「成立」は困難を極めるでしょう。仮に法律ができたとしても、法の理念とかけ離れた運用がなされる可能性があります。この場合も「成立」とは言えないでしょう。

 これから身寄りのない高齢者が増えていきます。人生の最終段階の医療は、医療分野だけでなく、広く社会に関わる問題であり、私たちの価値観にも影響を与えます。一部の関係者にお任せではなく、社会全体で人生の最後について情報を共有し、もっともっと議論を重ねることが必要です。

 医療関係者の努力も大切です。医療現場はゆとりもなく大変かもしれませんが、一人ひとりの生死にリアルに向き合うことのできる職種は他にありません。養成課程の段階から医療倫理について語れるほど、倫理教育を十分に行うことが重要です。